61 戦場の転職神殿 2
シバレウス皇子の現在のジョブは「村人」だ。
特にスキルは身に付かないし、ステータス補正もない。このジョブで一生過ごす者は稀だ。大体が何かの専門職に転職する。
ではなぜ、シバレウス皇子が「村人」のままかというと、適職が見付からなかったからだ。
どんな転職神官に鑑定してもらっても、結果は同じだった。しかし、実は適職があった。
「シバレウス皇子が転職できるのは、「皇帝」ですね。統治能力にすぐれたジョブです。私も初めて見るジョブで、古い文献にはあったのですが、実は上級職だったんですね・・・」
「我が「皇帝」だと!?信じられん・・・しかし、皮肉なものだな・・・「皇帝の資格なし」と言われ続け、その命をもって、帝国に尽くせと命令された我が「皇帝」とはな。もっと早く貴殿と出会っていれば、我の運命も変わっていたのだろうな」
「それは違います。神様は最高のタイミングで、ジョブを与えてくれるのです。今まで転職できず、辛い経験をしたことも、無駄ではありませんよ」
シバレウス皇子は深く考え込んだ。
「我に「皇帝」となる資格があるかどうか分からんが、あるのなら、転職させてもらえないか?」
「もちろんです。まずは、研修を受けていただきますね」
こうして、シバレウス皇子の事前研修を始めることになってしまった。
★★★
シバレウス皇子は真面目に研修に取り組んでくれた。
将来のビジョンもはっきりしており、問題はないという結論だ。アルベールにも相談した。
「俺としては、他人事と思えん。エクレア殿の力で、シバレウス皇子を救ってほしいと思う」
「敵国の皇子だから、反対するのかと思いましたよ」
「そんなことはしない。エクレア殿の力は万人のためにあるべきだ」
「分かりました。アルベールさんも人間として度量が大きくなりましたね」
アルベールの許可を受けたことで、転職をさせることが正式決定した。
相手が皇族であるため、大々的に式典をしようという話になり、シバレウス皇子とマートンを同時に転職させることにした。
そして今日、二人の転職式を行うことになった。
帝国軍の関係者だけでなく、魔族や指導者たちも出席している。
「シバレウス皇子、そしてその騎士マートン。貴方たちは転職により得た力を正しく、人のために使うことを誓いますか?」
「誓う」
「もちろんだ」
「分かりました。シバレウス皇子よ、「皇帝」となり、人々を正しい道に導きなさい!!騎士マートンよ、「剛力王」となり、その力を主人と民のために使いなさい!!」
シバレウス皇子とマートンが光り輝く。
転職は成功した。多くの者が祝福する。
転職を終えたシバレウス皇子が部隊を前にスピーチを始める。
「帝国はこれまで、多くの間違いを犯してきた。貴殿らはその犠牲者だ。我はそれを正そうと思う。苦労を掛けることになるが、どうかついて来てほしい」
観衆から大歓声が上がる。
マートンはというと、早速オーガラに再戦を申し込んでいた。
「オーガラ殿、再戦を申し込む」
「転職したからといって、すぐには強くなれんぞ」
「分かっている。だからこそ、修行の糧にするのだ」
「存分に掛かって来るがいい。それと魔族には猛者が多くいるから、彼らとも戦うといい」
「本当に楽しみだ」
それからしばらく、転職者は増える一方だった。
でもおかしい・・・強制転職させられた者の転職は、ほとんど終了したはずなのに・・・
この疑問をシバレウス皇子にぶつけると、驚きの答えが返って来た。
「本国に増員を頼んだのだ。それも強制転職させられた徴募兵ばかりをな。本国もそれならばということで、増員に応じてくれた。そんな彼らが多くやって来たので、人口が増えているのだ」
「そうだったのですね・・・・」
「それと、転職料を払うことにする。これは転職者からの要望でもあるのだ。自分たちで稼いだ金で、転職神殿に感謝の気持ちを伝えたいと言ってな。それは我も同じ思いだがな」
有難い話である。
★★★
帝国軍の駐屯地は、物凄いことになっている。
もはや町レベルだ。多くの魔族の職人や商人が訪れ、町は賑わう。一応、本国には演習と報告しているので、生産職に転職した者は工兵ということにして、工事なども訓練扱いにしていた。また商人などに転職した者は、諜報部隊員ということにして、普通に商売をさせている。
アルベールとシバレウス皇子との関係もよくなる。
傍から見ると、古い友人のような気安さだ。
「いい町だな・・・」
「すべては転職神殿とエクレア殿のお蔭だ」
「俺の町もそうだ。すべてエクレア殿のお蔭だ」
「ほう、今度はその町に案内をしてくれ」
「もちろんだ。本当に良い町だぞ」
魔族と一般部隊員との交流も活発になり、これならしばらくは、戦争が起こることもないだろう。
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