第十六話
「なあ、リーシャ。洞窟までの道のりは大体わかったからお前は帰ったらどうだ?」
「すいません!私、そんなにお邪魔になってましたか?気をつけるのでお願いします!」
「そういった訳じゃないんだがな…」
洞窟まであと一息というところまで来ている。当初の予定より断然早く着いたがそれまでの道のりが大変だった。
俺たちはリーシャのおかげでこんなに早くここまで来れたが道中モンスターに数回襲われいずれも撃退したが全てバレバレの待ち伏せやしょぼい罠ばかりでレティ1人で片づけられた。だが、リーシャは全部に引っ掛かり危うい時もあった。それらを踏まえ結果として俺はリーシャに帰ることを勧めている。
「大丈夫です!自分の身は自分で守れますから!」
「全然守れてない時点でな…」
あの眼は何を言ってもついてくる眼だ。
俺がどうやってリーシャを説得しようかと考えているとレティに呼ばれる。
「お兄ちゃん。これ、タバコだよね?」
「そうだな。俺やアーヴィングの吸うのとは違うようだが。」
「え、お兄ちゃんも吸うの?」
「書類を整理してるときとか気分を紛らわす時にな。ヒルダがタバコ嫌いで怒るからあいつの前では吸わないようにしてるがな。」
「いつもお兄ちゃんはヒルダさんといるしね~?」
「はい、少し黙ろうか。あそこに注目!」
俺の指さす先には上手くカモフラージュしてあるが紫色に輝く魔方陣が木に刻まれている。
恐らくあれは人払いのためのモノだろう。これはもう確実によからぬ人がここら辺にいる証拠だな。
「ここからは気をつけろよ。トラップがあるかもしれないからな。」
「慎重に行くんだったら使い魔に先行させてみる?」
「ん。お前、中級使い魔召喚できるようになったのか?」
「もっちろん!あの後練習しまくってやっと召喚できるようになったんだからね。では、さっそく。『汝らは刀を構え敵を討つ誇り高き武者。主である我の呼びかけに応じ馳せ参じよ!』召喚!鬼武者!」
ミズキの呼び出したのは名前から分かるだろうけど槍や刀を持ち具足をつけた武者たちだ。
顔には面具を付けていて眼が赤く光っている。
ふと左腕に重さを感じ、見やるとリーシャが俺の腕にしがみついて震えている。
うん、こんな薄暗い森でこんな武装集団を見たら誰でも怖いよな。それも全員、人じゃないからなおさらだよな。
「お~!かっこいいな。俺の黒騎士とどっちが強いだろうか。」
「まだ呼べるようになったばかりだからもっと訓練してから戦おうね。お兄ちゃん。」
「わ、私でもできるようになるかな…(ボソ)」
「ん?何か言ったか、リーシャ?」
「あ、いえ。何でもありません。」
先頭を歩いていた武者がいきなり消えた。
いや、よく見ると落とし穴に落ちて仕込んであった槍で串刺しになっている。
次はヒュンと風を切る音が聞こえたと思った瞬間目の前にいた武者の頭に矢が突き刺さる。
この後もトラップのオンパレードで踏み込んだらそこに魔方陣があり、体に強烈な重力が掛かってグシャ!っとなるモノや幻術で惑わし谷底へ真っ逆さま(リーシャだけが掛かった)等々があった。
「あれが洞窟です。」
周りには大きな岩が転がっており、洞窟の入り口には椅子や机など人がいる形跡がある。
経験上、この手のやからは10人前後でいることが多い。
「少し奴らの様子を見よう。」
「そんな!今すぐ助け出しましょうよ!」
「リーシャ。このまま突入して君の友達を人質にでも取られたらそれこそ一巻の終わりだ。今は堪えてくれ。」
「でも…それでも…。」
「大丈夫だよ。リーシャちゃん。お兄ちゃんならお友達を助け出して見せるから。」
レティはリーシャに諭すように優しく語り掛け、泣いている彼女を向こうへ連れて行った。
数十分後、2人とも戻ってきた。リーシャは泣きはらした眼で俺を見つめ「私にも何か協力させてください」と真剣な口調で言った。
「12人です。他には…泣き声とそれを慰めている声。」
「もう十分だ、リーシャ。お前のおかげで正確に状況を把握できた。」
さすが獣人。音と匂いで人数がわかるなんてな。
「奴らが誘拐しに出て行ったら見張りを倒し、誘拐された人々を救出。その後、すぐに追いかけ残りも殲滅する。」
「了解だよ!」
「わかりました。」
そして、奴らがまた獣人を攫いに外に出てきた。
数は…10人か、中に後2人いるな。
10人が十分に洞窟から離れたことを確認すると一気に襲い掛かり驚いてだらしなくポカーンとしている見張りの1人を俺が腹に強烈な一撃を決めて沈め、もう1人をレティが鞘に入った状態の『アマノハバキリ』で額を割って黙らせる。
洞窟の中に入ると予想通り檻に入れられた人たちがいた。
俺はこの場をレティに任せると攫いに行った一団を追いかけ、黒騎士を召喚して全員殺さずに無力化し身元を確認していると白と黒の兎の紋章が刻まれたギルドタグを見つけた。
確かこの紋章はあいつのとこだったはず…
レティ、リーシャと合流し集落に戻った後、小屋を借りて誘拐犯を軽く尋問すると意外にもあっさりと依頼主を吐き、あいつとも関係がないのを確認した。
「ありがとうございました!」
「もういいって、リーシャちゃん。」
「それでも感謝してもしきれませんよ!」
「善意でやってることじゃないんだから気にするなよ。」
「そうですか…。あの、お願いがあるんですけど聞いてもらえませんか?」
リーシャは少しうつむいていたかと思うとキリッと真面目な顔で俺を見てそう言う。
「ん、何だ?」
「私をあなたのもとで働かせてください!」
「ああ、いいよ。」
「私には何もできませんけど…って、ええ!?軽くありませんか!?」
「今、うちは人手が足りなくてね。だから、募集中で丁度よかったな。」
「そ、そうだったんですか…」
「今すぐ来るってのは無理だろうから2、3日後にでも来てくれ。」
「わかりました!準備ができ次第すぐにでも向かいます!」
「それじゃあな。」
「お気を付けて~。」