第二十八話
翌朝、固い地面のテントで寝たせいかいつもよりも早く目が覚めた。
寝袋から顔を出すと隣ではヒルダがまだ寝ていたので、起こさないようにゆっくりと寝袋から出る。ちなみに反対側にはムルムルが寝ていたりする。
昨夜はムルムルが添い寝するなどと言って必要に迫ってきたりするか上手く寝付けなかった。
テントから出るとまだちょっと明るくなっただけの、5時になったかな?といった感じの空。
さすがに少し肌寒いな。
軽く伸びをして、頭を切り替えるために昨夜近くの小川で汲んで来た水でタライに水を張り、炎の魔術式を書き込み水を程よいお湯にする。
そのお湯で顔を洗っていると目の前の…俺が寝ていいたテントからヒルダが出てきた。寝起きで少々髪が乱れているがその美貌は少しも損なわれていることはなかった。
ヒルダも俺と同じように軽く柔軟運動を始めた。
起こさないようにしたつもりだったが気配とかに敏感だから起こしちまったかな?あいつは、少し働きすぎな気がするんだよな~使い魔からしたら当然な事なんだろうけど俺としてはどうにもな~。
そんなふうに思っていると、ヒルダがそばに寄って来て声をかけてくる。
「おはようございます。主にしては珍しく早起きなのですね。」
「ああ、どうにも寝つきが悪くてな。」
「まあ、あれだけムルムルが迫ってくれば寝むれなくもなるというものでしょう。」
「あの時はお前が止めに来てくれてくれて助かったわ。命令を強制的に聴かせるって手もあるが俺の主義に反するからな。」
「主は使い魔に甘いです!使い魔が命令を聞かないのであれば仕方ないでしょう。」
「そう言うなって。ま、本来使い魔って捨て駒みたいなもんだが俺はお前を失いたくないんでな。」
「なっ!何を言うんですか!?」
ヒルダはオーバーヒートでも起こすのではないかという程一瞬で顔を真っ赤にする。
「いや、なに。思ったことを言ったまでだが?」
俺は意地の悪い笑みお浮かべながらケラケラと笑っている。
ヒルダはこの方面の話にはめっぽう弱いから反応がいちいちおもしろいな~。
「主。あなたは本当に嫌な人ですね。」
「ああ、それは俺が一番よく理解してる。」
未だ頬にがほんのりと赤みが差している状態で俺を睨み付けてくる。
「それより、どうだ?久しぶりに手合せ願いたいんだが。」
「ええ、いいですよ。ですが…主とではなくムルムルと勝負したいのですが。」
「わたくしであれば構いませんよ?」
声のした方向を見るとムルムルが腰に剣を提げいつでも戦える状態でこちらに歩いて来ていた。
「ん、起きてたのか。起こさないようにしたつもりだったんだがな。」
「いいえ、使い魔たるもの主様の身をいつでも守れるようにしておきませんと。」
「ほう…そう言うのは主を守れるほどの力を私に見せてからにしてください。」
「わかりました。いいですよ。わたくしの実力を見せて差し上げましょう。」
言うとヒルダ、ムルムルが両者とも剣の柄に手を掛ける。
「オーケー、オーケー。わかった。それじゃあこの依頼が終わったら決闘で白黒つけるぞ。ムルムルは俺と仮契約で魔術を使えないから剣だけでの勝負だ。二人ともそれでいいな?」
未だ不可視の光線がヒルダとムルムルの間でバチバチと火花を散らせている。このまま放っておいたら確実に戦い始めて荷馬車や積み荷に被害が出ていただろう。
なんでこうなるかな~。ヒルダは俺の最初の使い魔としての意地があるんだろうがムルムルはムルムルで自分の腕によほどの自信があるのか挑発的だしな…。この調子だと将来、禿げそうな気がするな。
この後は決闘をすることになった二人が魔物が襲ってくるたび一匹残らず壊滅させていくので問題なく依頼は遂行できた。