59 砦の攻防
転移スポットで、獣人の里の砦に到着した。
砦の責任者をしているコボルトのコボルさんから報告を受ける。
「砦の補強工事は終了しております。それとアバレウス帝国軍ですが、境界線付近で大部隊が集合しているだけで、こちらには向かってきません。大部隊を囮に少数の部隊が展開している可能性も考えて、斥候部隊が警戒しているのですが、それもないようです」
「なるほど・・・そういう状況なのだな・・・それはそうと、この砦は一体どうなっているんだ?前に来た時とは、全く別物になっている」
「それはドワーフたちが、補強してくれました。もう補強とは呼べないくらいですが・・・」
そこにドワーフの元族長のドワンゴさんが現れた。
「アルベール殿下、気に入ってもらえたか?我らも恩返ししようと、張り切ったからな。故郷のドワーフの城壁に比べたらまだまだだがな」
「あれと比べたら駄目だろう。それにしても凄いな・・・」
城壁は分厚さを増し、カタパルトやバリスタも数多く設置されている。
難攻不落という言葉がぴったりの砦だ。
ドワンゴさんが自慢げに言う。
「早く攻めて来てくれんかのう・・・いくら相手が大軍であろうと、この砦の敵ではない」
アルベールは再度コボルさんに質問する。
「それにしても、なぜ敵は動かないのだろうか?」
「分かりませんね・・・以前に取り決めた境界線からは、こちら側にはいくら待っても来ません。こちらから取り決めを破って攻撃するわけにもいきませんし・・・」
私は思いついた意見を言った。
「それこそが、アバレウス帝国の狙いなのでは?」
詳しく説明をする。
説明を聞いたアルベールは言う。
「人間とは、色々と考えるものだな・・・」
★★★
斥候部隊が調査したところ、アバレウス帝国の部隊は約1万、そしてその大部隊の将を務めるのは、以前に話合いの場を持ったシバレウス皇子だった。オーガラと模擬戦を戦った重戦士マートンも補佐として従軍しているという。
「シバレウス皇子なら、話ができるかもしれんな。危険だが、接触をしてみよう」
アルベールはシバレウス皇子と接触することを決めたようだ。
アルベールの考えでは、こちらが大部隊で移動すると、偶発的な戦闘になる可能性が高いことから、危険を承知で、少人数で向かうことになった。
コボルト族の斥候の案内の元、護衛として同行するのはフェルナンド王子、オーガラ、ライオス、タイガードだった。近接戦闘で、このメンバーに勝てる者はいないだろう。
私が準備をしていると、アルベールが声を掛けて来た。
「エクレア殿も行こうとしているのか?」
「当たり前ですよ。教え子にだけ危険な目に遭わせられません」
「止めても聞かないのだろう?だったら、俺が命に懸けて守る」
「期待していますよ」
砦を出発して、しばらくして境界線付近にやって来た。
アルベールが大声で叫ぶ。
「我は魔王国次期魔王のアルベールだ!!シバレウス皇子と面会をしたい!!取り次いでくれ!!」
30人程の帝国兵が、慌てた様子でやって来た。
そして、何やら相談を始め、上官に報告をしていた。しばらくして、シバレウス皇子とマートンがやって来た。
「久しぶりだな、シバレウス皇子。しかし、これは何の真似だ?」
「ただの軍事演習だ。境界線よりこちら側で何をしようと、こちらの勝手だろ?」
アルベールが小声で言う。
「エクレア殿が言ったとおりだな」
帝国軍のこれまでの行動から考えて、積極的に砦に攻撃を仕掛けようという意図は感じられないし、一向に境界線を越えてこない。となると、こちらから攻撃されるのを待つか、ホーリスタ王国に援軍を出させないようにするために、こちらを釘付けにする作戦が考えられる。
「つまり、境界線を越えなければ、お互い何をしてもいいということだな?」
「そういうことになるが、敵対行動を取れば、戦争に発展することになるがな」
アルベールは少し考えて言った。
「だったらこちらは好きにさせてもらうぞ。こちらから攻め込む気はないからな」
「好きにしてくれ。こちらも好きにするからな」
しばらくして、アルベールが言った。
「だったら作戦通り、アレをやろう」
★★★
3日後、アバレウス帝国の陣営から驚きの声が上がる。
「な、何だあれは?」
「臨時の訓練所だと?」
「それに臨時の転職神殿ができている。上級職への転職が可能だと?」
しばらくして、シバレウス皇子とマートンがやって来た。
「アルベール王子、これはどういうことだ?」
「こちらは、こちらで好きにして、いいのだろ?見た通り、訓練所と転職神殿だが?」
シバレウス皇子は、困った顔をしているが、マートンは興味津々だ。訓練所に行きたいのだろう。
ここはもう一押しだ。
私はマートンに声を掛けた。
「そちらの騎士様のジョブは「重戦士」ですね?鑑定したところ、上級職の「剛力王」に転職が可能です」
「ご、「剛力王」だと!?お、俺がなれるというのか?」
「なれますね。ただ、転職前の研修と事前審査を受けてもらわなければなりませんよ」
マートンはシバレウス皇子に言う。
「殿下、彼らの話くらいは聞いてやってもよいのではないのですか?」
シバレウス皇子は笑いながら言った。
「相手のほうが上手だったな・・・少し、話をしてやろう・・・」
こうして、相手の指揮官を交渉のテーブルに着かせることができた。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




