第ニ話
ギルド『エスペランサ』構成員120人
「おい!手前らいつまで寝てるつもりだ!?」
今日も朝から皆を起こす怒鳴り声が聞こえる。自室から顔を出すと扉の空いた部屋からメンバー達がのそのそと出てきた。取りあえず怒鳴り声の主に声をかける
「まあまあ。昨日の戦争で皆疲れているんだから仕方ないさ。」
「ギルドマスター。こいつら甘やかすと調子に乗って働かなくなりますぜ?」
今、俺と話しているのはアーヴィング。ハーフエルフの精悍で野性的な顔立ちをしつつ、表情のどこか飄々としたものを感じさせる不思議な雰囲気の男だ。
「ってことで、お前ら早く起きろ!朝飯抜きにするぞ!」
先程までゾンビの様な動きだったメンバーが食堂に急いで走って行った。
「じゃあ、俺らも飯食いに行くか。」
朝食も食べ終わりアーヴィングと別れた後、俺は書類を整理しに自室に戻った。
「え~っと、今月の収入が2500万ガルで支出が180万メンバーの給料が1800万っと。残りは予算に回してメンバーの装備を新調するのに当てるか。」
コンコン。ノックの音がして顔を上げると半開きになった扉から白いローブを着た少女が入ってくるところだった。
「ギルマス~。予算が余ったならメンバー増やしたら~?」
この間延びした声をかけてきたのはグレイ。人間種。いつでも眠たそうにしており気が付くと寝ていることが間々ある。
「ん。メンバーの増員か。なんでまた?」
「いや~。最近は昨日みたいな依頼が増えてきたし戦力の増強も必要だと思うんだよね~。」
確かにそうだ昨日の様な戦争への参戦は初めてだが今月だけで8件も軍事関連の依頼が来た。果てには周りの犯罪者ギルドが留守中の本拠を襲撃してくる始末だ。
「そうだな。少し頭に入れておくか。」
「じゃあね~。あっ、ギルマス今日非番だったよね~。また、街に行くんでしょ~。お菓子もよろしくね~。」
「お前、またかよ!この前、買ってやったばっかだろ!」
「もう食べちゃったんだよ~。それじゃあ待ってるからね~。」
そう言ってグレイは部屋を出ていった。
ギルド『エスペランサ』の本拠、イスラ砦から10キロのところにある中立都市バレステロス。そこは戦争へ参戦するため傭兵が集っている。他都市とも盛んに交易をしている。人も、物も、情報も豊富に集まる。その利便性ゆえ、いっそう冒険者などの人が集まってくる。
「確かここら辺だったよな。」
路地裏を覗くと小奇麗な石造りの建物に武器屋を示す看板がぶら下がっていた。
店のドアを開けた。店内には誰も居らず剣や槍、ロッドなどの武器が壁一面に陳列されていた。
「おーい。おやっさん!レティ!誰もいねーのかー?」
一応、呼び出しのベルを鳴らしてみる。チーン。
すると目の前の空間がグニャリと歪んだかと思うと一匹の黒い猫が現れた。
こいつはおやっさんの使い魔だ。
「お客さんかい?主人は今、手が離せないんでね。少し待ってくれないかい。」
「そうか。じゃあ待つとするか。そういや、レティはどうした?」
「彼女は先程、外に買い物に行った。しばらくすれば帰ってくると思うぞ。」
しばらく店内を見回していると店の奥から足音が聞こえた。
「よう!久しぶりだな!最近は店に顔を出してくれないから死んだと思ってたところだ。ガハハハハ!」
この人はゴドフリィ。髭をもっさり生やして頭に布を巻いたドワーフの様な見てくれだが、街の人たちの評判は思いのほか良い。昔は名のある冒険者だったとか。
「最近は依頼が多くてな。それよりもアレ完成したんだろ?」
「もちろん完成したぞ。少し待ってな。」
そう言って店の奥に消えていくとしばらくして戻ってきた。
「ほらこいつだ。」
カウンターに小包が置かれた。開けてみると中には2丁の銃が入っていた。
「こいつの名前は『グレイヴ』見ての通り回転式で魔弾を撃ちだす。装弾数は6発。もう一丁は少しごっつくなったが自動で弾が装填されるタイプだこっちは実弾しか撃てないからな。」
「お~。いい具合に手になじむな。」
「当たり前だろ!俺が作ったんだ、気に入らないわけがないだろ。」
「よし。ガンベルトと魔弾と通常の弾を100発くれ。」
「あいよ。え~と。合計で10万ガルだ。」
俺は思わず耳を疑った10万ガルといえば街の住人のひと月分の給料に相当する。
「10万!?ウソだろ!」
「いや、本当だ。何せ魔力に耐えるために高価な素材を使った完全オリジナルだからな。」
「マジかぁ~。仕方ないな。払うよ。」
懐から金の入った袋を取り出しカウンターに置いた。
今月は倹約しなきゃな~。
「毎度あり。ところで、なんで今頃こんなものを注文してきたんだ?お前だったら近接戦くらい余裕だろ?」
「最近体が思うように動かなくて俺も歳なのかな~って。」
「アホか。俺でもまだまだ現役なのに甘いこと言ってんじゃねーぞ。」
「それじゃあ。また来るよ。」