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山茶花  作者: 如月 悠明
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心地よい微睡みを感じながら、目に当たっている朝日の光を遮断するように寝返りを打つ。大抵寝不足である俺にとっては邪魔なものである。

そういえば、いつも隣にある温もりがない。鈴はもう起きたのだろうか。布団が熱を持っていないからおそらく俺よりも大分前に起きたのだろう。

ぼーっとする頭を回転させそこまで考え、時間を確認しようと太陽の方を見ると思っていたよりも日は高く昇っていた。


「…寝すぎた」


そう呟き時間を確認すると、丁度巳の刻が終わる頃だった。

ヤバい、本当にヤバい。出かけると約束したのに、誘った俺が寝過ごしてしまった。こういう時に日頃の寝不足を祟ってしまう。


「兵助さん、起きたんですね」


「ああ、うん。おはよう…」


「ふふ、おはようというよりもおそようの時間ですよ?」


「ああもうごめん!俺から誘っといて寝坊なんて…」


「大丈夫です。疲れているんですからお休みの時くらいゆっくりして下さってもいいんですよ?」


「でも…」


「お昼から出かければいいじゃありませんか。それよりも朝餉(あさげ)を食べて体力をお付けになったほうがいいですよ。あ、その前に顔を洗ってきてはくれませんか?」


「…ああ」


怒ってはいないようだが、あまり悲しんでいる様子も伺えない。むしろ少し嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

井戸まで歩くところで久しぶりに近所の人に会った。最近見なかったがどこに行っていたのかと聞かれ、仕事だと告げると「鈴さんに愛想つかされないようにね」と言う言葉が帰ってきた。相手は俺の仕事が何か知らないため仕方がないのかもしれないが、複雑な気持ちになるのは仕方がない。


家に戻るといい匂いが家の中から漂ってきた。

見計らったかのように腹がなると、それと同時にクスっと笑う声が聞こえ「兵助さん、」という声と共に俺を家の中に招き入れる鈴が目に入った。


「朝餉ができましたよ」


「…ああ」


腹の音を聞かれて恥ずかしさもあったが、そんなことよりも腹が減っている。素早く部屋に入って朝餉の席に着くとまた鈴に小さく笑われた。腹が減ってるのだから仕方ないと言ってもなかなかその笑いがおさまらず少しムッとする。


「ふふ、すみません。可愛らしかったもので…」


「…嬉しくないな」


「すみませんって。はい、どうぞ」


「ありがとう。いただきます。でも、男にそういうことは言うものじゃないぞ」


「わかりました」


楽しそうに言われても説得力はあまりないが諦めることにしよう。こうなるとなかなか止まらないため愚痴を言っても仕方がない。楽しまれて終わりになるだけだ。


朝餉を食べ始めると、鈴が「洗濯物がまだ途中なもので」といい外に出て行った。

分かったと返事をし止まっていた手を動かす。


相変わらず鈴の料理は美味い。家庭の味という感じで忍者食とは比べ物にならないくらい美味い。

それにしても、前に鈴の料理を食べたのはいつだっただろうか。毎日食べていた気もするけれど遅い時間、それも明け方ということもある俺のことを思ってか、お結び三個という食事が殆どだった。だからこういう形で食事をしたのは久しぶりと言える。


(あ~美味い)


そう思いながら手と口を動かしているとすぐにお椀の中が空っぽになってしまった。少し小腹がすいているが、買い物に行くときに茶屋にでもよるだろうしいいだろう。


空になったお膳をそのままそこに置いておき寝間着から着替えた。

久しぶりに着る濃紺の着物は、以前鈴によく似合っていると言われたもの。今でもこの着物は気に入っていて、休みの日は大抵これを着ている。他に着物や袴が無いわけではないが、袴はどこか落ち着かず、大抵は着物を居ている。

袴が落ち着かない理由はおそらく俺にとって戦場に出向く装束という印象があるからだろう。休みの日にまで気を張っていてはいつ休めばいいのものか分からなくなってしまう。


「これを洗い終わったら出かけましょうね」


いつの間にか家の中にいてお膳を持っていた鈴にそう言われ、反射的にああと返事をした。その顔が自分で自覚できるくらい緩んでいたことは言うまでもない。

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