5 ゴブリンの村へ
3日程、ゴブコたちと過ごした。
ゴブコは、みるみると弓の才能を開花させ、あっという間に私が教えることがないくらいに成長した。残念ながら、ゴブミは転職させることはできなかったけどね。
「ゴブコ、貴方に教えられることはもうありません。今後は決して驕らず、自分の力を過信せず、精進を続けてください」
「ありがとうございます、エクレア師匠」
「それと、これからはもう師匠じゃないわ。いいわね、ゴブコ?」
「分かったわ、エクレア。これからは友だちね」
私たちは、笑いながら抱き合った。
そんなとき、ゴブミが少し躊躇ったように言った。
「お姉ちゃん、エクレアに私たちの村に来てもらったら?みんなを転職させてくれたら・・・」
「でも、エクレアは人間だし・・・人間嫌いな人も多くいるし・・・」
私は「転職」のスキルをもっと使ってみたくなっていた。というのも、お祖父様やお父様が、転職者に心からお礼を言われているのを見て、私もいつか、ああなりたいと思っていた。その夢が叶えられそうだ。当然すべての人を転職させることはできないだろう。しかし、一人でも二人でも転職させることができれば・・・
「行くだけ行くわ。行く宛てもないしね」
★★★
半日程で、集落に着いた。
100人くらいのゴブリンが暮らしているが、建物はボロボロで、強い風が吹けば倒壊しそうだ。それにみんな元気がなさそうだ。ゴブコたちが、私を連れて来たのは、この窮状をなんとかしてほしいと思ったからだ。
集落に入ると、私を見つめる目線がきつくなる。
絶対に歓迎されていない。そんなとき、一人のゴブリンの少年が私の前に立って怒鳴る。
「ゴブコ、ゴブミ!!こっちに来い!!そいつは人間だ。すぐに離れろ」
ゴブコが言う。
「何を言ってるのよ、ゴブキチ!!エクレアは人間だけど、いい人よ。それに凄いのよ。エクレア、出してあげて」
私はゴブコに言われて、空間拡張しているリュックサックから、先日仕留めたグレートボアの死体を取り出した。
ゴブリンたちが、驚きの声を上げる。
「グレートボアじゃないか!!一体どうやって?」
「それは私とエクレアで仕留めたのよ」
「そんなバカな・・・」
私は、好印象を持ってもらおうと、ゴブリンたちに言った。
「私は転職神官のエクレアです。ゴブコから、この集落が食糧危機だと聞きました。よろしければ、皆さんで、食べてください」
ゴブリンたちから歓声が上がる。
ゴブキチはまだ、私のことを疑っているようで、文句を言ってきた。
「もしかしたら、毒が入っているかもしれないぞ。ちょっと、みんな落ち着けよ!!」
「ゴブキチ!!だったら、ゴブキチだけ食べなかったらいいじゃない。みんなで食べましょうよ」
「俺だって食べたい!!でも・・・」
そんな話をしているところに老ゴブリンが現れた。
「ゴブキチ、人間すべてが悪いわけではない。会ったことはないが、いい人間もいるじゃろう。それにゴブコが気に入っておるし、心配ないと思うぞ。申し遅れたが、儂はこの集落の村長をしておるゴブールじゃ。歓迎しよう、神官殿」
「ありがとうございます、村長」
「それでは、折角のグレートボアじゃ。久しぶりに宴にしよう」
ゴブリンたちは大盛り上がりだ。
聞くと、しばらくゴブリンたちは、ひもじい思いをしていたようで、私たちが持ってきたグレートボアは、本当に有難かったようだ。
私は非常用に買い込んでいた食料も振る舞った。干し肉やカチカチのパンがほとんどだったけど、それでも大喜びしてくれた。本当に困っていたようだ。
村長や村の皆に私の事情を説明した。
「なるほどのう。行方不明の父を探しに来たのか・・・この村に人間が来たことはないから、力にはなれんが、行商人も3月に1度は来るから、聞いてみるといい」
「お気遣い感謝します」
そんな話をしているところに、ほろ酔いのゴブコがやって来た。
「村長!!飲んでる?エクレアは本当に凄いのよ。私にジョブを授けてくれたのよ」
横で聞いていたゴブキチが言う。
「ジョブだって!?魔族はジョブを得られない。嘘を言うな!!」
「だったら、見せてあげるわよ。私はもう、ただのゴブリンじゃなくて、ゴブリンアーチャーだからね」
ゴブコは、私が教えたカービングショットやパワーショットを披露していた。
大歓声が上がる。村長が驚いて、質問してきた。
「もしかして、ゴブコ以外にもジョブを授けることができるのか?」
「それは鑑定してみなければ分かりません。ゴブミは転職できなかったですし・・・」
「だったら鑑定してくれんか?報酬は・・・何とかする」
そこからは、また大騒ぎとなった。
私の前に村人が我先にと押しかけた。ゴブコとゴブミが、注意をする。
「みんな!!エクレアは長旅で疲れてるのよ。明日にしなさい」
「そうよ。それにゴブキチ、散々文句を言っていたアンタが、何で並んでいるのよ?」
バツが悪そうにゴブキチが言う。
「俺だって、ジョブを貰って強くなりたいし・・・」
仕方なく、私は言った。
「とりあえず、鑑定だけはします。それと転職は神聖なものですので、酔った勢いでするのはお勧めしません。転職とは何か、転職してどんな人生を歩みたいか、それをしっかりと考え・・・」
「分かった!!早く鑑定してくれ!!」
お酒の所為もあり、全く話を聞いてくれなかった。仕方なく、列に並んでいるゴブリンたちを鑑定していく。
ゴブリンソルジャー(人間で言う「戦士」)
ゴブリンライダー(人間で言う「騎兵」)
ゴブリンメイジ(人間で言う「魔道士」)
ゴブリンアーチャー(人間で言う「弓使い」、ゴブコと同じ)
ゴブリンファーマー(人間で言う「農民」)
などが多く、中には見慣れないジョブもあった。
ゴブリンマイスター
詳しいジョブを鑑定するため、魔力を込める。そうしたところ、人間で言うところの「薬師」、「鍛冶師」を併せた生産職のジョブだった。初めて見るジョブに私は興奮した。それに私は彼らを転職させることができるようだった。
私が説明すると、転職できると知ったゴブリンたちは、大喜びだったが、転職できないと知らされたゴブリンたちは落ち込んでいた。
「ジョブとは、不思議なもので、神様が最高のタイミングで転職の機会を与えてくれると言われています。ですので、今できなくても日々精進すれば、いつかきっと転職できる日が来るでしょう。それにすぐに転職できる方が優れているわけではありません。それとジョブによる差別は絶対にやめてください。ジョブだけで、人のすべてが決まるわけではありませんからね」
何とか落ち着いたところで、村長が言った。
「しばらくは、ゴブコたちの家に泊まるといい。しかし、神官殿に相応しい家を用意しなければな。転職に必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ、神官殿」
「お気遣いありがとうございます」
こうして、私はゴブリンの村で、転職神官として再スタートを切ることになった。
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