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216(日刊連作小説No.001)  作者: BATCH
第0章「始まりの景色」
2/8

第2話:スベテはワタシに

  −− 仕事始め −−


 2014年9月30日。

 気づけばもうあの事件から1ヶ月経っている。時間が経つのは早いものだな、なんて、好きな物書き達にならって背中に哀愁を帯びるマネゴトを言ってみたけど、私にはまだ格好がつかないし、そもそも半分は気絶して入院してるわけから、実感なんかあるわけない。早く感じるのも当然だ。こんなことはやめよう、キャラじゃないと少し恥ずかしさを覚えた。最近どうかしてる。傷の影響か、それとも助手のせいか。何にせよ、この町ではなおさらキマらない。


 秋の虫達が泣鳴き続けるもまだ残暑が残るこの季節は、どことなく儚いもので、想いを寄せていたあの人が離れ行く様を思い出す。


 退院して4日目。まだ身体は万全じゃないし、とにかくリハビリが必要。筋肉は落ち、歩くだけで大量の汗をかいてしまう。

 助手であり、私が持つ能力の相棒でもあるエイルに荷物を持ってもらい今日も事務所に来た。進んで何かをするわけではないが、彼女はよく働いてくれる。車の運転もこなれてきた。彼女が死ななくて本当に良かった。

 エイルはまだ若い、と言っても私もまだ若輩者だが、エイルはまだ成人したばかりだ。やりたいこともあるだろうに、私のワガママに付き合ってこの仕事を手伝ってくれている事に言葉に表さずとも感謝をしている。もちろん本人も、父親の復活を願っての行動がきっかけではあるので全部が全部私のために動いているわけではないのは理解している。

 今どきの子だと言えばいいのか、名前も独特で敬語なんかまともに使えたことがない。それでも慕ってくれる彼女に、あまり開かない心の持ち主の私が彼女には開いている。

 背が小さく幼い顔で人懐っこくてちょっとトロいしゃべり方、男が見ればほっとかない小悪魔的なタイプ。そんな、青春をめいいっぱい楽しめる年頃の娘が、こんな陰気な性格の似非スピリチュアリスト、もとい、秘密の特殊能力を使う得体のしれないカウンセラーにお供させておいていいのか時々悩む。彼女がいなければこの能力は成立はしないから、彼女も自分の意志でやらなければ出来ないことなのだが、その責任感で無理をさせているかもしれない。

 それに、母親の世話もしなければならない。あの事故以来、母親は無事退院したが事故の衝撃で身体に障害が残り右足を引きずっている。日常生活にはさして問題はないのだけど、食料品の買い出しや荷物運びには兄妹の手助けはどうしても必要で、どちらから言うでもなく互いに助けあっている。そんな、若いのに大変な想いをしている少女を卒業したての女の子を、特殊な事件に関わらせるのは少し心が痛むが、彼女がいなければ始まらないのも事実、やはり感謝だ。


 今日から仕事を再開する。と言っても新規のお客はまだ当面無理だ。休みの告知をして休業状態のまま。入り口付近の壁には、一ヶ月前の事件の後貼ってもらった臨時休業の紙がある。実はこれ、振り回して刺さったナイフの痕を隠すためにも活躍している。血の付いたナイフはタトゥーの様に壁の隙間に赤を埋め込んでいた。生々しい傷跡には蓋をした。

 私はあの事件の『間違い』を解決しなければならない。けしてお金になる話ではないので、正式な業務再開ではない。これは私自身の、絶対に流してはいけない事件だと考えている。例え歴史が変わろうとも、私は正さなければならない。

 

 それではまず私の仕事について説明しようと思う。私は助手のエイルと共に発見した特殊能力を使い、心と時間に傷を負った人々のケアをしている。私の特殊能力は人の過去を遡って事件を解決する手伝いをすると言うもの。あくまで手伝いなのは、あまりにも直接的に時系列を壊してはならないので、無理やりな変化では無く、間接的に変化をもたらすようにしなければならない。極端な時間操作をするとトリップを停止させられ引き戻されてしまうのだ。歴史を大きく変えてしまったり、人の生死や、存在の根源を変えてしまうのは不可能のようだ。

 ただし、人の生き死にには、実は『間違い』があることに気づいた。過去に一度だけ人の死を止めることが出来たのだ。俯瞰で考えると、おそらくそれは『本来死ぬべき理由はない』場合、どうも訂正が出来るようで。もちろん人が一人生き続けるだけで、その後の子孫誕生や環境に大きく変化はあるけれど、実は本来『修正した結果が正解』のようだ。これはあくまで推測だけれど、あまりに強い怨念や、非人道的な事件・事故に関わった場合、時間軸や存在意義などをねじ曲げてしまうらしい。だから、修正が成功した場合、『本来の時間軸』に戻せているということだ。

