第2話 7年の歳月
「え……えっとえっと、なんでそんなみんな固まってるの? ひょっとして金縛り? 石化? それともア○トロン?」
「いや、違うわよ……。なんでこの場面でアスト○ンをしないといけないのよ……」
ミールがそう言っても、黒き勇者は相変わらず『スト○スの杖はどこやったかな〜?』なんて突っ込みどころ満載な事を言って、怪しげな空間を呼び出して探していたが、従者達は目の前の出来事をどうにかするかの方を優先していた。
従者達が思ってること……、それは7年前のあの出来事をどのように説明するかで精一杯だったからだ。
そして校長達も、まさか7年前に失踪し、そのまま行方知れずになった5人が、今、目の前にいる。
それが信じられずに、お互い何も言えずに沈黙が走っていた……。
そして、それを打ち破ったのは……
「……久し振りだな。八雲紫に八雲藍。俺様達の名は覚えているか?」
黒き勇者の副官を務めている、レインだった……。
「あ、あぁ、久し振りだな。勿論覚えているぞ。君の名前はレインこと七夜陵。そっちの男はフラットこと天野悠。そっちの女性はミールこと月夜凜。そしてそこにいる女の子がサーミこと五十嵐風で……」
「……そこにいる、少年が黒き勇者こと、黒崎雅……ね」
「ほぅ……、7年経った今でも名前を覚えているとはな。感心したぜ!」
「まぁ、君らは幻想郷を救ったんだからな。いわばヒーローだぞ。……それなのに、何で突然失踪して、今まで出て来なかったんだ? 色んな人が悲しんだんだぞ? ……主にあの子達らを中心にな」
「あぁ、それについては悪かったと思っている。何せ俺様達も不慮の事故までは防げなかったからな……」
「不慮の事故? ……一体何があったんだ?」
レインの不慮の事故発言に、藍達は真剣な表情をしながら聞く。
「あぁ、少し転送術式が暴走してな。その影響で回帰不可能になって、黒き勇者は記憶を失ったんだよ……」
「転送術式って……黒き勇者がか?」
「ん? 呼んだ?」
「いや、呼んでない。探し物の邪魔をして悪かったな」
「ううん! 全然問題ないよ〜、『藍』!」
「げっ……」
レインが顔をしかめるも、もう遅い。
黒き勇者の不可思議な発言は、藍達の耳に届いてしまったからだ。
「えっ? ……ちょっと待て、黒き勇者。今、私の事を藍と言ったよな?」
「えっ? ……うん、そうだけど」
「……ねぇレイン。記憶喪失って言ってるけど、どこがなの?」
藍が黒き勇者に質問をしに行ったのをみて、紫がレインに質問をし始めた。
「あー……。実はな、転送術式が暴走して、その部分の記憶だけを黒き勇者は完璧に失ったんだよ……。俺様達は問題なかったんだけどな」
「……はぁ、どんなピンポイントな記憶喪失なのよ……。……兎に角、事情は大体は分かったわ。それじゃあ、今度は私達があなた達に説明する番ね。……藍、あなた何時まで黒き勇者に構ってるの?」
「うっ、すみません……紫様」
そう言って、紫は黒き勇者達に1枚のプリントを配り始めた。
「えっと、話はある程度は通知で知らされると聞いたから、簡潔に話すわね。先ず、今配ったプリントにあなた達の担当が書かれているわ」
「ふーん。成る程ね〜」
「……へぇ、そうきたのね」
プリントを見ながら、考える表情を見せる黒き勇者達。
そこに書かれていたのは……
『黒き勇者(黒崎雅)→数学・物理(・化学・生物・英語)担当
レイン(七夜陵)→保健体育・化学担当
フラット(天野悠)→現代文・古典担当
ミール(月夜凜)→英語・現代社会担当
サーミ(五十嵐風)→日本史・世界史(・地理)担当』
と書かれてあった。
「ふーん、じゃあこれをやっていけば良いんだね!」
「そうよ。……それと、この学校は割と余裕があるから、多少無断欠勤しても問題無いから、安心して良いわよ♪」
「「一体何を安心しろと(言うのですか紫様)!?」」
紫の問題(?)発言に、フラットと藍の突っ込みが重なった瞬間であった。
「ほら、黒き勇者には愛されてる可愛い女の子達がいるからよ♪」
「いや、それだけで無断欠勤は……」
「それはありがたいぜ!」
