表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216(日刊連作小説No.001)  作者: BATCH
第1章「カウンセリング」
3/8

第1話:#日曜日クライエント 氏名【明智ひなた 様】

  −− 天真爛漫 −−


 アッシュブラウンベースのグラデーションショートボブ、柔らかいナチュラルチーク、フェミニンな白いリネン生地のブラウス、ずっと上がったままの男にモテそうな口角、人形のように綺麗な流行のデカ目メイク。笑えてない口と笑いジワの残る目元。雰囲気のあるワイドデニムスカート、小さめのオシャレ麦わら帽子、花がたくさんあしらわれたペタンコな女性らしいサンダル。消えそうにない腕の傷と配色の不気味なフットネイル。

 #氏名【明智ひなた】 24歳 A型。

 <アケチ>でいいのかな?ふりがなの欄は使用していない。

#職業【フリーカメラマン(見習い)】

 へー、フリーでも見習いなんているのか。まあ別に律儀に書かなくてもいいのに。

#家族構成【父、母、弟、自分の4人】

 あ、確か明日のクライエントはこの子の弟だったはず。兄弟で大変だな。何を解決したいのだろう。話がグチャグチャになるパターンの可能性があるから分けておいて良かったかもね。例の事件も関係している。

 身体的特徴は・・・身長はさほど大きくない、むしろ少し小さめ。ガリガリには見えない、柔らかい感じ。何秒か毎に左下を見る癖がある。目が泳いでいるわけではない。いたって冷静?・・・ウソ?今までの自分に?・・・基本的に笑顔だ。笑えてないけど。優しそうで可愛い顔してるな。ウチのエイルとはタイプが違うけど、どことなく似ている。気のせいかな?私とぜんぜん違うとみんな同じに見えてしまうのかもな。

 #自分自身についてなんでも書いて下さい。【明るいです!オトモダチも多い方です♪家族も仲がいいです☆彡】

 ・・・特に悩みなんかなさそうだ。まあ話を聞いてみないことにはね。このタイプの人は見えない悩みや不安を抱えているのが本当に多いから。いつも気を使っている人は自分に壁を作って悟られないようにしていたりする。楽しそうなことしか書かないのはそういうことだろう。

 アンケートはもういいか、早速話を聞いてみようか・・・。


  −− 能力 −−


 私の名前は咲坂葵さきざかあおい28歳。ショートカットで長身でクールと言われるイメージだけど、そのせいなのか男性と勘違いされる。パンツスーツばかりのせい?まあ真意はどうでもいい。関東のとある田舎の『唯舞町ゆいぶまち』で心理カウンセラーみたいな仕事をしている。

 めったに乗らない電車内での不思議な出会いで、不思議な女の子と共に、不思議な能力に目覚めてしまった。SF映画や占い、神様仏様、来世とかあの世とかもうその辺一切興味無かった私なのに・・・。まさか自分がそんな世界の登場人物になるとは思ってもみなかった。・・・もしかして、もっととんでもない世界が待ってたりするのだろうか?そんな人達に出くわすのだろうか?この世界はもっと未知にあふれていて・・・ダメダメ。私は何を考えているのか。いつからか、そういった類の話に興味が湧いてきてしまっている。へんな妄想癖まで・・・。自分がその立場にいるから仕方がないのだけれど。私らしくない。

 私は人の過去を遡れることが出来る能力『タイムシフト』を可能としている。そして、その人の過去でどうしても直したいことを修正する。今の自分が不幸な場合に限って依頼を受ける。単純に「あの時こうだったらなー」という思い出に振り返りたい、思い出ナルシス希望は受け付けない。今、『生きていることが辛い人』の、やり直すための一歩を手伝っている。倫理的な話をすれば人生を多少ズルをした事になるが、それでも人が幸せになることが出来るならと使命感を持って任務を遂行している。

 ただし、人の生死が大きく動いてしまう事は許されない。歴史が大きく変わることも許されない。その中でも人の生死に関して言えば『ねじ曲がってしまった生命』については修正が可能だということがわかっている。本来殺されるはずもない人が巻き込まれて亡くなってしまったり、自然災害の2次被害、3次被害に関しては修正可能だという実績がある。

まだまだ手探りだけど、『一番、人が幸せになれる方法』を生業とし、毎日模索中だ。


  −− 相棒 −−

 

 遅れている相棒を待っていても仕方ないのでカウンセリングを始めようとした時、業務の備品の買い出しに出ていた彼女が、両手にたくさんの買い物袋を持って帰ってきた。

 「あー、つーかーれーたぁー・・。あ、おはようございますぅ。」

 急いで帰ってきたのだろうが、なんともノンビリ&自由な性格で、クライエントがいるのにも関わらずいきなり大きな声を出してしまう様な彼女には、いつもヒヤヒヤさせられる。