 その間違いや変化が戦争や犯罪につながっているような気がしないでもない。

 そんな、神様の様な行いを私がしてもいいものかとても悩むが、授かったものは使わなければ逆に罰当たりな気もしなくはない。というより、そう考えないと神への冒涜だと自分を攻めてしまいそうで、一種のカルマの様なものだと考えるようにしている。

 エイルの能力は感情操作。彼女が爆発的に心を動かすことで過去に遡る為の何か時空の歪的なモノが生まれ、彼女の発した呪文の様な想いの塊、言わば『言霊』をきっかけにトリガーは発動し、私が飛ぶことになる。二人はペアで動かなければならないのだ。

 カウンセリングは月ごとの計算。6人1組となり、月曜のクライエント、火曜の・・・という感じで、1日1人ずつ6日間、それを4週間行う。基本的に土曜日は個人カウンセリングは無しとして休暇をとっている。第2週・第4週の隔週2回の土曜日を6人で集まってそれぞれの悩みを吐き出させて対話させたり、現在の心的状況・対人感情のレベル調査などをしている。個人間の対話のなかの発言の成長度合いでカウンセリングが進んでいるかを図るためだ。

 そして私達はタイムトリップが出来ることはクライエントに話していない。もちろん過去に飛んだ時、その先でクライエントと直接話す機会もあるので、現実世界と過去が数年しかたっていない場合、相手は私を過去に会ったことある人だと認識してしまうのだが、それは『偶然の出会い』として処理している。この理由は、もちろん防衛手段で心霊商法と疑われない為にだ。考えてみれば当然で『私達はタイムトリップ出来ます』なんてふざけたを発言しようものなら新手の詐欺だと告発されかねない。みんながみんなエイルのように最初から信じるわけではない。だって、私なら必ず否定する。

 カウンセリングの際、トリップ中は催眠療法を施術していることにして、患者を診察用ベッドに寝かせて目を閉じさせている。

 私達はタイムトリップの事を『タイムシフト』、実際に飛ぶ事を『ジャンプ』、感情操作を【フィーリング】、言霊の発動を【トリガー】、全体のカウンセリングを【ミーティング】と呼んでいる。この小説の読者には予め理解していて欲しい。さあ、物語に集中だ。

 

 あの事件には6人のクライエントが関わっている。一人ひとりカウンセリング施行の曜日を決め、1日1人ずつ、丁寧に話を聞き、彼らが気づかないうちに過去に遡っている。そのクライエント達と私の合計7人はあの最後の土曜日、2回めの最終ミーティングを行っていた。最期の日は過去を遡る事を必要としないのでエイルには買い物の使いを頼んでいた。あの場所にいなくて本当に良かった。

 

 6人のうちの一人、月曜日のクライエント【明智宗太朗あけちそうたろう21歳、男】。彼が私達を刺した。

 なぜ刺したのか、なぜ刺されなければいけなかったのか。何を想い、何を伝えたかったのだろうか。考えれば考える程、この傷を攻める気持ちが無くなる。彼の心と時間をなぜ回復出来なかったのだろうかと悔やむ。

 彼を始め、あの場にいたほとんどが死んだ。その悲しい話は後々話すとして、あの時に間違って死んでしまった彼らを、その事件を正す事を、今からの任務とする。

 

〜決意〜

 カウンセリング一周目を思い出していた。日曜に始まり、金曜に終わる。一日一人、曜日ごとに行い彼らの話を聞き、エイルがそばで彼らの話のすべてを受けてフィーリングを行っている。決定的な想いをクライエントに言葉にしてもらい、強く発してもらう。それと同時にエイルは復唱し、そのスキに私はジャンプする。それがカウンセリングのいつもの方法。

 2014年8月期のクライエント達には、なんだか不思議な現象が続いた。なんと、彼らのジレンマがある過去は皆同じ時期だったのだ。


 −− 2008年8月 −−


 世の中は北京オリンピックで連日にぎわい、ボルトの世界新記録が毎日報道されていた。日本勢も柔道、水泳、ソフトボールと大活躍をし、歴史的なオリンピックイヤーとなっていた。そんな記念すべき年月に何があったというのだろうか。私はあまりクライエントの悩み意外の詮索はしたくないので、この偶然の一致に驚くも、出来るだけ考えないようにしていた。やはりオリンピックがあったし、そこから流行語も生まれるような年だったから、それだけ人々にとっては印象深い時期だったのだろうと解釈することにしたのだ。

