第3話:#火曜日クライエント 氏名【火野雄一 様】
−− 合わない男 −−
禿げ上がっているわりにキレイに整えてある頭部、派手では無いがいいモノだろうと思わせるスーツ、長く大事に使っているだろうと感じる革靴。笑わない瞳孔。けして贅沢をしていない良い革製鞄、ちょっと古くさいが上品なメガネ、自信のある背筋の綺麗な姿勢。ヒビの入った腕時計。接する人間に興味を持とうと感じさせる前傾姿勢、器が大きいとアピール出来る微笑み、周りの人間に心配りが出来るであろう気遣い。ニヤつきを隠せない口。
別に何をされたわけではない。だけど、この男と合う気がしない。苦手……嫌いなタイプだ。しかし、相手はお客、そんなことは関係ない。困っているなら助ける、それまでだ。報酬払わずトンズラするわけじゃないだろうから何も問題ない。
#氏名【火野雄一 様】 50歳 AB型
……。
#職業【離婚カウンセラー NPO法人女性の自立を守る会・財務部長 】
……。
#家族構成【母69歳 妻40歳 娘14歳 父他界 】
……。
#自分自身についてなんでも書いて下さい。【悪夢を見ます。女性の力になっている私がなぜか女性に襲われる夢です。なんとかして下さい。 】
……。
仕事に私情は厳禁だ。何人たりとも私は関わった人間を救うつもりで活動している。犯罪歴の多い人間も救ってきた。しかし、こういう奴は好きになれない。けして正義感とかではない。単純に私が嫌いなだけだ。
同じカウンセラーという立場であるし、その仕事を批判などする気もない。カウンセラーと言うのは答えのない仕事。相手が満足するかしないかが最終的な報酬だ。世間がどんな風に思おうと信念を持ってやるものだから。だがしかし、どうも『女性の味方』ばかりを強調するのは解せない。NPO活動にわざわざボランティアなんて表記をするか? 本来NPOを知らない人間からすると当たり前にボランティアのイメージが先行するものだ。だが、やっている側からすると、そこに重きを置かない。ボランティアだろうが給料貰っていようが、やっていることに信念があれば自分には関係ないはずだ。最近、NPOを使って悪さする奴が多い。そういった意味でのイメージ防衛策なんだろうが、逆に怪しく感じてしまう。世間一般は勝手にボランティアだと感じてくれるものだと当人も理解しているはずだ。個人名にわざわざ書かないだろう。しかも同じ立場の職種である私のアンケートに。自分を高めたいだけに決まっているさ。財務部長がよく言うもんだ、ホントかどうか分からない。身にまとった偽物感が物語っている。
……まただ。この仕事を始めてから感情的になりやすくなっているな、気をつけなければ。私情は禁物、カウンセラーの立場を忘れるな。
−− 言い勝ち功名 −−
火野もカウンセラーの仕事をしている。しかも経験年数で言えば私なんかどう考えても足元にも及ばないベテランだ。長い間、自分が離婚した経験もないのにカウンセラー職を維持しているんだ、話も巧いのだろう。敵ではないが今回はこちらがカウンセリングしている立場だ、取り込まれないように気をつけねばならない。
「では、お話をお聞きしたいと思います」
「いやー、お若くて綺麗な先生だ! 若くして独立なんてすばらしい! 私の若いころを思い出しますよ」
さっそく遮られた。おそらく職業病だろう、自分のペースを作らなければ落ち着かないはずだ。そんな人たちをよく知っている。私みたいに気だるい感じのカウンセラー、存在自体が珍しいからな。まあ私はカウンセリングとは言えないことが力そのものなんだけれど。
「そうですか。長年カウンセラーやられているんですね。いつからですか?」
「私はですねー、最初は違う先生の元修行していたんですよ、臨床心理士の資格が日本で認定された頃に出会った心理学の先生の元で。うーん20……5,6年前の話ですかねー! その先生の開業された施設で10年ちかくお世話になっていたんですけど、しばらくして離婚に悩んで心的外傷を患った女性のお世話をして以来ですねこの仕事は。その後独立して10数年ですかね〜。 気づいたらこんなおじさんになっててね。ははは!」
