67 決戦 2
私は今、敵の野営地に潜入している。
一緒に潜入しているメンバーは、お父様、アルベール、シャタンさん、カール王子と護衛騎士のザバスさん、そして、ゴブキチとゴブコだ。
カール王子に声を掛ける。
「カール君、本当によかったんですか?王子なのに、こんな危険な任務に就いて・・・」
「エクレア先生だけを危険な目に遭わせることはできないからね」
「アルベールもいますし・・・」
「アルベールだって、王子だろ?それに・・・そっちのほうが心配だ」
そんな会話をしている横で、アルベールとシャタンさんも話をしていた。
「母上が来られなくても・・・」
「あら?今までもそうだったし。こう見えて、私は諜報部隊の隊長よ。私がいたほうがいいでしょ?」
実際、諜報部隊の支援とゴブキチたちの「影移動」で難なく潜入できている。まあ、敵の重要拠点ではないし、そもそもが使い捨ての市民部隊を中心にした野営地だから、碌な警備もしていない。
お父様が言う。
「そろそろだが、エクレア、この位置からでも大丈夫か?」
「やってみますね」
私はスキルを発動させる。
発動させたスキルは二つ。「集団転職」と「懲罰転職」だ。「集団転職」は複数人を一度に転職させるスキルで、「懲罰転職」はジョブ自体にマイナス補正の掛かったジョブに転職させるスキルだ。その名の通り、懲罰的な意味合いの強いジョブばかりだ。私はその中から「愚者」というジョブと「怠け者」というジョブを選んだ。どちらも、ステータスが下がり、少し無気力になる。他のジョブにも転職させられるが、他はかなり呪われたジョブなので、この二つを選んだ。
それを野営している集団に行った。
ここに連れて来られている市民は、大きく分けて二つのタイプに分類される。
一つは普通の「剣士」や「魔導士」などのジョブに転職し、マロンや教会に騙されて志願した者だ。もう一つは、強制転職によって「狂戦士」や「死霊術師」に転職させられて、無理やり連れて来られた者だ。
前者は説得すれば、こちらに引き込むことができるが、後者は正常な判断ができない状態だ。
「狂戦士」も「死霊術師」も忌み嫌われているジョブではあるが、ジョブ自体が悪いジョブではない。「狂戦士」の「狂化」は上手くコントロールできれば、戦闘力が飛躍的に上がる。ただ、コントロールするには、かなりの修練が必要だ。以前に生まれながらの「狂戦士」の少女を指導したことがある。彼女は、他の適職が見付からず、特例で転職者にだけ行う初期研修を行ったことがある。
何とか「狂化」をコントロールできるようになった彼女は言った。
「本当にありがとうございました。村では、キレやすい暴力女と呼ばれていたんですが、これなら大丈夫です。自分の特性と向き合い、努力していきます」
彼女は、今では某国軍の部隊長まで上り詰めている。
また「死霊術師」は、転職と同時に死霊が見えるようになり、アンデッドも引き寄せる体質になってしまう。こちらも上手くコントロールすればいいのだが、転職したてで、スキルもない者は、必ずといっていいほど、精神に異常をきたす。ひっきりなしに死霊にちょっかいを掛けられたら、眠れなくなるしね。諜報部隊の話では、彼らに「神の救い」と言って禁止薬物を渡し、正常な判断力を奪っているそうだ。
でも本当に許せない。
こんなことをしていたら、「狂戦士」や「死霊術師」が酷いジョブだと差別されてしまう。それをマロンがやっているなんて・・・
★★★
スキル発動後、お父様に確認をしてもらう。
「成功しているね。「愚者」と「怠け者」になっているよ。ただ、騎士たちには効果がないようだ」
「多分、ジョブの習熟度に関係があるのだと思います。もっと近くで、もっと魔力を込めれば可能だと思いますが・・・」
「その必要はないだろう。急遽転職させられた市民さえ救えれば、いいのだからね」
シャタンさんが、諜報部隊に何か指示を出し始めた。
「後は任せてよ。噂を流しておくからね」
そんな活動が連日続く。
大半の市民を「愚者」と「怠け者」に転職させることができた。諜報部隊の工作も相まって、市民の三分の一は、戦線を離脱している。国が落ち着いたら、お触れを出してもらって、再転職をさせてあげないと、流石に可哀想だ。
そしてとうとう、ランカスター転職神殿支部まで、後1日の地点まで、敵がやって来た。
当初から、この地点で迎え討とうと、要塞化もしていた。もちろんドワーフたちや職人たちを大勢連れて来たことは言うまでもない。
砦建設の責任者であるドワンゴさんが言う。
「獣人の里の砦よりも立派じゃろ?早く敵が来てくれないかのう。待ち遠しい・・・」
アルベールが言う。
「そう思うのも無理のないくらいの出来栄えだ。だが、この砦を見ただけで、逃げ出すかもしれないぞ」
「大それたことをする割には、腰抜けなんじゃのう・・・」
次の日、反乱軍の大部隊が姿を現した。
砦を見て、驚愕しているのが分かる。その間に私は、連日の工作活動で「愚者」と「怠け者」に転職させれなかった市民たちを片っ端から、転職させていく。
そして、国王陛下が城壁に立つ。王笏を手に持ち、拡声の魔道具を使って、敵部隊に警告する。
「今すぐ投降しろ!!我が国民よ、目を覚ませ!!お前たちは騙されているのだ!!」
市民たちはおろか、騎士たちも国王陛下の声に聞き入っている。
カール王子が解説してくれる。
「王笏には、人に話を聞かせる効果があるんだ。威厳が増す感じだね。大した効果はないけど、普段から威厳がある人が使えば、効果を発揮するのさ」
そんな話をしていたところで、国王陛下が私に話を振って来た。
「こちらには、大聖女殿がおられる。そちらの偽物の聖女とは全く違う!!大聖女殿、頼む」
「分かりました。皆さん!!貴方たちは、呪いのジョブに転職させれているのです!!」
市民たちが騒然となる。
「皆さんの中で、ジョブ鑑定ができる方はいらっしゃいませんか?いましたら、鑑定してみてください!!」
1万人以上いれば、元が商人や鑑定士のジョブ持ちがいるはずだ。その中にはジョブ鑑定ができる者もいる。それに諜報部隊が潜入して、ジョブ鑑定ができるように装って、工作を仕掛ける。
「大聖女様の言っていることは本当だ。「愚者」と「怠け者」っていう見たこともないようなジョブ持ちがいっぱいるぞ!!」
「ということは、俺たちを転職させたあの聖女は偽物ってことか?」
「偽物どころか、極悪な魔女だ!!」
「許せねえ!!」
そこに国王陛下が語り掛ける。
「皆の者、武器を捨て投降するのだ!!今投降するならば、罪には問わん。それに元のジョブに転職させてやる!!」
これには、多くの市民が武器を捨て始めた。
「愚者」と「怠け者」といっても、正常な判断力はある。
そんな時、信じられない出来事が起こった。
反乱軍の騎士たちは、魔法と弓で市民たちを攻撃し始めた。
「そ、そんな・・・酷い・・・」
国王陛下が言う。
「なんと愚かな・・・全軍!!出撃、市民を救え!!」
砦から市民を守るように部隊が出撃していく。
これが神の教えを説き、転職者の未来に責任を持つ立場の者がする行為なのだろか?
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