68 決戦 3
反乱軍の騎士たちが、市民を攻撃したことで、市民たちはパニックに陥っている。
その市民たちを守るように、各部隊が出撃した。部隊の出撃を確認すると、反乱軍の騎士たちは、撤退を始めた。市民たちを囮に自分たちは逃げ出すようだった。
追撃しようとするが、市民がパニックになっていて、非常に危険な状態だ。
国王陛下が指示する。
「とにかく、市民を落ち着かせよ!!追撃はしなくてもいい。行先は王都だ!!体制を整えて、後日攻めればいい」
反乱軍の騎士たちが撤退したが、多くの市民が現場に残された。
その支援もしなければならないし、臨時の転職神殿出張所を開設し、再転職もさせる。そんなことをしているうちにあっと言う間に10日が経った。
諜報部隊によると、案の定、反乱軍は王都に逃げ帰ったようだ。
軍議で国王陛下が言う。
「明日には、アバレウス帝国を中心とした連合軍と合流できる。合流が出来次第、王都へ向けて侵攻する」
最終決戦は王都となるようだった。
★★★
~マロン視点~
エクレアが、城壁に立って演説しているのが分かる。
何が「呪いのジョブに転職させられている」ですって?嘘を吐くのも、大概にしてほしい。
念のため、近くの市民をジョブ鑑定してみると、「愚者」という、見たこともないジョブだった。
なぜ?
そんなことを思っていると、市民たちの間で、混乱が起き始めた。
そして、「私が極悪な魔女で、騙して呪いのジョブに転職させた」というデマも流れ始めた。
「違います!!皆さん、落ち着いて!!私は決して騙して・・・」
「愚者」には転職させていないが、「狂戦士」や「死霊術師」には騙して転職させている。それで言葉に詰まった。
こうなるともう止められない。
私たちに向かって来ようとする市民も出て来た。私はユリウスを見た。
「もう駄目だな・・・とにかく逃げるぞ!!おい!!馬鹿な市民どもに攻撃をしろ。弓と魔法で適当にやっておけ。パニックにさせればそれでいい。その間に俺たちは逃げるぞ。馬鹿な奴らも、これくらいは役に立ってもらわないとな」
市民を攻撃するなんてあり得ない。
しかし、私はどうすることもできない。私はユリウスと神官騎士たちと共に王都へ逃げ帰った。
王都に着いたからといって、状況がよくなるわけではない。
報告を聞く限り、絶望的な状況だ。相手の戦力は、こちらの5倍以上にまで膨れ上がっている。これは、アバレウス帝国を中心とした連合軍が、ホーリスタ王国軍と合流したことが大きい。
ユリウスが怒鳴る。
「何だと!!もう勝ち目がないじゃないか!?」
「それはそうですが、転職神殿本部からは、このような指示が・・・」
報告に来た騎士が、ユリウスに耳打ちをしていた。
「なるほどな・・・こんな馬鹿でも、使い道はあるってことだな・・・」
ユリウスは私に向き直って言った。
「今からお前が、女王様だ。王都の乗っ取りも非人道的な強制転職も、すべて聖女マロンが勝手にやったことだ」
「そ、そんな・・・私は指示に従っていただけで・・・」
「本部の決定だ。有能な俺は引く手あまただから、逃げてこいって命令が出てる。じゃあ、頑張れよ。女王陛下」
私はユリウスを引き留めようとしたが、振りほどかれた。
私は失意の中、玉座に座る。
私の周りには、狂化状態の「狂戦士」と気の触れた「死霊術師」しかいない。
私はユリウスからもらった禁止薬物を大量に口に含んだ。
もうすべてを忘れさせてほしい・・・
★★★
朝日を浴びて、目が覚めた。
私はすぐにベットから飛び起きて、身支度を始める。絶対に遅刻は許されない。なんたって、今日は私が転職神官としてデビューするのだからね。
身支度を整えると、私は食堂に向かう。
あれ?なんかいつもの屋敷の感じと違う。気のせいだろうか?
