66 決戦
私は今、ホーリスタ王国にあるランカスター転職神殿支部に来ている。
現在、ホーリスタ王国は王都を転職神殿本部とマーズ教会の反乱軍に占拠されている状況で、国王陛下もこの地に落ち延びてきたことから、反撃の拠点ともなっており、神殿施設の一部をホーリスタ王国軍に貸し出している。
そして今も、軍議が行われている。
カール王子に軍議に参加するように言われ、私とアルベールも軍議に参加している。現状、魔族や転職者を中心とした諜報部隊が敵の諜報部隊を圧倒し、更に各地に散らばる領主たちが連携して対応しているので、反乱軍を圧倒している。
また、軍議には多くの領主たちやその関係者が、自主的に集結している。
そのほとんどは、この転職神殿を利用した転職者で、私の教え子たちだ。
戦況が有利に進んでいることからも、みんな明るい。
「久しぶりだな」
「ああ、元気にしてたか?」
「私は元気だけど、カール君は少し、大人になったよね?」
「そうだな。あの頃はクソガキだったけどな」
カール王子が怒鳴る。
「お前ら!!国家存亡の危機なんだぞ!!緊張感を持て!!」
「怖い怖い・・・」
「なんか王子様っぽいよね?」
今も、同窓会のような雰囲気になっている。
しばらくして、国王陛下が入室する。
場が引き締まった。
「皆、ご苦労である。それでは、軍議を行う。まずは、戦況からだ」
今回も明るい材料が揃う。
報告者の声も明るい。
「魔族の諜報部隊のお蔭で、反乱軍の諜報部隊は、壊滅状態です。それに通信の魔道具の効果は大きく・・・」
獣人の中には、夜目が利いたり、鼻が利く種族も多く、インプ族は元々隠密行動が得意だ。また、ゴブリンライダーは、小回りが利いて機動力もあるので、諜報部隊としては、かなり優秀だ。そのため、相手の諜報部隊はなすすべなく、討伐され、多くの者が捕虜となっている。そのため、相手の情報も多く仕入れることができている。
そして、通信の魔道具は本当に有用で、今日もここに集結していない領主たちが遠隔で、軍議に参加して、情報を共有している。
「そして昨日、アバレウス帝国を含めた大陸各国が、連合軍を編成して、我が国のために立ち上がると正式に発表いたしました。帝国軍は既に国境付近で待機しております」
これはアルベールたちの外交努力のお蔭だ。
帝国は手の平を返したように、マーズ教会と転職神殿本部を見限った。これに続いて各国もそれに習う。帝国を含めて、各国がマーズ教会や転職神殿本部に配慮していたのは、転職事業を独占していたからだ。しかし、ランカスター転職神殿本部が新たに開設されたことで、現在の転職神殿本部に従わなくても、国民を転職させられるからね。
今も、自国に転職神殿を設置してほしいという要望が絶えない。
「それでは、今後どうするかについてですが、王都を奪還する戦力は十分に揃ったと考えます。連合軍が合流すれば、反乱軍との兵数の差は3倍以上になります。十分に勝算があるでしょう」
国王陛下が言う。
「我としては、すぐに王都を奪還したい気持ちもある。しかし、王都に残してきた民になるべく被害が出ない策を取る」
「分かりました。それでは、これまでどおり各諸侯が連携を取り、王都近辺に反乱軍を押しとどめる。そして、諜報部隊を利用して、市民を扇動し、王都から避難させるというのはどうでしょうか?」
「それで構わん。細かい作戦はこの後に部隊長を交えて、決定せよ」
これで軍議は終了かと思われた。
しかし、急報が飛び込んで来た。
「大変です!!現在諜報部隊より、報告がありました。反乱軍がこちらに向かっているとのことです。兵数は2万、ほぼ全軍で、こちらに向かってきているようです」
「それはチャンスであるな。王都に引きこもられたら厄介であったが、自ら出て来てくれるとはな。これなら、こちらの全戦力を持って叩き潰せば、すぐに決着がつく。しかし、以前の報告よりも兵が多いな。どういうことだ?」
「そ、それが・・・」
報告に来た騎士は、答えづらそうに言った。
その内容が衝撃的だった。
国王は拳から血が出るほど、激しくテーブルを殴り付けていた。
「外道どもが!!我が民を何だと思っておるのだ!!」
報告によると、正規の騎士が約5000、後の1万5000が王都の市民だという。
カール王子が言う。
「なぜそんなことに?」
「情報によりますと、マーズ教会の聖女が市民を扇動したとのことです。更にその聖女が多くの市民を「狂戦士」や「死霊術師」に転職させているのです。中には、強制転職させられた者も・・・」
私は、思わず口に出してしまった。
「それって、まさか・・・」
「聖女マロンです。確認が取れております」
「そ、そんな・・・あの子がそこまでのことを・・・」
アルベールが手を握って、落ち着かせてくれる。
「エクレア殿、ショックなのは分かる。だが、まずは報告を最後まで聞こう。そして、その市民をどう救うかが大事だ」
国王陛下が言った。
「難しい判断だな。強制転職させられた直後の市民など、どうとでもなる。悪いが少し時間をくれ・・・騙され、扇動されたといっても、我が民は我が民だ。彼らを救ってやりたい。何か方法はないのか?」
一同が押し黙る。
皆、国王陛下の気持ちを十分理解しているからだ。貴族や領主は、民を守るために存在していると、幼少期から、そう教えられて育つ。その民を自らの手にかけるなんて、やりきれない。
私はあることを提案した。
「発言をお許しください、陛下。私に策があります。それは・・・」
「本当にそんなことが可能なのか?」
「理論上は可能です・・・」
荒唐無稽なことを言っているのは分かる。
しかし、私には可能だ。というのも、私には最近あるスキルが発現したのだ。
それは「集団転職」という一度に複数人を転職させられるスキルと、もう一つは・・・
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