0話—神からの祝福—
誤字脱字などがあったらすみません。
初めてのオリジナル作品で至らぬ点もあると思いますが
楽しんでいただけたら嬉しいです!
神からの祝福
この世界において、神性とは奇跡ではない。
呼吸と同じ、生まれながらに身体の内側に与えられた摂理にすぎない。
火を飼う者がいる。
水を掌の上に招く者がいる。
土を割る者。
あるいは記憶と意識という、最も脆い領域に手を出せる者もいる。
それらの力の根源が、遥か太古、神話という名の器に封じられた神々であることを、今では疑う者はもういない。
この世界に生きる者のうち、七割の身体には神の力が眠っている。
「月城、また寝てただろう」
「寝てない寝てない。ちょっと目を閉じてただけ」
「それを世間では寝るって言うんだよ」
「細かいなぁ」
午後の光は斜めに床を照らし、ほこりの粒子までも金色に染め上げていた。
窓際の席で、月城朔は笑いながら頬杖をついている。
午後の授業を終えたばかりの教室には、生徒たちの喧燥がまだ湯気のように立ちのぼっていた。
誰かが力の稽古をしているのか、校庭の隅で小さな風が一つ渦を巻き、砂を巻き上げていた。
朔は羨ましいと思いながら、校庭から視線を逸らした。
「朔、今日放課後暇?」
「多分暇」
「じゃあ——」
「……あれ?」
朔はなにかと目が合った気がした。
しかし、朔が向いていた方向には人がいない。
「朔?」
「いや……なんでもない」
目をこすり、もう一度見る。
先ほどとは違い、いつもと同じ景色だ。
きっと気のせいだ。
そう思って友人と話そうとした、そのとき。
額の奥に、灼けた鉄を押しあてられたような激痛が走った。
「痛い……ッ、ぅ!」
思わず抑えた指先に、燃えるような熱が伝わる。
冷や汗がたらたらと滴り落ちた。
「大丈夫か? 一回額を見せてみろ」
そう言い、友人がゆっくりと朔の手を額から動かす。
「朔、お前……ッ!?」
友人が慌ててポケットから手鏡を取り出し、朔に突きつけた。
鏡に映った自分の額には、見たことのない文様のようなものが浮かんでいた。
二つの顔が、互いに背を向け合うようにして刻まれている。
「な、なにこれ……?」
朔の口元から、笑みという笑みが音もなく剥がれ落ちた。
周囲の人々は変わらず口を動かし、瞬きをしている。
それなのに、自分だけが世界から丁寧に切り離されている――そんな感覚だった。
教師が慌てて駆け寄ってくる声すら、もはや遠い水底からのもののように感じられ、まともに届いていなかった。
『ようやくか』
低く、凪いだ声が頭の中に響いた。
「だ、誰……?」
『そうか。お前が私を見るのはこれが初めてだったな』
ハッと気づいたときには、眼前に一人の男が佇んでいた。
褐色に灼けた髪に、深緑の瞳。
彫の深い相貌の上には、顔の半分を覆う仮面がついていた。
一枚の布を纏っただけのその姿は、人の形をしていながら、人ではないのだと問答無用に悟らせる何かを放っている。
「私はヤーヌス。扉を司り境界に立つ柱。そして——お前を護る神だ」
「護る……?」
「そうだ。お前が死ぬまで」
「俺には神の守護はないはずだ。なんかのドッキリか?」
朔は思わず笑った。
乾いた、信じきれない笑いだった。
ヤーヌスは表情を変えない。
「……いいだろう」
彼がゆっくりと歩き出し、教室の窓ガラスに触れた。
パリン、と硬質な音が響く。
それを皮切りに、ガラスが、机が、黒板が、飾られた花瓶が――彼が触れたもの全てが生き物のようにひび割れ、粉々に砕け散っていった。
「ひっ……な、なんだこれ!?」
「月城の前に、誰かいるぞ……!?」
次の瞬間、まるで世界の時間が巻き戻ったかのように、周囲の悲鳴が朔の耳に飛び込んできた。
先ほどまで朔を置いてけぼりにしていたクラスメイトたちが、恐怖に顔を歪めてヤーヌスから距離を保とうと身を引く。
「お前……何をしてるんだ!?」
現実の惨状を前に、朔がヤーヌスに触れようと手を伸ばす。
ヤーヌスはただ、静かに指をパチンと鳴らした。
一瞬の静寂の後、先ほどまでボロボロだった教室のすべてが、何事もなかったかのように元の綺麗な姿へと再生される。
『教えてやろう。お前に与えられた力は破壊と再生だ』
ヤーヌスは、まるで判決でも下すかのように、告げる。
『相容れぬ二つを等しく司る力。それがお前という一個の器に宿った力だ』
朔は、返す言葉を持たなかった。
ただ目の前に立つ神を——二つの貌を分かち持つその神を、ただ茫然と見ていた。
始まりと終わり
過去と未来
破壊と再生
相反する二つの極を、等しく抱いた神。
――これは、神々の愉悦のゲームに、バグとして見出されてしまったひとりの少年の物語。
――そして世界を二分する神々の大戦争へと巻き込まれていく、始まりの物語である。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は二人の出会いでしたが
後々は世界の決まりや他のキャラも出していきたいと思います!
少しでも「面白いな」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク登録】や【評価(星評価)】をポチッと押していただけると、執筆の凄まじい励みになります!




