第二十三話
会議は中止となり、騎士団も駆けつけてきたので俺が帰ろうとしていたところでアリシアに自分の部屋に来るよう言われた。アレックスは先に帰し、リーシャはアリシアとの話に連れてきている。
最近は物騒だね~。っと、この部屋か。
ノックをすると向こうから「どうぞ。」と言われたので入ると中にはアリシアの他にタマモとシドがいた。
「わざわざ呼び出してごめんね。」
「構わねぇよ。俺も話があったしな。」
「じゃ、その話から片づけちゃお。」
「リーシャが俺と会った経緯は知ってるな?」
「うん。行方不明になった友達の捜索だったんだよね。」
「ああ、行方不明者は全員このギルドタグを持っている奴らに攫われていたんだ。」
俺は『クロックラビット』のギルドタグを机の上に出すとアリシアはばつが悪い顔をする。シドとタマモは大して気にすることもなく話を聞いている。
「お前が関わってないのは知ってる。リーダー格を尋問して答えてもらったからな。」
「それで、実行犯たちはどうしたの?」
「ギルドタグを全部燃やして、騎士団に突き出しといた。」
「ありがとうね。それと、リーシャちゃん。うちの者が迷惑を掛けてごめんね。」
「アリシアさんが謝ることないですよ。みんな無事だったことですし。」
「そう言ってもらえると助かるよ。ここまでギルドの規模が大きくなると目の届かないところもあってね。」
「もういいか?そろそろ本題に入りたいのだが。」
シドが促してくるのでリーシャには先に宿に帰ってもらった。
「んで、何で俺たちを呼んだんだ?」
「会議中に出た『イブリース』の事なんだけどシドが壊滅させた組織のアジトに今から行ってみない?」
「お前はやめといた方がいいんじゃないか?」
「何でよ?」
「この中で戦えないのお前だけじゃん。」
「大丈夫じゃろ。既に組織は壊滅しとる。何かあったら妾がアリシアを守ろう。」
「シドはいいのか?」
「俺は別にいい。」
「この面子の理由は?」
「シドは案内役、タマモとあなたは魔術に強いからね。」
「へーへー。残党とかがいたらすぐに帰るからな。」
「はい。じゃ、タマモ。よろしく。」
「は?っつ、うお!」
アリシアがタマモに声をかけるとタマモを中心に魔方陣が現れ、空間が歪んだと思った瞬間俺たちはよくわからない遺跡の前に移動していた。
おえ~転移魔法は俺の苦手分野だっての。吐きそうだ~。
「気分が悪ぃ…。」
「だらしないな~。『エスペランサ』のギルドマスターともあろうものが。」
「うるせぇ!タマモもひとこと言ってからやってくれよ。」
「今度からは気を付けるとしよう。」
「おい、早くしろ。中に入るぞ。」
遺跡の中は薄暗く、ネズミやクモが巣食っていて邪教信者には持って来いといった感じの場所だった。だが、所々で壁に血がついていたり魔法が炸裂して壁に焦げ跡が残っているところがあった。
これは全部シドが戦った跡だな…。
「なあ、シド。ここにいた奴らそこそこの手練れだったんじゃないか?」
「ああ、稀に見る猛者たちだったな。」
戦闘跡から考えると20人くらいいたと思うんだが…。それを1人で全員倒すとかやっぱり強いな~。
「ここだ。」
着いた場所は小さな講堂のような場所で床には魔方陣を囲むようにビッチリと呪文が書き込まれ、水銀や何かの心臓など触媒の準備も終わっている様子だった。更にご丁寧にも奥の段の上には演説台があり、その上には魔導書が置いてあった。
後は術者の血を捧げるだけって状況だな…ギリギリでシドが阻止したってところか。
「シドの言っていた通り何かを呼びだそうとしていたみたいじゃな。」
「そうみたいだな。だが、呼び出そうとしていたのはそんじょそこらの下級悪魔じゃなかったっぽいな。」
「どういうことじゃ?」
「これ見ろ。」
俺が見せたのは演説台の上に置いてあった魔導書だ。魔導書にも床に書いてあったのと同じように色々と呪文が掛かれている。ページを捲っていくと所々に悪魔の名前が書かれている。その中にアモン、フルカスなどの悪魔の名も書かれている。
「のう、これは…。」
「ああ、多分『ソロモン72柱』の悪魔たちを呼びだす魔導書みたいだな。」
「奴らを潰しておいて正解だったな。」
「それなんだが…何体か既に召喚されたみたいなんだよな~。」
「え?嘘でしょ!?」
「おい。誰か来たぞ。」
俺たちの前にぞろぞろと現れたのは顔をドクロで隠した黒ずくめの集団だ。
『イブリース』の残党か?10人か…この狭い空間だと戦いにくいな。
「タマモ!シド!構えろ!」
「言われずともわかっておる!」
「わかった。」
「アリシアは下がってろよ。」
「わかったわ。」
邪教徒のリーダーらしき男が口を開いた。
「連絡が途絶え何事かと思って来てみれば…この場にいた私たちの同志たちを無残にも殺したのはあなた方ですね?」
話し方は丁寧だが仲間が殺されたこともあってか言葉には怒気をはらんでおり、仮面の奥からこちらを見据える眼差しには確かな殺気が感じられる。
ダメもとで一応、な…
「おいおい。俺たちはたまたまここに迷い込んだだけだ。争う気もない。」
「黙りなさい!そのような言葉信じられるわけがありません!」ヒュッ!
「グッ!」
邪教徒は言いながら手にした短剣を投げつけてきた。咄嗟のことで反応が遅れた俺は左肩に短剣を受けてしまった。更に運の悪いことに俺が立っていたところが準備万端の召喚魔方陣の上にいたことだった。
短剣が刺さった傷口から血が溢れ出し腕を伝って指先から血が一滴、魔方陣に垂れると目を開けていられないほどの輝きが魔方陣からあふれ出した。
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
これはヤバい!前にも敵がいるのにこれで召喚したのがバエルやベレトだったらここにいる全員死んだな。せめて好戦的なやつが来ないのを祈るしかないな…。
そして、現れたのは…