第三十九話
「俺って剣に好かれないんだな…」
銃で敵を撃ち倒しながら誰に言うでもなく1人呟く。
六叉の鉾との仮契約を済ませた後、武器庫からは長銃を1丁と弾薬をしっけいして残りは爆破した。
あまり期待してはいなかったが、契約して認めてもらえなかったというのは2本目だけあって少しショックだったりする。
「主には合う剣じゃなかったというだけですよ。気を落とさないでください。」
「班長はそれで2本目でしたね。伝説級の剣を人とか…人を辞めてますね…」
「クソッ!とっとと依頼終わらせて帰るぞ!」
その後も敵の執拗な抵抗を跳ね除け、パンノニアのブリッジを目指して進んでいった。
走っているとやがて天井の高い広間のような場所に出た。中心のところが吹き抜けになっており、天井からは精緻なつくりをした、豪奢なシャンデリアが吊り下げられている。そこにはこまごまとした彫刻が沢山あつらえており、いかにも高級そうだった。
部屋の中央にソファがあり、そこに誰かが座っている。こいつもさっき使い魔で見た男と同じ見た目で黒いローブに気味の悪いドクロの様な面をしていて顔は分からない。
「戦闘中にティータイムとは余裕のようだな。」
「…お前か…話は聞いている。ソロモンの魔導書を返してもらおう。」
「なるほど、お前らイブリースの連中か。あれはあいにく手元にない。ま、あったとしても渡せるわけないんだが。」
「…ん…お前…何処かで…」
「俺の知り合いにそんな悪趣味な格好をしたやつはいない。」
「…確か…お前は…あの国の…」
「なるほど、お前には聞きたいことができた。」
「…まあいい…お前を殺した後ゆっくりと調べさせてもらう…」
「ヒルダ。クラムと一緒にブリッジに向かえ。こいつは俺が相手をする。」
「班長…」
「ブリッジを制圧したらミズキたちと合流して甲板のほうも片づけろ。俺はの事は気にするな。」
「はっ。」
返事をするとクラムとヒルダは通路の奥へと消えて行った。
「2人を行かせてくれるのか…見た目に似合わず優しいんだな」
「…あいつらがいない方が…話しやすい…」
「いらぬ配慮をどうも」
「…お前…剣をどうして抜かない…?」
「銃っていう一度楽なやり方を覚えるとどうもな」
「…なめていると死ぬぞ…!」
男はローブを手で翻すと腰に下げていた剣を引き抜くと5本を宙に浮かせ、やたらギザギザした剣を1本手に持った。
昔、こんな奴とも戦ったことがある。これを見るとその時の苦い経験がよみがえる。こいつの浮いている剣は恐らく今まで戦ってきた手練れの剣士との戦闘が記録されていて自動で攻撃してくるとかいうものだ。前回は剣で戦って疲弊したところを部下に囲ませて魔術による一斉射撃で殺した。
(ヒルダを行かせたのはマズかったかな…)
「召喚、黒騎士。そいつを殺せ」
呼び出された漆黒の甲冑を身に着けた騎士が剣や槍を構え、男を取り囲み一斉に槍を突き出し、剣を振り下ろす。
近づいた者から切り伏せられの闇の粒子となって消えていく。
「…下僕をいくら出したところで…俺は倒せんぞ…!」
「ふぅん。じゃ、こんなのはどうかな?」
肩に担いでいた長銃を構え、狙いを付けて引き金を絞る。弾丸は黒騎士の間を縫って男に向かって一直線に飛んでいく。が、男に弾が着弾するより早く剣が1本、射線上に入ると耳障りな金属音を立てて銃弾を真っ二つにする。
「…無駄だ…大人しくすれば苦しまずに殺してやる…」
「そう言うが防御ばかりじゃ、俺を殺せないぞ」
「…いちいちイライラとさせる…!」
男は黒騎士の攻撃を受け止めていた5本の剣を丁度、手裏剣のように身の回りで回転させると囲んでいた黒騎士を真っ二つにしに始めた。
「ちょっと、それは予想外だな。」
「…ウェルス…」
「ん?」
「お前を…殺す者の名だ…」
「そう易々と殺されてたまるか」
「…フッ…!」
ウェルスは短く息を吐くと剣を前方の黒騎士だけを倒すように剣を動かし、開いた突破口から俺に向かって飛びかかってきた。
右から、左から、時には真上から次々と迫る、迫る、迫る。
心臓を狙った突きを右にかわしたところで、視界の端で何かが右わき腹を狙って飛んでくるのを捕らえた。とっさに長銃を使って受け流す。今の一撃で長銃の銃身が歪み、このまま撃とうものなら暴発する状態になった。
「…ッチ…」
「蛇腹剣か…珍しい物使うな」
「…今の一撃を避けるか…」
「そろそろ、決着をつけるか。あいつらも心配になって来たし」