第三十七話
上空を見上げると一隻の飛行艇がこちらに砲塔を向けていた。わざわざ言うまでもないがあの艇が撃ってきたのだろう。艦種は先程から戦っている飛行艇と同じ改良の加えられた中型艦パンノニアだ。
「敵艦高度を下げています!」
「乗り込んでくるつもりか…魔導炉の修理には最低限の人数で当たれ。他は乗り込んでくる敵の迎撃だ!」
「敵艦が真上に!」
敵の飛行艇が姿を現した。こちらにのしかかるようにして船体を寄せて来る。たちまちこちらの艦橋が向こうの船底に接触し、装甲と装甲が触れ合ってガリガリと耳障りな音を発生させる。そのまま艦橋を削るように敵は隣にまで降りてきて大砲からフックが撃ちだされて敵の飛行艇とこちらの飛行艇が固定される。準備していた敵がこちらに飛び移り、待ち構えていたミズキ、カインをはじめとしたメンバー達武器を構え、迎撃態勢を取る。
「土足で踏み込んだお客さんに手厚い歓迎だ!」
そう言い放つなり、ミズキは近くに降り立った敵に向かい火尖槍を振るっていった。神速にも等しいこの攻撃を敵は避けることも受け止めることも叶わずまともに食らい、その場に崩れ落ちる。
ミズキのこの一撃を発端として、甲板上はたちまち敵と味方の入り乱れる混戦状態へと突入した。剣と剣とが甲高い音を立ててぶつかり合い、氷の槍や火球の魔術が飛び交う。さらに攻撃を受けて倒れ伏す敵と味方の怒号と絶叫、甲板上が一気に戦場と化す。
「クラム、お前も下に降りて加勢してきてくれ。」
「了解です。班長はどうするのです?」
「ムルムルの状況次第だな。」
会話を切ってムルムルにテレパシーで連絡を取って状況の確認をする。
『ムルムルそっちの状況はどうだ?』
『こちらは問題なく制圧が進んでいます。相手の使い魔が大量に出てくるのが厄介ですが。』
『なら問題ないな。こっちはもう一隻の敵艦に襲われてる。』
『大丈夫でしょうか?』
『今は…な。そっちの敵まで相手となると流石にマズイ。絶対にそこで食い止めろよ!』
『主様のご命令のままに。』
テレパシーを切り、意識を甲板上へと向ける。
戦況は比較的こちらが不利だ。メンバーたちが奮戦しているようだがしかし、例によって敵の数は多い。いくら倒しても敵の攻勢が衰えることなく、次々と新手を繰り出してくる。
「ヒルダ、俺も出る。面倒だが敵中を突破してブリッジを制圧すれば少なくとも脱出手段は確保できる。」
「ムルムルに負けていられません。どうぞ、私にも命令をお願いします。」
「ついて来い。立ちふさがる敵を殲滅しろ。」
「命令承りました。」
ブリッジから降りて甲板に出ようと艦内を急いでいると突如として右側にあった壁がぶち破られ、砂煙からデスナイトが現れる。
デスナイトはこちらを視認すると盾を構え砂塵を纏った突撃を繰り出してくる。
ダメもとで撃ってみるが実弾は弾かれ、魔弾は着弾して爆発するが大したダメージが与えられていない。
「無駄に硬いな。触媒は…ドラゴンの骨か。高価なものをよく使うな。」
未だ突撃してくるデスナイトの突撃をかわし壁に大穴を開けて止まったところに聖属性の魔術を付与した魔弾を装填し直し、がら空きの背中に向かって放つ。当たると弱点の属性だけあって先程よりも効いている。
「ヒルダ。」
「はい!」
銃弾で怯んでいるデスナイトに肉薄すると一閃、盾ごと袈裟懸に切りつけて屠る。
デスナイトのあけた穴をくぐって甲板に出るといきなり雷が飛んでくる。ヒルダが即座に前に一歩出ると片手でシールドを張って雷を防ぐ。
雷を放った敵に魔弾を叩きこみ、混戦状態の戦場を敵の飛行艇に向かって駆け抜ける。道中立ちふさがる敵は黒騎士を使ってなぎ倒していく。
艦橋のところまで来ると味方も押し返してきたようで艦橋までミズキたちもたどり着いていた。
「よっ、お前たちも来てたか。」
「あったりまえでしょうが!あんな奴らが何人集まったってあたしを止めることなんて無理よ!」
「デスナイトが厄介だったっす。」
「班長。2手に分かれて艦内を攻めましょう。」
「その方が効率よく殲滅できるか。お前らは機関室の制圧、俺らは武器庫を押さえておく。ブリッジで合流するぞ。」