第三十一話
「はぁ~、つっかれた~。下手したらあばら骨の2、3本折れてたっての。」
そうぼやきながら仕事場の扉を開く。
部屋の中ではいつも通りリーシャが書類の作成、整理などの仕事をテキパキとこなしている。
俺が入ってきた事に気付くと顔を上げて尋ねてくる。
「マスターさん。ひどい顔をしてますけど…どうしたんですか?」
「ヒルダとムルムルの稽古相手をしてた。2人とも遠慮なしに思いっきりぶつかってくるから最近は体がボロボロなんだよな~。」
「…ああ!それって多分お2人が賭けをしてるからだと思いますよ?」
「…は?…賭け?何それ?」
「ええと、お2人が決闘では決着がつかなかったからって…。」
「何でかターゲットが俺に移ったわけね。これから将軍に会うから大人しくしてくれるといいんだが。」
「ははは…、どうでしょうね?」
「ギルドマスター。美味しい依頼が発注されてますぜ。」
部屋にシスティ、アーヴィングが入ってきて手に持っていた紙を俺に渡す。
「今回は盗賊団の壊滅か…。」
「ええ、それも相当規模が大きいもののようです。管理局からの正式に発注されたクエストです。このクエストはユニオンにも、一般にも発注されている為、他のギルド、無所属の冒険者との共同作戦になるようです。」
「ユニオンの他にもねぇ…。他のとこはどこが来るんだ?」
「『水晶の師団』、『紫陽花』あたりのギルドが参加することとなっています。」
「規模がでかいって言うが数は?」
「これが複雑でしてね。今回のはシンジケートになっているらしいんです。」
「そのため、敵の拠点も複数ありそれを同時に襲撃することになっています。」
「へ~。最近の盗賊は組織構造がしっかりしているんですね~。」
(あんな荒くれ者どもがシンジケートねぇ。ボスに相当カリスマ性があるのか恐怖で支配しているのかはたまた純粋に金の力か。何にしろ俺は行けないからな~)
「アーヴィング。この依頼はお前に一任しとく。俺はこれからジャンヌ将軍に謁見するんでな。」
「任せてください。そちらも上手く話をまとめてくださいね。」
「ああ、レティとアレックスも連れて行っておいてくれ。」
「いいんですか?」
「あいつらはまだ若い。若いうちに何でも経験させておくべきだろ?」
「ヘマしなきゃいいんですがね。」
ジャンヌ将軍の詰めているブリアント城への道中。
ヒルダとムルムルの2人が面倒事を起こさないないように釘をさしておく。
「ヒルダ、ムルムル。将軍に会うのは俺だけで十分だから外で大人しくしていろよ。」
「…わかりました。」
「何か御用の際はお呼びください。」
ブリアント城塞は丘の上にある城塞都市だ。その他には近くに火山があるが今は休火山となっている。それを省くと目立った特徴もない比較的平らな地形がしばらく続いている地域だ。
昔は火山活動が活発だったらしく火山灰が土に含まれているおかげで水はけのいい土地でワインやメロン、羊肉が特産品となっている。
ここで作られているワインには熟成した香りと程良いコクがあり、とても美味しいと上流階級の人間には人気がある。
田舎ではあるが先代の領主が人格者で争い事を避け、豊かな土地を荒らされないよう努めていたのでここの街は潤っている。
(先代の領主は街が戦火に巻き込まれないように努めてきたっていうのに今まさにこの土地が戦場になろうとしている…むくわれなものだな…)
この話から「僕が異世界に飛ばされた先で」に繋がっていきます。
前回の話でPVアクセス数が8700を超えました!
これもひとえに読者の皆様のおかげです。これからももよろしくお願いします。
これからリアルでの用事で忙しくなってくると思うので更新が遅れてくると思いますが温かい目で見守ってくれるとうれしいです。