「オイ!!」
先程までの妙な緊迫感はどこへやら、完全に校長室はゆる〜い空間になっていた。
「ん〜と、取り敢えず、次はいつくれば良いの〜?」
「あぁ、次は明後日だ。明日は入学式だからな。出席する教員は、私達と1年の担当になる教員だけだからな」
「……という事は、俺様達は1年の担当ではないんだな?」
「そうよ、あなた達は2年を担当するのよ♪」
「……はい?」
紫の発言に、目が点になるフラット。
「い、いや、ちょっと待て。なんでいきなり2年なんだ?」
「そりゃ、愛されてる彼女達が今年2年生になるからね♪」
「それだけでかよ!?」
紫の理由に呆れかえる、フラットであった。
「……まっ、理由はどうあれ、兎に角明後日来たら良いのね?」
「ああ、そうだな」
「そう。……それじゃ、私達はもう帰るわね」
「そうだな」
そう言って、従者達は帰る準備をするが、
「あ、悪いけどミールと黒き勇者は残っててくれないかしら?」
紫がミールと黒き勇者だけは残るように指示をしたのだ。
「ふーん、分かったわ。じゃあサーミ、亜空間転移で先に戻っておいて」
「あ、うん!」
そう言って、サーミは能力を発動して、フラットとレインを黒き勇者のアジトへと転送させ、自身も戻っていった……。
「あ、それと今から私はミールと話をしたいから、……藍!」
「なんですか、紫様?」
「しばらく黒き勇者の相手をして頂戴。……二番目の棚に茶菓子があるから、それで釣れると思うから」
「はぁ……」
紫の黒き勇者の興味をひかせる方法に、呆れる藍であった。
「えっと黒き勇者」
「ん、なに〜?」
「良いお菓子があるんだが「食べるっ!」って、早いな……」
黒き勇者の食いつきの早さに再び呆れる藍であった。
「じゃあ、あっちの部屋で少し待っててくれないか。すぐに準備して持っていくから」
「うん! 分かったよ♪」
そう言って、黒き勇者は隣の部屋へ移動し、その後すぐに藍も茶菓子を持って、隣の部屋へ行ったのであった。
「……さて、先ずは私だけを残した理由を教えて貰おうかしら?」
黒き勇者と藍が退室した直後に、ミールが何やら試す様な眼差しで紫を見ながら、そんな質問を投げかけていた。
「それは簡単よ♪ あなたが一番融通が聞くと思ったのよ」
「成る程ね。確かにフラットは少し固い所があるし、レインはすぐにR−18方向に持っていこうとするし、サーミは気楽過ぎて不安だから、一番安心そうな私が選ばれたのね」
それを聞いて、ミールは安心したのかいつもの調子に戻って話を続ける。
「そういう事よ。……じゃあ、本題に入って良いかしら?」
「別に良いわよ。私はいつだって準備は出来てるわよ?」
そう言って、ミールは手で準備万端と示していた。
「そう。じゃあ話すわね。……実は黒き勇者の事なんだけど」
「一応分かってるわ。どうせ私達を副担任にさせようって事よね」
「えっ? え、ええ。そうなのよ。……けど、どうして分かったのかしら?」
「伊達に黒き勇者の従者をやっているわけではないわよ?」
紫の質問にミールはくすりと微笑を浮かべながらそう答える。
流石の紫も、ここまで分かっていたとは思ってもいなかったようで、少し驚きの表情を浮かべていた。
「……はぁ。じゃあ私が話す必要無いじゃないの」
「そんなこと言われても困るわよ」
「……まぁ良いわ。貴女の言った通り、黒き勇者は精神的に未熟過ぎるのよ。だから、あなた達には副担任になってもらって補佐して欲しいのよ。……まぁ、副担任が4人って言うのも妙な話なんだけどね」
「まぁ、確かに普通は1人か2人だものね。……えっと、話はこれだけかしら?」
これで話が終わったのか、と確認するミール。
「ええ。というか、元々の目的はこれなのよ」
「成る程ね。まっ、取りあえず黒き勇者については善処はするわ。それじゃあ、私も帰るわね」
そう言って、ミールは窓から外へ飛び出して行ったのであった。
「藍、これすっごく美味しいよ〜♪ お代わりある〜?」
「はいはい。今持って行くからちょっと待っててくれ」
その頃、黒き勇者は藍に茶菓子のお代わりを頼んでいた所であった。