 彼女の名前はエイル。まだ成人したばかりの20歳。先ほど説明した私の能力は、実は一人では発動できないのだ。彼女と共に行うことで実行可能となる。

 彼女の役割は『フィーリング』という、クライエントの感情の受け皿になること。カウンセリング中にいつもそばに居て、クライエントの話の言葉の隅々まで聞き、イメージを膨らませて過去との通信を図る。クライエントの最終的な希望の言葉が言霊となり、それを彼女が同時に発することで『トリガー』となり、それをきっかけに私がタイムシフトする。

 彼女はこの仕事に関して、いなくてはならない存在なのだ。

 しかし、私達はクライエントに能力の話をしていない。「あなたの過去に入り込めます」なんて伝えて、信じる人がどこにいるだろうか?そういうことだ。カウンセリング中に出来る変な間などはごまかすために『催眠療法』と伝えて、ベッドに横になってもらい目を閉じておいてもらっている。近くに医者の使う白衣を見えるようにかけてあるのもそのためだ。

 それはそれで充分怪しいが。

 『エイル、お客さんが待ってる。荷物は置いて早く来なさい。』

 のんびり屋のエイルを急かし、早速カウンセリングを始めようと思う。


  −− 事件 −−


 昨日、8月2日のことだった。

 明日から始まる8月期カウンセリングの6名分の資料の整理顧客データをまとめていた。休みの日を少なく設定しているにも関わらず、こういった事務作業は何日あっても終わらず大変な仕事で、休みを利用して作業に勤しんでいる。

 その時、だれもいないはずの事務所に人の気配を感じた。お化けなんて信じていないので怖くは無いが、急な人影には驚かされる。

 後ろを振り返ると、そこには私がいた。自分が目の前に現れることなど経験ないので一瞬後ずさりしてしまったが、すぐに理解した。未来の私が来たのだと。

 2ヶ月後から来た私は恐ろしい話をしていた。話を聞いてすぐには信じることが出来なかった。私がクライエントに殺されかけるなんて。

 明日から始める8月期のクライエントの中に犯人はいて、その人に刺されるという。他の参加者も彼に刺され、何人も死んでしまうとも言われた。そんなショッキングな話がこの世にあるだろうか。しかも刺した本人は自ら命をたったという噂らしい。私自身は2週間昏睡状態で状況は詳しく教えてもらえなかったようだ。なんと恐ろしくも腹立たしい話だ。

 現れた未来の私は指令を言い残し帰っていった。指令とはまた雰囲気の違う、悲しそうで謝りたそうで、神頼みのお願いをしているように見えた。

 『お願い。彼らを死なせないで。』

 

 どうすれば事件を起こさないように出来るだろう。簡単に考えれば、明日からの客はすべてキャンセルしてしまえば良いと思う。関わらなければ事件は起こらない。でもなぜそう言わないのだろう。未来の私は同じ性格なのだから、本当なら今思った通り、そう言うだろう。でも冷静になって、同じ性格という部分で考えれば・・・。

 そうか。そうだね。彼らを『救いたい』、そういうことなんだ。本来受けるべき相談は解決してあげなければ彼らは救われない。そして、放置してしまえばどこかで同じような事件が起きるだろう。だったら自分が得たせっかくの能力を持ってして、彼らを救って本来の時間軸に戻してあげなければならないんだ。

 とんでもなく恐ろしい話を聞き、すこしだけ怖くはなったのだけど、自分の能力の大切さに気づき、私自身からのミッションをこなすことに決めた。


  8月3日、カウンセリング開始。

 『では。ひなたさん。色々お話を聞いていきたいと思います。』

 あくまで、私達はカウンセラーという立場で話を聞いているので、ひとまずは在り来りな導入を心がけている。タイムシフトの話は出来ないし、したところで混乱を招くだけだろう。

 彼女の悩みは弟の事だった。

 弟の明智宗太朗は現在21歳。いじめを過去に受けていて、ひきこもりになった。現代では生活トラブルでトップに出てくる問題だ。いじめの原因は家族構成。彼らは両親と姉弟というもっとも平均的な家族構成だ。しかし、姉ひなたが言うには『血縁』が問題だという。

