第十一話
「あ~あ~。やっちまったか。クソがっ。」
あの時、一撃を食らわせたところまでは覚えてるんだがその後がぼんやりとしか記憶がねぇんだよな。
俺はあの後部屋に戻ると強烈な睡魔に襲われ、ずっと寝ていた。そして、サッパリしたいと思って大浴場に来ている。
幸いにも真夜中なので誰もいない。
「やっぱり、あれが原因だったんだろうな。」
独り言を言いながら湯船に浸かっていると誰かが来た。
あのシルエットは…
「その話。私に聞かせくれませんか?」
ガラガラと引き戸を開けながら体にタオルを巻いたヒルダが入ってきた。
長い付き合いだが一緒に風呂に入るなんてのは初めてだ。
「おい。お前なんで入ってきてるんだよ。」
「いいではないですか。契約してる時点でプライバシーなどあってない様なものなんですから。」
契約すると互いに相手の行動が手に取るようにとはいかないが、大方の行動がわかる。
「それでもやっぱりマズいだろ。誰か来たらどうするんだ。」
「大丈夫ですよ。この時間帯はみんな寝静まっている頃ですから。」
話している間にヒルダは横に来てしまっている。
「ところで、先程の原因というのは何です?」
「お前にならいいか。昔、レティに魔術を教えていたことは言ったよな?」
「ええ。確か勝手に召喚魔法を行使したから教えるのをやめたんですよね。」
「そうなんだが、あいつの呼び出したものがよくなかったんだよな~。」
「一体何を召喚したんです?」
「…『レーヴァテイン』だ。」
言った瞬間、ヒルダが衝撃のあまり立ち上がった。そのせいで湯船がバシャバシャと波を立てる。
「嘘でしょう?!災いの名を冠す剣をあのレティが呼び出したんですか?」
「ああ。あの時は流石に驚いたなぁ…。その時のショックでレティはこのこと忘れてるがな。」
「それで?それで一体どうしたんですか?」
「そのままだと『レーヴァテイン』が暴れて周りに被害がでるし、かといってレティに契約させるわけにいかないだろ?だから俺が契約したんだ。」
先程よりも驚いた顔で俺に詰めよってきた。
近い、顔が近いって。何か鬼気迫るものがあるな。
「どうやって契約を?」
「魔力の五分の一を対価として差し出すことでかろうじて契約を完了させたんだ。おかげでナイツオブザラウンドは一回しか使えなくなるしろくなことがない。」
「なるほど、そうゆう事だったんですか。でも、なんで使わないんです?」
「かろうじてだって言ったろ。完全に制御はできないし、暴走でもしたら大変なことになるから使わないんだ。」
ヒルダは俺が『レーヴァテイン』を持っていたことを知って随分と興奮しているようだ。
マニアだよな~。
「今度私に触らせてくださいね!」
「そんなに近寄ってくるなって。あ…。」
ヒルダの体に巻いていたタオルが湯船に落ちた。
あ~あ~。激しく動き回るから落ちるんだよ。
このままいると面倒なことになりそうなのでヒルダが慌てているうちに急いで大浴場を後にした。
後日、レティにはしっかりと謝り買い物に付き合って一緒に遊んで機嫌を直してもらった。