 しかし、今改めて考えるとやはりおかしい。これだけの大事件を起こし、全員の過去のしがらみが同じ時期で、そんな特別な一致はありえない。第一、これだけ不思議な能力を使って仕事をしているのに、そこの奇跡的な事象をなぜ理解しなかったのか。今悔やんでも仕方ないとしても、やはり悔やまれる。

 やはり2008年のあの夏に何かがある。そう思うことが自然な成り行きで間違ってないだろう。

 とにかくありとあらゆる事を調べてみた。2008年に関する話題、事件、自然現象、政治、国際社会。出来る限り全部だ。先に出たオリンピック、デスノート、歴史的なスーパー・チューズデー、南大門全焼、冷凍餃子事件、世界フィギュア浅田選手金メダル、東京湾岸署、米探査機火星へ、四川大地震、赤塚不二夫氏死去、福田総理辞意、ノーベル賞、石川遼史上最年少賞金1億、間寛平アースマラソンスタート。

 どれもこれも、クライエントに何か関係するとは思えず。こういった現実社会のニュースでは無いのだろうか。あまりオカルトチックな話は認めたくないが天文学的な事や風水なども調べるべきなのだろうか。とにかく思いつくままに色々な事を調べた。範囲を広げるとどれも怪しく、どれも正解な気がした。途方も無い確立や関係性が生まれていく。まさしく天文学的な数値が生まれる。

 そんな時、1つの現象に目が行く。

 『ブラックムーン・・・?』

 またの名をシークレットムーンとも言われたりもする。他にもたくさん呼び名はあるがそれはこの際どうだっていい。

 世間一般に認知されているのはブルームーンと言って、満月がひと月に二度見られる現象がある。これはその反対、新月が二度発生する。1日に新月が始まり16日に満月を迎え、31日にまた新月になる。

 月が見えないからブラックムーンやシークレットムーンと呼ばれる。新月には人の力を開放させる力がある、というより正解には月の力で抑制されていた人の潜在能力が開放されてしまうというのだ。

 ・・・もっと冷静になって考えろ。私はどうしたんだ。いくら自分に宿る不思議な力を発見したからといって、そんな都市伝説の様なことが事件にかかわっていると考えていいのか?

 過去のデータをさかのぼりあらゆる可能性を探していた。しかし、やりすぎて冷静な判断は鈍り始めていたようだ。一度冷静になろう。そういって自分を落ち着かせた。

 ふとエイルを見ると、呑気にタロットカードで遊んでいる。別に何かを占うのではなく、絵柄が好きだからという理由と、カードタワーを作って遊ぶのがマイブームの様で、三角形に組み立てたタワーがあと一歩のところで崩れ、悔しさにどこから出ているかわからない声で発狂している。何をやってるんだか・・・。

 彼女も特別な力があるのだから、その潜在能力でタロット占いでもしたら何か分かりそうなものだけど、本人にその気がないものを勧めても仕方ないし、何より自分がそういったものを信じていなかった分際で頼るのもバカバカしい。

 さあ、どうしたものか。知り合いに学者でもいればもっと詳しくわかりそうなモノの、変な能力使いにはとても理解が出来ないことばかりだ。国際社会の陰謀とかそんなのだったらどうしようか。到底自分には手に負えない。だめだ。気づけば思考がオカルトばかりになっている。オカルトの最前線にいるような自分と、それを信仰しない自分との戦いで頭がおかしくなってくる。

 その時エイルがまた大きな声をだして、私はハッとし振り向いた。あと1つで完成するはずだったカードのタワーは脆くも崩れ去り、エイルのひどい落胆がみえる。

 そこに崩れ去ったカードが一枚だけ私の足元に飛んできた。

 『JUSTICE?』

 正義のカード。正位置は確か・・・人に左右されない自立した関係。自分の意志を通すとか、そんな意味があったと思い出した。主要なカードなのでなんとなく覚えている。


 自分の意志を通す、か。

 自分の意志とはなんだろう。自分が助けたい人とは誰だろう。それを助けるのは誰なんだろう。

 

 『私だ・・・!』

 

 私自身の意志を尊重するなら、解決できるのは自分しかいない。そう、彼らとの対話を始める前の自分。


 『エイル!これから私に会いに行く!2014年8月2日土曜日、彼らに会う前の私に会う。』

 

 自分にあうなんて発想はなかった。我ながら見事だ。エイルの笑顔もこれから始まる任務への勇気になる。


  −−。


 あの時の私に無事に会い、事の詳細を話した。まさか自分が来て、しかもとんでもない悲惨な事件の話などするとは思っていない。しかも自分のクライエントに殺されかけるなんて。驚きを隠せないようだけど、自分自身のことだからその反応も想定内だ。

 

 彼女に指令をだした。

 

 『彼らを死なせないで。』

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