 ひなたが10才、宗太朗7才のころ両親が再婚。バツイチ同士だ。姉のひなたは母親と離婚した夫との子、弟の宗太朗は父親と離婚した妻との子だ。分かりやすく言えば母とひなた、父と宗太朗は血縁関係があるということ。現代では珍しくないよくある家庭環境を理由として、姉弟共にありがちないじめを受けた。いじめられている本人の立場からするとけしてありがちな話ではないのだが、「ふたりは親がちがう」という話をどこから聞いてきたのか、一種のからかいが始まっていった。

 姉のひなたは本来活発で元気な性格だったから、いじめの声なんて無視して、少なくても理解してくれる友達を大事にしていることで自尊心を汚されることもなく幼いころをやり過ごすことができた。

 しかし、弟の宗太朗は、どうしてもいじめの声を敏感に拾ってしまい、親が違うという環境は世間ではとんでもない悪なんじゃないかと、自責の念はひなたよりも幼い少年の心と年齢にのしかかった。次第に心を閉ざし、何を恨んでいいかもわからず口数が減り、学校には徐々に行かなくなっていった。

 こういった場合、いじめている側は実はいじめている意識がない。学校で大便をしたら馬鹿にされるあの無意味な『いじり』のつもりで、平均的な環境に合わないものと下話には過敏に反応していた。それは、幼さ特有で何のブレーキも掛からず騒ぐので、悪意がない分とても強烈な印象をあたえるのだった。

 そんな弟をひなたは一生懸命支えようとし、姉という自覚も強く芽生えていた。

 ある日、宗太朗を守ろうと下級生になる彼のクラスに乗り込んだことがあった。もちろん、そんなことをすれば余計に騒ぎたて、『シスコン』『血がつながってないから彼女』『自分じゃ何も出来ない弱虫』と、今聞けば全く筋の通らない悪口を言われるようになる。この頃は一度ターゲットになると何をしてもマイナスな効果しか生まなく、大人から、いじめっこ本人がきちんと泣くまでしからないと事の重大さがわからないものだ。案の定、今回の事をキッカケに宗太朗へのからかいは完全なイジメに昇華してしまった。

 それ以来、ひなたを恨まないにせよ、宗太朗はあまり口をきかなくなっていった。イジメがいよいよ始まったのはひなた12才、宗太朗9才の時だった。

 間もなくひなたは中学校に進学。小学校を卒業したことで、宗太朗は一人になり、毎日の憂鬱が原因で一切登校できなくなる。小学4年生に進学した宗太朗は小学期間の半分を自宅で過ごすこととなる。

 そして、今回の解決したい相談内容は

『宗太朗のクラスに乗り込んだ自分を許せない』

ということだった。

 あっけらかんとしていて元気な女の子だと思っていたが、わざわざここに悩みを打ち明けに来るというぐらいだ、やはりそれなりの理由は存在していた。

 あの時、私が宗太朗のクラスに乗り込まなければ、イジメが激化することは無かったのに。そうやってずっと自分を責めていたのだった。それは悪意のない、ただ助けたいという真っ直ぐな気持ちだったので、本人としてもとてもショックな出来事だった。

 そうして考えてみると、子供はどこまでもまっすぐで、助ける思いも、いじめる衝動も、感覚としては大差が無いことなんだなと思い、すべては正直な気持ちの自然な結果なんだという事に気づく。なんていたずらで皮肉なものなんだ。だって、中にはアンラッキーでは済まされない事件が多発しているのに。


 弟を救えなかった背徳感からなのか、それとも今後の希望を表したのか、最初のアンケートには『家族は仲が良い』と書いてあった。しかし、ここは実は問題なのだ。

 どんな気持ちがあるにせよ、あのアンケートにウソがあると、現在と過去が歪んでしまう。というより、タイムシフトで過去にジャンプした時、情報の不一致により計画が破綻することがあるのだ。場合によっては誰かの命に関わることだ、ここは慎重に考えておきたい。このカウンセリングで情報をしっかりと引き出しておかなければならない重大な作業なのだ。


 充分にひなたの想いを受け、エイルにはこれからトリガーを発動させる。そのために大切な言霊をハッキリさせておこう。そして、今回の我々のミッションは『ひなたをクラスに行かせない』ということだ。イジメを解決することも可能だが、それは明日直に本人に意見を聞いて決めよう。

 そして、我々には最大の任務がある。絶対に事件を発生させないためにいつも以上に過去の隅々を確認しなければならない。

 ひなたに確認してエイルに準備させた。トリガーは・・・


 「宗太朗を守りたい!」


 ちょっとまて!私自身に聞いていた話と違うじゃないか!2008年じゃない!今向かおうとしているのは2002年じゃないか!

 しかし、もうすでにトリガーは引かれ始めていた。


 ーーしかたない、身を任せてみるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