やはり、1聞けば10返ってくる。まあ確かに離婚で悩んで暗くなっている女性に接する場合、こういった他愛もない話がだんだんと心をひらかせるだろうから、このおじさんには向いているだろうな。最初は女性みんなが嫌いから入るだろうけど。
さあ、話に乗ってはいけない。カウンセリングにならなくなってしまう。しかもエイルがちょっと眠そうだ、とっとと始めないと集中しなくなってしまう。
「大ベテランですね。では火野先生、早速始めます。あなたが解決したいのは悪夢のことでよろしいですか?過去にあなたが思い当たる事で気になることはありますか?」
こっちの質問を淡々と繰り返さないと、相手の無駄話が始まってしまう。間髪入れずに話をする。
「それがですね、先生。なーんにも思い当たらないんですよ。いつだって誠実がモットーでやってますから、女性を傷つけてとか恨まれてとかで後を引きずっていることなんてないんですけどねー。こまったもんだ、はは!」
この人の持病か癖か知らないけれど、最後の笑い方はどうにかならないのか。しかも悩んでいるようになんて感じない。
「私はこの通りの、なーんも悩みがない人ですからー! でもどうしてかなー、ここ1ヶ月は2日に1度、最近1週間では毎日見るようになってしまったんですよ。あいやーまいった。寝るのが趣味なんでね、私。うなされて起きての繰り返し、正直かなり身体がきついんですよー」
ろくなこと考えてない罰があたったんだろうと言って帰らしたかったけど、それでは私のモラルに反する。特に問題が無い人間でも料金は変わらないしな、そこはありがたく見させてもらおう。
「そこでね、咲坂先生のお話聞いたんですよ! なんとも1ヶ月コース通うと完全に解決するなんて聞いたんで! カウンセリングって本来長引くじゃないですか? 人それぞれ問題違いますから! 一筋縄では行かないんですよねー、分かるでしょー?それを1ヶ月なんてすごいなーとおもいましてね」
まさかこいつの場合、長引かせてお金を巻き上げているんじゃないだろうな、なんて問い詰めても何も意味がないだろうからここは流すが、まあ彼の言っている事も事実だ。言えないが私はタイムシフトがあるから。
「若い人は感性が違うというか、ね? そういうところに惹かれて受けに来たんですよー、カウンセラーがカウンセラーのところにねー! はは!」
女性にお世話している立場の彼にも意地とプライドはあるだろうから、どうしても女に診られるということにはひっかかりがあるのだろう。そういった心理は、古くて汚れが落ちない長年使用している昔のブランド物を身にまとっているところに現れている。こういった自尊心は大切にしてあげよう。大事なお客様だ。
「では火野先生、いや、こちらでは火野さんとお呼びしたほうがよろしいですね。完全にお客様になったつもりで身も心も委ねてみてください。先生のままでは疲れてしまいますから」
「いやーあ、女性となるとやはり気遣いが違いますなー…関心しましたよお若いのに! ではお願いしちゃいましょうかね。どうぞなんでも聞き出して下さい、お願いしますよ咲坂センセ!」
……チッ。やっとおとなしくなりそうだ。
自分より若い女に優しくされれば男は気分もよくなるさ。やっと仕事になる。おしゃべりなだけで、意外とまともな人かもしれないと思おう。
「エイル、始めるよ」
「……あ! はい、あおいさーん」
……寝てたのか。
−− 隠しごと −−
彼の話を聞いた。しかし、確かに仕事はしっかりとやっているし、女性からの信頼も厚そうだ。実績もあるのは確かだ。恨まれるよりも感謝されてあたりまえ。心残りな仕事も少ないだろう。ただし、少ないだけで有るには有るはず、百戦錬磨ってわけじゃないんだから。その稀な心残りが呼び起こしているものかもしれない。
実際、小奇麗にはしているし、見た目は信用のあるタイプの中年だ。社長には見えないけれど、それなりに裕福そうだし、雰囲気も優しい。単純に私の偏見が先行したイメージではあるが……。いくつかだけ、気になる点もあるけど。
