第1話 偶然と再会と動き出す歯車
その後、しばらくフラットと雑談していると、キッチンの方から黒き勇者の声が聞こえてきた。
「フラット、レイン、ミール、サーミ〜! 朝食が出来たから〜!」
「分かったわ」
「了解」
「じゃ、早く来てね〜♪」
そう言って、黒き勇者はバタバタと何かの準備を始める音を出した。……大方、転送術式でも練ってるのでしょうね。
「ミール、早く行くぞ。どうやら、レインとサーミももう起きてるらしいからな」
どうやら残りの2人も既に起きているようね。
「そうね。早くしないと黒き勇者が作った料理が冷めるわね」
そう言って、私もフラットの後を追いかけていった……。
「久し振りに黒き勇者の料理を食べたが……相変わらず腕は落ちてないな」
「半年位作ってないから、大丈夫かな〜って思ってたけど、口に合うなら何よりだよ〜♪」
そう言って、安堵の息を吐く黒き勇者。……確かに、半年前に食べた時と味は変わっていないわね。
「だけど、妙な話だよな」
「ん? どうしたのレイン?」
黒き勇者にレインと呼ばれた青年は、黒き勇者の方を向いて神妙な表情を浮かべながら話し始める。
「普通、原作名位は出る筈だろ? なんで今回は、原作名じゃなく空間座標になってるんだ?」
「んー、確かにね〜」
レインの話した内容は、私も気になっていたことだった。
確かに今回の行く先はまだ分かっていないし、いつもなら原作名が記されていたから、大体は想像が付くのだけど、今回は場所を記した空間座標のみ。
残念だけど、これだけでは流石に私達でも行く先は分からないわね。
「まっ、直ぐに分かるよ♪ んっ……、デザートデザート♪(パチン! パッ!)」
そう言って、黒き勇者は右手で指を鳴らすと、左手からクレープが現れた。
……どうやって出してるのか、っていうのは、空間能力の応用と言っておくわ。
「相変わらず、それは便利だよね〜。一通りの物は出せるんでしょ?」
「まぁね♪」
そう言いながら、クレープを食べる黒き勇者。
そして、食べ終わると一気に立ち上がって……
「じゃっ、転送術式の仕上げに入るから、早めに準備しておいてね〜♪」
そう言って、黒き勇者は颯爽とリビングから出て行ってしまった。
「やっぱり、黒き勇者は相変わらずだよな」
「そうだよね〜。……それより、私達も早く準備しない?」
「そうだな! 黒き勇者は結構転送術式完成させるの早いからな!」
「そうね。……それじゃ、一度戻るわね」
そう言って、話を切り上げた私達はそれぞれ各自の部屋へと戻っていくのであった。
☆
「へえ〜、此処が新しい世界か〜。……大きな学校だね〜♪」
「確かに、ここの学校は大きいな……」
あの後、準備が終わり、黒き勇者の方も準備が終わり、転送術式によって私達のアジト諸共この世界にやってきた。
現在、私達はこの学校の学校長に挨拶をするためにやってきたのよね。
そして、黒き勇者とフラットは、目の前に広がる学校を目にして、感嘆な声を上げている。
「まだ、入学式が始まる前なのかな〜?」
「そうだろうな」
「まぁ、桜が満開になる頃だから、もうすぐ始まるとは思うけどね」
そんな感じの会話を続けながら、私達は校舎に入り、校長室に向かい歩を進めていた。
……だから、私達は気付かなかったのよね。後ろから私達のこの様子を見ていた、複数の影の存在のことを……。
☆
「うー……、なんで私が春休み最後の日に入学式の手伝いをしなきゃ……」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい鈴仙さん」
「そうですよ。……私なんて、パチュリー様の代わりなんですから」
「うにゅ〜、私も手伝いに呼ばれたよ?」
そう言って、学校へ繋がる道を歩くのは、狂気の月の兎こと鈴仙・優曇華院・イナバ、守矢神社の巫女の東風谷早苗、図書館の使い魔の小悪魔、地底の烏である霊烏路空だった。
「でも、折角の休み最終日くらい──!」
鈴仙はそう言って、溜め息を出そうとして……固まった。
「……え、う、嘘……なんで……」
そして、驚きのあまり言葉が詰まってしまい、途切れ途切れになる。
「鈴仙さん、何があったんですか?」
「あ……、あれ……」
早苗が不思議そうな表情で鈴仙に駆け寄ると、鈴仙はある方向を指差した。
「一体何をみ……た……」
「あっちに何……が……」
「えっ? どうし……た……」
3人は鈴仙が差した方向を見て……やはり同じように固まった。
「え……、どうして……」
「嘘……信じられない」
「え、えええっ、なんで……?」
4人の視線の先には、楽しそうに従者達と話す、黒き勇者の姿だった。
そして、彼らはそのまま校舎に入って行った。
「……あれって、本物? それとも……幻?」
「さ、さぁ……? と、兎に角追ってみましょう!」
「そ、そうね!」
何やらギクシャクしながら、黒き勇者の追尾に入る4人であった。
☆
「ん〜? ここかな?」
僕達は今、一際大きい扉の前にいた。……なんか凄く豪華な扉だよね〜。
「校長室って書いてあるしそうだな。……早く入って事を済ますぞ」
「そうだね〜。……よし!」
僕はそう言って、扉をノックする。
しばらくして『入りなさ〜い♪』という何やらお気楽な声が聞こえてきた。
「……ん? 何処かで聞いたことある声だな……」
隣で何かフラット達が何やら呟いていたけど、僕はあまり気にせずに扉を開け……
「失礼しま〜す!」
あっと言う間に校長室の中へと入っていった。
「「……えっ?」」
「……ん?」
そしてそこで見たのは、懐かしい2人の女性だった。
……だけど、何故か2人とも信じられないような物を見る目で僕を見ていた。
……なんで?
「えっと……背後霊でも僕に取り憑いてるの?」
取り敢えず、僕は無難な事を言ってこの空気をどうにかしようとした。
「おい、黒き勇者。なんで背後霊の話になるんだ……ってはい!?」
「そうよ。ここはお化け屋敷じゃないんだから……って、そうきたのね……」
「よーし、何やら気まずい空気だから入るぜ! 失礼する……成る程な、どうりで座標なわけだ」
「あれ? みんなどうしたの……って、あ、あはは……はは……」
「「えっ、えええっ!?」」
けど、それは僕の従者達により、一気に悪化したのであった。
……どうしよう?