52 魔王選決着 2
いきなり謁見の間に現れたフィリアさんは、覆面を取った。
なんと、フィリアさんは、ソフィア王女だったのだ。
魔王様が怒鳴る。
「今頃、何の用だ?もう次期魔王は決定しているぞ!!」
「魔王?ああ・・・そういえば、そんな話もあったわね。それよりも今日は、実験に必要な物を取りに来ただけだから。アレがあれば、転移魔法陣を各地に設置できるわ」
「転移魔法陣だと?もしかして、完成したのか?」
「そうよ。ホープタウンに行ってから、研究が凄く捗るのよ。じゃあ、そういうことで、私は実験があるから、またね」
ソフィア王女はそう言うと、転移魔法陣を展開して、あっという間にいなくなってしまった。
しばらくして、側近の文官が魔王様に駆け寄って来た。
「魔王様!!大変です。宝物庫の魔石が大量に盗まれました。犯人は不明です。警備は厳重にしていました。それなのに・・・まるで伝説の転移魔法でも使わない限り、盗むなんて無理です」
魔王様が頭を抱える。
多分、犯人はソフィア王女だろう。目の前で転移魔法を見た者たちは、空気を読んで何も言わない。
「もうよい!!これで魔王選は終了とする。アルベールよ。少し話がある」
★★★
式典終了後、私たちは別室に呼ばれた。
アルベールの他に呼ばれたのは、シャタンさんと私だ。魔王様が話し始める。
「アルベールよ。よく頑張った。魔王としてではなく、父親としての正直な思いだ。ここだけの話、最初からお前に魔王を譲ろうと思っていたのだ。フェルナンドやソフィアが魔王になれば、この国は終わるからな・・・」
それはそうだろう。
あんな人たちが魔王になったらと思うとゾッとする。
「それで、シャリーンにも協力してもらっていたのだ。辛い思いをさせて、すまなかった」
魔王様の話では、シャタンさんは、追放されたのではなく、魔王様と相談して、アルベールを奮起させるために母親と打ち明けずに側にいたそうだ。私にも本当のことは言わなかったみたいだ。
「騙して悪かったわね。でもここまで成長してくれて、本当にうれしいわ」
「父上、母上・・・俺がここまで成長できたのも、すべてエクレア殿のお蔭だ。転職もそうだが、それ以上に様々なことを教えてくれた。まだまだ、習うことは多いがな」
魔王様とシャタンさんは、嬉しそうに見つめ合っている。
「アルベールよ。規定によれば、王太子となって5年以上は修行をしなければならん。引き続き、ホープタウンを発展させよ」
「はい」
「それと、魔石泥棒のソフィアについてだが、処分はお前に任せる。好きにしろ」
こうして、アルベールは念願の次期魔王となったのだが、特に今までと変わらないらしい。
「エクレア殿、これからも俺を導いてくれ」
「はい。できるかぎりのことは致します」
その日は王城で宴会が開かれた。
和気あいあいと楽しんでいる中、魔人族だけはアルベールを認めていないようだった。魔人族の族長が言う。
「アルベール殿下。我らは貴方を魔王とは認めない。フェルナンド殿下こそ、魔王に相応しい。フェルナンド殿下が修行から戻ったら、覚悟しておいてください」
そう言って会場から去って行った。
「兄上は無茶苦茶だけど、一部には狂信的な信者がいるんだ。理解はできないが・・・」
私も理解はできない。
次の日、私たちは帰路に着いた。
行きとは違い、王太子就任の挨拶を兼ねて各地を周りながら帰還する。獣人の里、ドワーフの里、エルフの里などを周り、最後にオーガの里に寄って帰還したので、行きの倍の日数が掛かった。
ホープタウンに着くと、盛大に歓迎を受けた。
先触れがアルベールの王太子就任を伝えてくれていたので、大盛り上がりだった。パレードのようなことをさせられ、アルベールが特設ステージに上がって、スピーチをする。
「魔王選を勝ちぬき、目標としていた王太子となった。これはここにいる皆のお蔭だ。そして、何よりエクレア殿と転職神殿のお蔭だ。魔王となったら、この町のように希望に溢れる国にしたい」
感動的な光景だった。転職神官冥利に尽きる。
その後は、いつもどおり宴会が始まってしまった。しばらく神殿を空けたので、神殿長としての仕事が溜まっているけど、今日くらいはゆっくりと楽しむことにした。
次の日、神殿においてゴブミから引継ぎを受ける。
「特に変わったことはありませんが、訓練所に凄い剣士が来たと評判になっています」
「凄い剣士ですか?」
「はい、オーガラよりも強いです」
「目的は?」
「それがよく分からないんです。覆面をしていますし・・・」
オーガラよりも強く、覆面をしている・・・絶対に怪しい。
すぐにアルベールとともに、訓練所に向かう。
訓練所では、オーガラと覆面をした剣士が模擬戦をしていた。あのオーガラが防戦一方だ。
「かなりの実力者ですね」
「あ、あれは・・・」
アルベールはなぜか、覆面剣士を知っているようだった。
覆面剣士が、私たちに気付く。模擬戦中断して、覆面剣士は覆面を取った。
「久しぶりだな、アルベール」
「あ、兄上!!」
なんと覆面剣士は、第一王子のフェルナンドだった。
嫌な予感しかしない・・・
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