悪夢は心理状態から来るものだ。けして悪魔に呪われているわけではない。深層心理に残ったしこりが発生させる。だから私のところでは悪夢に関してもカウンセリングを行っている。過去を覗ける私にはうってつけ、得意分野だ。
しかも、実は悪夢は悪いことばかりではないという見解もあるのだ。疲れや鬱憤からくるものもあれば未来への期待や不安、新しい事に挑戦中などの時にも現れる。心がどの方向であれ、現在の環境より前進している時に現れやすい。1つ成長する時のサインでもある。
臨床心理士の元で勉強したならそれぐらいの事は理解しているはずだが、どんな恐怖を味わう夢を見ているんだろう。
「火野さん、なんでも正直に話して下さい。あなたは過去に、仕事上で何度か失敗した経験はありますか? あなたの経歴は傷付きません、守秘義務も守ります。お話下さい」
少しずつ話を引き出して、だいぶ素直な話し方になってきたところに早速本題に入った。
「うーん、あるって言えばあるんですが、正直しっかり思い出せないんですよね」
傷は封印してしまうものだったりするから思い出せないのは仕方がない、よくあることだ。しかもこんなにも男のプライドらしきものが高いタイプはなおさらだろう。
「ハッキリと思い出さなくて良いですし、ハッキリと言わなくてもいいんです。その当時の風景とか季節、場所や人物の雰囲気が浮かべば良いです、ゆっくり思い出してみましょう」
場所や人が何となくわかればそこにジャンプすればいい。エイルが受け取れるかが問題だが、まあ彼女なら大丈夫だろう。
「そうですねー……暑かったかなぁ。夏を思い出しますねぇ。春かもしれないなぁ、5月の熱い日? 綺麗な人と……かわいいお嬢ちゃんかなぁ? いやー、あのころのー……子供のいない人かなー?あの時のー……うーん、悩んでたなぁ。でもどんな話をしたかとか思い出せないんですよねぇ、なんて言ってもお客さん千人なんて超えていますからねー」
なかなかハッキリしない記憶。もう少し風景が見れればタイムシフト可能な気がするんだがーー
「では、その子供のいない女性についてまずは探ってみましょう。その人はどんな雰囲気でしたか?」
「あのねー、えーっと。まだ若かったんだ。20代前半ぐらい。いつも物悲しげで、でも黒髪の綺麗な女性でねー。ちょっとずつ思い出してきたなー。そう、綺麗な子だったよ。でも暴力受けてたんだ、今流行っているDVっってやつだね。当時はなかなか言い辛かったんだ。女性がやっと進出したころだけど、実情は変わらなかったからね。今では結婚して3人に一人はDVの経験があるっていう話があるんだけど、当時はまだそんな情報なくてみんな我慢してたんだよ。昭和の映画とかであるでしょ?父親が母親蹴っ飛ばしてんの、あんなの普通にあったんだよね」
「その人はどんなカウンセリングを?」と、話を忘れる前に続けた。
「いやね、暴力受けているなら警察に相談できるから一緒に行こうっていったんだけど、やっぱり女性が男に惚れちゃうとね、暴力すら愛じゃないかなんて現実逃避しちゃうんだよ、でもそれでも辛いから相談に来ているんだけどね」
その後どうしたのか続けて聞いてみる。
「そのあと?何度も話を聞いて、とにかく警察に相談して、まだ少ないけど支援団体もあるからそこでかくまってもらおうって説得したんだ。彼女、渋々だけど警察には一緒に行ってくれてね、相談したんだけど、警察はまだ事件にはなっていないからといって、だんなに注意だけして終わったんだよ。その後、支援団体に行けばよかったんだけどねー」
「その後どうしたんですか?その人は」
「警察も入って注意してくれたから大丈夫って言って、家に帰ったんだ。しばらくは旦那も優しくしてくれたらしいけど、その後ちょっとした喧嘩のキッカケで再発して。警察に行ったことに激昂して、奥さんを入院させてしまったんだよね」
