49 幕間 聖女の今
~マロン視点~
ホーリスタ王国の警備隊から逃走した私は聖女となった。
聖女とは、転職神殿本部の上部組織であるマーズ教会が認定する役職の一つで、世界的に権威がある。しかし、実際はほとんどが金で買われている。私以外に聖女は5人いるのだが、優秀な回復術師の一人を除いては、高位貴族や大規模商会のご令嬢が名誉職として務めている。教会の大きな収益の一つだそうだ。
ではなぜ、私が聖女に選ばれたかというと、私が優秀な転職神官だったからではない。
政治的な理由からだ。ランカスター転職神殿が行っていたことは、転職神殿本部やマーズ教会からすれば、絶対に知られたくない極秘事項だ。転職神殿本部やマーズ教会が率先して、違法な転職や違法薬物の売買に手を染めているなんて、口が裂けても言えないだろう。
それで私が利用されることになった。
私を聖女にすることで、「ホーリスタ王国は本気で教会とことを構える気か?」「神の教えに背く邪教の国と喧伝することもできるぞ」と暗に脅しているのだ。更に「転職神殿をホーリスタ王国から引き上げる」とも脅している。現に教会は使者をホーリスタ王国に送り、交渉をしているという。
ユリウスが言う。
「多分大丈夫だ。流石に国中の転職神殿がなくなることになれば、ホーリスタ王国だって、今回のことは目を瞑ってくれるだろう」
正直、本部も教会も、ここまで腐っているとは思わなかった。
それでも私は彼らに従うほかにない。
そんなある日、私に任務が与えられた。
各地の町や村を周って、貧しい人たちを転職をさせてほしいとのことだった。私はすぐに了承した。だって私がなりたかったのは、誰からも感謝され、尊敬される転職神官だったのだから・・・
★★★
考えが甘かった。
私としては、弱者に無償で転職させることで、本部や教会のイメージアップを図るくらいには思っていたが、そうではなかった。やっていることといえば、強制転職だ。
片っ端から「ジョブ鑑定」を行い、ある一定のジョブに転職可能な者を強制的に転職させている。
それは忌み嫌われているジョブである「盗賊」「暗殺者」「死霊術師」「狂戦士」などだ。元々そのジョブを持っている者もいるが、好き好んでこのジョブに転職しようという者はまずいない。余程の転職オタクか、悪事を働こうとしている者しかいない。
当然、快く転職しようとする者は皆無だ。
特に「狂戦士」なんかは、酷いものだ。人格まで変わってしまう。今も目の前で男が喚いている。
「お、おい!!やめてくれ!!俺は世界一の鍛冶師になるんだ。何で狂戦士なんかに・・・」
「これも運命です。それでは転職を行います。神のご加護があらんことを!!」
「い、嫌だ!!やめろ!!」
私は強制転職を行った。
強制転職はかなり魔力を消費する。一般の転職とは違い、嫌がる相手を無理やり転職させるのだからね。なので、魔力量が多い者でしかこの役割は務まらない。私が選ばれたのも、その辺りに理由があるのだろう。
「今日もいい儲けだな。マロン、どんどんやるぞ」
護衛のユリウスが言う。
表向きは、暴れる転職者から私を守るということになっているが、私の監視も兼ねているのだろう。
夜になるといつも、うなされる。
強制転職させた者たちからの罵詈雑言が耳から離れない。
「この悪魔!!」
「俺の人生を返せ!!」
「人でなし、地獄に落ちろ!!」
これが私が望んだ人生だろうか?
確かに聖女という肩書きを手に入れ、収入も以前の倍以上だ。裏の仕事は、一般的にはバレてないので、多くの民衆からチヤホヤされる。それだけみれば、私の望んだ人生なのだが・・・
まだ、お祖父様が生きていて、お父様が戦争に行く前に何気ない家族の会話を思い出した。
「もし転職をさせられる魔道具が発明されたら、転職神官というジョブはなくなると思うか?」
私は言った。
「魔道具の値段によると思います。それよりも安くできれば、生き残れるのでは?」
しかし、エクレアは違うことを言った。
「私は、なくならないと思います。だって、魔道具にはできないことを私たちはやっているんですから・・・」
皮肉なものだ。
私はただの転職させる魔道具に成り下がっている。
そんなことを思っていると涙が溢れてくる。一体、私はどこで間違えたのだろうか?
隣で寝ていたユリウスが声を掛けて来た。
「どうした?眠れないのか?だったらちょっと楽しむか?いい薬を手に入れたんだ」
私は頷き、ユリウスから手渡された禁止薬物を口に入れ、ベッドに横たわった。ユリウスが覆いかぶさってくる。
もうどうでもいい・・・すべてを忘れさせてほしい・・・
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次回から最終章となります。




