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7 転職悲喜こもごも

 転職神殿を開いて3ヶ月、立派な転職神殿が完成した。

 転職神殿を真っ先に建築するなんて、止めてほしいと言ったが、聞き入れてくれなかった。村長が言う。


「これは聖女殿に対するせめてもの礼じゃ。まだ報酬は払えておらんしな。気にすることはない。他の建物もこれから随時建設していく。ジョブ持ちたちが頼もしいからのう」

「ありがとうございます。ところで、私は聖女ではなく、転職神官なのですが・・・」

「魔族では、有難いものを授けてくれる女性を聖女と呼ぶのじゃ。魔族にとって神官は馴染みがないから、聖女のほうがしっくりくるのじゃ」

「聖女なんて、恐れ多い・・・」


 これが本部にバレたら大変なことになる。

 人間社会で聖女といえば、転職神殿の上部組織であるマーズ教会が認定する教皇と並び称される役職だ。勝手に聖女と名乗って活動するなんて、異端審査にかけられて、極刑もあり得る。


 既に「ヤミ神官」になっているし、審問官も来ることはないし、まあいいか・・・


 これが後々、大変な事態を引き起こすことになるとは、夢にも思わなかったけどね。



 ★★★


 転職によって、大喜びしている者ばかりではない。辛い思いをしている者もいる。

 一人はゴブキチだ。これは自業自得なんだけどね。


 ゴブキチのジョブは「ゴブリンライダー」だ。

 人間で言う「騎兵」に当たるジョブで、馬や騎獣に乗ることで更に力を発揮する。結構なレアジョブで、どこの国に行っても、引く手あまただ。優秀な騎兵は、どの国も喉から手が出るほど欲しいからね。ただ、ゴブキチの場合は、状況が異なる。


 転職した直後、ゴブキチは歓喜した。

 レアジョブで戦闘力も高いジョブだったからだ。そして、調子に乗ったゴブキチは、戦闘職の仲間たちに上から目線で、接するようになる。そしてこう言ったそうだ。


「俺はお前らとは違う。だから俺がリーダーだ。それでいいな?」


 あれ程ジョブによる優劣はなく、ジョブによる差別は駄目だと指導したのに・・・


 そんなゴブキチに天罰が下った。すぐに乗れる騎獣がいないことが判明する。村に馬は数頭いるが、ゴブキチの小柄な体格では、乗ることができない。そして、仲間たちも気付いてしまった。


「ゴブキチって、自分は特別だとか言っているけど、俺たちと大して変わらないんじゃ・・・」


 実際、「ゴブリンライダー」は騎獣に乗らなければ、「ゴブリンソルジャー」と大して変わらない。決して弱くはないが、群を抜いて強いわけでもない。あくまでも騎獣とセットで輝くジョブなのだ。なので、ゴブキチは最近、仲間から白い目で見られている。そして、実質のリーダーであるゴブコに厳しい指導を受けることになった。


 それで、村長に泣きついたゴブキチは、行商人が来た時にロバを買ってもらうことで話がついたようだ。なので、ロバを買うために、訓練と狩りの後に建築現場で下働きをしている。そんなゴブキチに心無い言葉をゴブコが投げかける。


「ロバに乗ったところで、それでどうなるのよ?アンタ、馬鹿じゃないの?」


 泣き崩れるゴブキチに、私は優しく声を掛ける。


「ジョブによる差別の辛さを身を持って体験できたと思います。このことをよく反省し、今後の人生に役立ててください。罰として、特別訓練を行います」


 ゴブキチの悲鳴が聞こえてきた。



 ★★★


 ゴブキチはまだいい。自業自得だからね。

 問題はゴブミだった。


 私の「ジョブ鑑定」は、少し特殊で転職できるジョブだけでなく、今は転職できなくても、努力すれば転職できるジョブが分かってしまうのだ。これを活用して村人たちのモチベーションを上げた。実際、最初は転職できなかったけど、努力を重ねた村人が、ゴブリンソルジャーとゴブリンファーマーに転職した。

 この鑑定で、ジョブを持たない村人すべてに適職があることが判明した、ゴブミを除いて。


 ゴブミはかなり落ち込んでいた。

 元来体が弱く、活発な姉のゴブコに迷惑を掛けていると思い込んでいる。実際、そんなことはなく、少しズボラなゴブコを上手くフォローし、家事全般をやっているんだけどね。


 村人たちは、みんな優しい。

 だから、ゴブミに対して、変に優しくしてしまう。それがゴブミには、逆に辛い。ゴブコからも相談を受けた。


「だったらゴブミには、転職神殿のアシスタントをしてもらおうと思っているのよ。それなら、ゴブミも辛くないだろうし、何たって私も助かるしね」

「じゃあ、エクレア。お願いするわね」


 ゴブミにこのことを伝えると、ゴブミは言った。


「何の才能もない私に優しくしてくれて、エクレアも村のみんなも優しいわね・・・私なんて、お姉ちゃんの足を引っ張ってばかりだし。お母さんが死んだのも私を産んだからだし、それにお父さんが死んだのも体の弱い私にいい物を食べさせようと無理をしたからだしね。私なんて生まれて来なければよかったのよ」


 ゴブコがゴブミをビンタする。


「何を馬鹿なことを言ってるのよ!!私はゴブミがいたから頑張れたのよ。ゴブミが生まれてきてくれて本当によかったと思ってるんだからね。私にとったら、ゴブミが居てくれるだけで有難いのよ」

「お、お姉ちゃん・・・」


 泣きながら二人は抱き合った。


「ゴブミ、私は本当にアシスタントが欲しいのよ。このオファーをしたのもゴブミの能力を買ってのことよ。ゴブミは気付いてないだけで、家事も計算もできるし、交渉事も上手いからね。だからお願い、私を手伝って」


「うん!!」


 ゴブミは笑顔で言った。


「それとね、転職で苦労した人はほど、いいジョブに巡り合えると言われてるんだよ。だから、神様はゴブミに最高のジョブを用意してくれているはずだよ」


 これは本当のことだ。

 私は、ゴブミに「勇者」の話をした。人間社会で「勇者」というジョブはレアジョブだ。しかし、「勇者」は転職するまでにかなり苦労する。なかなか転職できなかったり、転職するまでは魔力も体力もない。


 なぜそんなことになっているかというと、諸説あるが、強い力を持つ者は、他人の痛みを知るべきだという神様の思いではないかと言われている。


 これはゴブミに言っているようで、私自身に言っている。私は「上級転職神官」というジョブにありながら、「転職」のスキルが使えないという状況にあった。それでも頑張った結果、今の私がある。


 まあ、転職神殿は追放されたんだけどね。

 それもまた人生だ。

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