そういえば、寝室の感じも変わっていたような・・・
多分気のせいだろう。
食堂には、お父様とエクレアお姉様、そして見知らぬ男性が席に着いていた。
「おはようございます、お父様、お姉様」
「おはよう、マロン」
「おはよう」
私が席に着くと、朝食が始まる。
私は疑問に思ったことを口にする。
「あれ?お祖父様は?」
「マロンには、言っていなかったな。急遽の出張が入ったんだ」
「なんだ・・・折角、私の転職神官としての初出勤の日なのに・・・」
エクレアお姉様が言う。
「マロン、私たち転職神官は、転職者のための存在よ。転職者にとって、ベテラン転職神官も新米転職神官も関係はないし、転職神官の特別な日なんて、関係ないわ。今もお祖父様は、転職者のために頑張っているのだからね」
「分かってるわよ。ちょっと残念だったなあ・・・って思ったのよ。私の晴れ姿を見てもらいたかったのに・・・」
お父様が優しく言う。
「だからこうして、エクレアと二人して、祝っているんじゃないか。今日の朝食は少しだけ豪華だっただろ?デザートのケーキは特注品なんだぞ」
「そうね・・・お父様、お姉様、本当にありがとうございます。私、頑張るね」
そして、ここでもう一つの疑問を口にする。
「ところで、そちらの方は?」
エクレアお姉様の隣に座り、一緒に朝食を取っていた男性について聞いてみた。
褐色の肌で、結構なイケメンだ。
「初めまして、マロン殿。アルベールという。エクレア殿の婚約者だ」
「えっ!!本当に!?ユリウスはどうしたのよ?」
エクレアお姉様が答えづらそうに言う。
「婚約破棄になったのよ・・・」
「マロン、おいおい話そうと思っていたんだが、その件はまた今度話そう。それよりも時間がないぞ。初日から遅刻したら大変だぞ」
上手く話を逸らされた。
ただ、ここで根掘り葉掘り聞くのは、エクレアお姉様が可哀想だ。私はこれ以上この話題に触れないことにした。
でも待てよ・・・だったら、私がユリウスと・・・
そんなことを思っていたら、お父様に声を掛けられた。
「マロン、我が転職神殿では、女性スタッフが「聖女」と呼ばれているんだ。だから・・・」
私は自信満々に言った。
「分かっていますよ。「聖女」としても「転職神官」としても恥ずかしくない振る舞いを致しますわ。なんたって、私はお祖父様の孫で、お父様の娘で、エクレアお姉様の妹なんですからね!!」
こうして、私の転職神官としてのキャリアがスタートしたのだった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
次回が最終話となります。
新作を書きましたので、よろしければ、ご覧ください
鋼鉄の聖女~勇者召喚されたOLですが、不遇なジョブの所為で追放処分を受けました。でも実は、私のジョブは最強のようで、いつの間にか無双しちゃってます。」
https://ncode.syosetu.com/n3850ku/
あらすじ
一条葵は三十路のOLだ。剣と魔法のファンタジー世界であるザマーズ王国に勇者召喚されたのだが、与えられたジョブは「鉄の女」、スキルは「鋼鉄化」という全く使えないジョブとスキルだった。全身が鉄のように固くなり、ダメージは受けなくなるが、身動き一つ取れない。葵の他にも高校生4人が勇者召喚されたのだが、その4人はいずれも「勇者」「剣聖」「大魔導士」「聖女」のレアジョブを持っていた。その4人からは年齢のことで馬鹿にされ、召喚したザマーズ王国も葵を無能と判断して追放を決める。しかし、葵のスキルは、使い方によっては、最強スキルだった。とりあえず、冒険者になった葵だが、素晴らしい仲間と出会い、その才能を開花させていく。
これは、「鋼鉄の聖女」として異世界を無双する三十路OLの物語である。