入院したことで傷害罪となり、入院した病院で付き添っていた旦那は翌日逮捕となった。鋭利な刃物による傷もみられたので、殺人未遂にもなりそうだったが、奥さんの温情でそこまでにはならなかったが、旦那が勾留中に退院した奥さんは旦那の前から姿をけして無事に逃げられたという。旦那は執行猶予付きで釈放、保護観察処分。大事になったことで旦那の目も覚め、女性には近づかなくなったことで一件落着したということだ。
「あー、ハッキリ思い出して来たよ、少ない失敗の1つ。私が救ってあげられなかった事件だ」
少し寂しそうな目をしながら窓から見える空を見上げる。診察ベッドに寝ている彼に、目を瞑って1つの想いを口にしてもらう様指示した。
「あの子を救いたかった!」
エイルのトリガーはバッチリと火野と合致し、私はタイムシフトした。そのジャンプした先は……。
−− 誠心誠意 −−
目の前に火野がいる。私は彼から見えない位置で少し観察した。
今回の任務は『彼女に大きなケガをさせないこと』だ。本当は無理矢理にでも支援団体に逃げてもらおうとしたが、刃物を持ちだした旦那の精神状態を考えると探しだされた時の報復が怖い。全国区のトップニュースになる可能性があるだろう。それならば、彼女が旦那に暴力を受けた際、大きなケガをしないでもらう方がいいだろう。火野の仕事として遂行してもらい、彼の自尊心も回復させなければならない。私は彼女と話している最中の火野に偶然遭遇するという設定にした。私の腕にちょっと細工をして。
たくさんのお客で賑わうお店で話をしている二人がいる。おそらく、他者の目を利用して、旦那からの報復の予防措置だろう。手荒だが有効だ。いきなり街で殴られかねない。
「奥さん、本当に支援団体に助けてもらおうよ? このままじゃ今夜にでも何があるかわからないよ。ウチにかくまうわけにはいかないしなぁ」
奥さんは返す。
「でも、あの人一人にしたら…いきなりいなくなったらもっとひどい目に合わされるかもしれませんし、やっぱり家の事何も出来ないし。」
「でもねー、奥さんに何かあったら大変だよ。家の事なんか出来なくてもね、男は死にはしないから!警察も団体も絶対守ってくれるから! ね?」
「あのー、いきなりしつれいなんですけど……もしかしてご主人に暴力受けてるんじゃないですか?」私が偶然を装い、隣の席から話しかける。
火野が答える。
「いや、まぁあのー関係ない人にはいえないからなぁ……ごめんなさいね」
一応彼女のプライベートを守ろうとしているのは理解できたのはよかった。が、こんなところでそんな聞き耳立てたくなる話をしてたらみんなに聞かれるだろう?少しは考えて欲しいな…。
「実は私も暴力を……」とすかさず返しながら、腕に細工した、リストバンドで隠していたアザをめくって見せた。
「え? あなたもですか?」女性がびっくりして私に聞き返す。
「そうなんです。真剣に話をしていたから力になりたくって、いきなりすみません。でも、私はもう逃れたので大丈夫なんです。だからと思って」
「奥さん、言っても平気なの?知らない人だけど」火野が心配そうに問いかけた。
「はい、経験者のお話をお聞きしたいです」女性が返す。介入成功だ。
それぞれの立場を聞き、火野が臨床心理士の施設で事務兼修行の身、女性が離婚に悩んで臨床心理士に相談に来ていた人だということがわかった。そうか、最初に言っていたお世話したって言う人か。この事件がキッカケで離婚カウンセラーになったのか。
私は火野に話を振ってみた。
「火野さん、おそらくそこまで追い詰められている旦那さんは、もうなにしてもおかしくは無いですよ。逃げたほうがいいのはおっしゃるとおり。だけど、私の経験談からすると、逃げることで彼に火を付けてしまうと思います。逃げずに解決すべきです」
火野はこまった顔で私をみながらこう言った。
「いやーあなたまで…。 しかしねぇ。もしものことがあったらどうするのさ」
ちょっとした提案をした。ドラマの様な、映画の様な、現実味のない作戦だけど、旦那にショックを与えればいいんだって言う提案を。自信はある。現実に通常の時間軸で彼女は亡くなっていないのだから失敗しても被害はすくないだろう、一か八かだ。
「わたしが責任を持とうじゃないか、いざとなったら助けに行くさ!」
