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見守り広がる円盤

作者: 片岡 一亭

 重奏の爆音がはるか地殻を突き抜けて、山々の乾いた肌を逆撫でる。

平地には人々の渾身の楽器が、バックコーラスは掘っ立て小屋から無造作に選ばれる聖歌隊。

極彩色の大地を拝む人々の佇むところ、突如円盤は舞い降りた。

 ところで、パンと菓子で生き延びた紙とインクの鎧の文官は、いささか数が多かった。

歴史を振り返ればいつも同じことを繰り返している。

その振り返る労力を先に進むことへ当て過ぎている。

いつも似た模様の服を着て、他の民には決まって異なる模様の服を着せ、服の生地が足りなくなると別の生地を用意する。ただ、用意するごとに粗雑な素材を用いるせいで、後々から不平不満が出てくるのだ。



 舞い降りた円盤は、光る粒子の交通渋滞に巻き込まれた

小さな国々を滅ぼした。

さて、大きな国は焦った。円盤に対して、大国は防衛戦を築こうと連合を組むことを画策する。多くの兵器を用いて円盤を撃墜しようと試みるも、全ては無駄に終わった。あらゆる爆薬、あらゆるレーザー、あらゆる砲弾、攻撃するために生まれたものたちは全て円盤の前にはことごとく無力であった。

 一方で、円盤にコンタクトを図ろうとする国もあった。

円盤は尚も残る小さな国を滅ぼし続けた。いくつもの回転が終わった大地に、預言者たちが現れた。

 真っ先に生き残ろうとしたのは生地の良い服を着た人たちだったが、それを餌食にしたのも揃いも揃って、生地の良い服を着た人たちだった。生地の悪い服を着た人はというと、円盤に滅ぼされるか、あるいはもうどうしようもないといった風であった。


 最初に円盤とコンタクトをとることに成功した国は、やっとの思いで円盤の攻撃の対象から外すことを約束してもらった。

 すると、その国にはどこからともなく、偉そうな者たちが、肥えきった腹を弾ませ、のしのしと列も崩して走ってくる。彼らは、そこに庇ってもらうのが当然といった顔で、その国を訪れた。何人かは射殺されたが、何人かは服をもらった。その国にあった服であったが、それはもともと、ついさっきまで一生懸命働いていた誰かが着ていた服だった。しかし、その服を新しく着た人たちは全く働かない。国の人も、それでいいと考えていた。

 尚も円盤は大地への攻撃をやめず、いつしか小さな国は皆滅び、少しずつ中くらいの国を攻撃し始めた。

中くらいの国は幾度も抵抗を試みたり、大きな国へ支援を要請したが、大きな国の偉い人たちはもうすっかり、シェルターに入り込んでしまった。ただし、シェルターの中ではとびきり美味しいウィスキーとベーコン、そしてふかふかのソファに腰掛けて、すっかりくつろいでいる。

 中くらいの国のひとつが、円盤にやっとの思いで攻撃対象から外してもらうように約束ししてもらった。

こうなると、今度は大きな国から偉い人たちが滅茶苦茶に駆け込んでくる。

そして、片っ端から、中くらいの国の服を奪った。特に奪いやすかったのは、身を粉にして働く疲れきった労働者の服で、彼らは抵抗する気力も無く、服を奪われて死んだ。しかし、その服を新しく着た人たちは全く働かない。国の人は、少し違和感を感じた。


今度は円盤は大きな国を攻撃しはじめた。もう地上に残る国は少なく、ほとんどが滅ぼされていた。

ひとつの大きな国と、ひとつの中くらいの国だけが、人々の目指すところだった。

まだ残る国は大きなものばかりだが、偉い人達はもうシェルターに篭ってるうちにシェルターのご飯を全て平らげてしまい、慌てて拳銃を握りしめて、安全な国の服を求めた。


最も良い生地の服を着た人たちは、もはや他人ごとのように、安全な国でくつろいでいた。

ただ、服の生地が良くない人たちも、服を昔のような生地に変えて、同じようにくつろいでいた。

元々居た、生地の悪い服を着た人たちは、もう次々と死んでいった。

働いても働いても、ご飯は働かない人たちの腹へと消えていった。




円盤は、安全な国を除いて、全ての国を滅ぼしてもなお、空の上に佇んでいた。

新しい国が生まれた瞬間、円盤はその国を焼き払うだろう。

豪華な服を着た人は未だなお増え続けている。

粗末な服を着た人の頭の中は古い過去を信じ続けすっかり色あせた眼差しで

壊れた真空管で弾きだした思考の中で、どこかに彷徨っていた。

豪華な服を着た人は、必ずや、円盤のもと、2つの国で最後まで生き残る。

なぜなら、彼らが円盤の生みの親であったからだ。だから彼らは絶対に円盤に攻撃されない。


その後、もしかしたら円盤は消えるかもしれないし、消えないかもしれない。

円盤は遥か昔からそこに。

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