火野の目に炎が宿った。
−− トワニトモニ −−
「まさか! やばい!やっちまった! おい大丈夫か! おい!」
−−−−
救急車で運ばれた彼女より先に病院に先回りしていた我々は旦那を監視していた。
「とんでもない事をしちまった……」
男は、電灯をおとされた病院の待合室で、頭を抱えてうなだれている。
おそらく奥さんに愛しい気持ちは残っているだろう、今は自分を責めて落ち込んで動けない。とりあえず旦那はこのままにし、奥さんの元へ向かうことにした。
病室で横になっている彼女の顔は寂しそうだった。けれど、優しく微笑んでいる。
「ああ……大丈夫かい? ケガはない?」
火野が心配そうに近づく。
「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
女性は丁寧に、火野に向かってお礼を言った。
「ああ、よかったー!」
「大したケガはしてないですから。刃物で傷は受けていませんし。大成功でした!」
実はちょっと冒険した作戦をたてた。今となっては笑ってしまいそうになるが。
彼女に旦那が刃物を持って襲いかかってくるかもしれないと伝えていた。私はそうなることはすでに知っているから、あくまで可能性の話として伝えておいた。
襲いかかってきた旦那の足元に転がり込んで、これを使って欲しいと提案した。
「血糊!?」
刃物を持った瞬間、口を抑えるふりをして中に放り込んで、お腹のところでもう一つ握っておくようにした。
まるでコントのような話だけど、案の定襲いかかってきた旦那の足元にいち早く転がり込んで血糊を吐き出しながらお腹のあたりで破裂させた。彼女が中学校の時に演劇部に入っていたのが運命的に功を奏した。刃物は通常柄を持って刃先は天を向いているはず、正直ここは賭けだったけど。
その態勢から足元に転がった人を刺すのにはどうしても刃物を持ち変えなければならず、その時に時間差が生まれる。しかも、元々刺す気もなく、ちょっと傷つけて脅そうとしていただけなんだから、刺される心配も少なかった。
大量の血糊を見た旦那は混乱して、自分が刺したとばかり思い崩れ去って気が動転しているうちに、外で待機していた火野がすでに呼んでた救急車が到着し彼女を病院に見送った。
あとはこの通り。夜中11時の大勝負だった。
もう日付は変わって次の日になっていた。
病院の先生には事情を話し、診断書は正規でいいので、この場だけは話を合せてもらった。
このような救急搬送は警察にかならず連絡が行くので刑事が病院に到着。午前1時17分、任意同行を求められた男は連行され、正直に自供、逮捕となった。
翌日話をきけば、刃物を見た時点で旦那に対する気持ちが無くなった奥さんは、最後の情けで旦那とは喧嘩の延長でこうなってしまったので殺人未遂では無いと事情聴取で話した。ただし、暴力は一方的にあったと話し、彼は傷害罪で起訴、後に裁判で反省の色も強いので執行猶予付き有罪となった。
結果としては現実と何も変わらず、彼女に大きなキズは付かなかった。旦那はもう近づけないと分かり、彼女を諦め離婚を受け入れ人生をやり直す決意を表明した。
そして、タイムシフトのお陰で、1つ判明したことがある。
彼らは半年後結婚した。彼らっていうのは彼女と火野。
火野雄一35歳、彼女は25歳。おそらくここは1999年。7月の恐怖の大魔王以前。
カウンセリング時は自分のクライエントと結婚したことが恥ずかしくて隠していたようだ。別に客に手を出したとかじゃないのにね。まさか私が過去を見れるなんて知らないからウソを通したかったんだろうけど。そのことについては気づかないままということにしよう。悪いやつじゃなかったな。
それをキッカケに火野は独立、『離婚カウンセラー』として歩みだした。
−−−−
タイムシフトで幸せな風景を見た後、火野の仕事ぶりを見て帰る。最初の仕事だ、頑張れと遠くで見守った。
何かが狂ったのか?わからない。
悪夢の原因は奥さんの事件じゃないのかもしれない。
その最初のクライエントは、ひなたの母親だった。