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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第三章 正式に転職神殿を始めました

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48 エルフの里 2

 世界樹の中で、新たに誕生した幼女。

 エランシアさんたちが、喜びの声を上げて近付くのだが、幼女は落ち込んだままだ。


「・・・私・・・出来損ない・・・駄目な奴・・・飛べないし、力ない」


 何とか事情を聞こうとしても、あまり会話にならなかった。

 エランシアさんが言う。


「他の神虫様からは、「駄目だった」「かわいそう」「出来損ない」といった負の感情が伝わってきます。神虫様から、もっと詳しい状況が聞き出せたらいいのですが・・・」


「それでしたら、力になれますよ」


 一同が騒然となる。

 私がジョブ鑑定したところ、エランシアさんは「エルフシャーマン」という、妖精や精霊と意思疎通ができるスキルを持つジョブに転職できるようだった。エランシアさんが妖精たちとある程度の意思疎通ができたのも、これが影響していると思う。転職可能な状態では、転職後のスキルがある程度使えることはよくあるからね。


 私が説明を終えるとエランシアさんが言った。


「是非、転職させてください。費用はお支払いします」

「通常であれば、転職とは何か、今後どうすべきかを真剣に考えた上で、転職をさせていただくのですが、事情が事情ですので、後日研修を受けてもらうということで、今回に限り、転職させていただきます」

「ありがとうございます」


 すぐに私はエランシアさんを「エルフシャーマン」に転職させた。


「ああ!!分かります。はっきりと神虫様の言っていることが分かります!!えっ!!「私たちは虫じゃない!!失礼なことを言うな!!」そうなんですね・・・申し訳ございませんでした」


 早速、妖精たちと会話できているようだが、「私たちは虫ではない」と怒られていた。


 それはそうだろう・・・



 ★★★


 エランシアさんから詳しく状況を聞く。


「神虫・・・ではなく、妖精様が言うにはこちらの精霊様は、妖精時代は大変な能力を持っていたそうです。それで精霊になれるのではないかと、もてはやされ、だんだんと傲慢になっていったそうです。妖精様たちが注意したのですが、精霊様は聞き入れず無理して精霊になろうとして・・・」


 こういう辺りは、人間も妖精も大差はないようだ。神童と呼ばれた子供が横暴になり、碌な大人にならないことはよくあるからね。

 族長が言う。


「それで、我々はどうすればいいのだ?出来損ないだろうが、何だろうが、こんな幼気な少女が困っているのに、何かできることはないのか?」

「まずはこちらの精霊様が飛べるようにならないと、妖精様は「精霊と認めない」と言っています。その後にも色々とあるみたいですが、今の段階では教えてくれません。言っても意味がないからとのことです。私たちには、精霊様を飛べるようにはできませんし・・・」


 そんな時、ミロスが言った。


「だったら俺に任せてくれ。ドラスが教えてやると言っている。ちょっとやってみてもいいか?」


 早速、ドラスが指導を始める。

 1時間もすると何とか精霊様は浮き上がることができた。


「ドラスも空を飛ぶのには苦労したからな。元々飛行能力があるドラゴンは自然にできるんだけど、ドラスは転職で飛竜になったから、その苦労は分かるみたいだ。なんでも、羽を動かして飛ぶんじゃなくて、羽で魔力を操作するみたいなんだ。俺に羽はないから、詳しいことは説明できないけどな」


 精霊様はというと、大喜びしている。


「・・・で、できた!!私、天才!!」

「グワー!!」


 ドラスが吠える。


「ドラスは「調子に乗るな。これからがもっと大変だ」と言っているよ。それでエクレア先生、ドラスが言うには、時間が掛かるようだから、先生たちが帰っても、俺たちはしばらく残ることにするよ」


 族長が言う。


「そうしてもらえると有難い。それよりも、こんなめでたいことはないから、宴を開こう。神虫様も、賑やかなのは好きだからな」

「父上、虫ではありません。妖精様です」

「そ、そうだな・・・かれこれ1000年以上も虫と思っていたから、妖精様はまだ慣れんな・・・」


 そんな感じで宴が始まってしまった。

 妖精たちも精霊の幼女も楽しそうにしている。意思疎通はほとんどできなくても、楽しい雰囲気は分かるようだ。


 ★★★


 エルフの里では、1週間ほど滞在した。

 私はというとエランシアさんへの初期研修を行ったり、転職希望のエルフたちとの面談を行っていた。エルフたちは価値観も文化も私たちとはかけ離れているので、転職可能な者はいたが、すぐに転職はさせなかった。どうしても転職したい者は、一度ランカスター転職神殿に来てほしい旨を伝えた。私たちがホープタウンに帰還するのに合わせて、何人か同行するようだ。

 他のみんなはというと、ゴブコはエルフに弓を習ったり、ゴブキチとアルベールは、エルフたちと修行をして過ごし、ギルマスたちは思い思いに研究をして過ごしていた。



 そして、別れの時が訪れる。

 同行者の何人かは、エルフの里にしばらく滞在することになった。その筆頭はテイマーのミロスだ。


「ある程度、精霊様は飛べるようになったんだけど、このままにしたら調子に乗って変なことをすると、ドラスが言うから残るよ。それに精霊様に言うことを聞かせられるのは、ドラスだけだしな」


 精霊様はかなり我儘だ。

 妖精時代から、他の妖精たちは手を焼いていたそうだ。それを叱ってくれるドラスの存在は大きいようだ。

 他にも薬師ギルドのギルマスであるジャミルさんが残ることになった。


「ここの薬草やキノコは凄いわよ。もしかしたらエリクサーの量産化も夢じゃないわ」


 エリクサーは病気や怪我を立ちどころに直してしまうもので、ポーションとは比べ物にならないくらい高価な薬品だ。それが量産化できるなんて、素晴らしい。

 鍛冶ギルドのギルマスであるドグラスさんが言う。


「ジャミルは研究がしたいだけだからな。エリクサーとか言えば、部下が納得すると思っているんだろう」


 ジャミルさんは、その人柄からエルフにも気に入られているので、問題はないのだが、滞在を断られた者もいる。フィリアさんだ。いつも覆面をして、転職を繰り返すなどの奇行が目立つ人物なのだが、妖精を勝手に捕まえて、羽を毟ろうとしたり、エルフの耳を触って、血を抜こうしたりして、大ひんしゅくを買ってしまっていた。


「私だって、残って研究したかったのに・・・」


 涙目のフィリアさんを無理やり馬車に押し込み、帰り支度をする。


 族長やエルンストさん、エランシアさんだけでなく、エルフ総出で見送りに来てくれた。


「大聖女様、アルベール殿下、本当にありがとう。礼を言う。世界樹を守っていくには神虫・・・ではなく、妖精様の力が必要なのだ。それに精霊様は3000年に一度顕現される本当に有難い存在なのだ。そんな精霊様を救っていただき、感謝のしようもない。大聖女様とアルベール殿下に何かあれば、エルフは一族を上げて支援することを約束しよう」


「族長殿、これからもよろしく頼む」


 アルベールと族長が握手を交わしている。

 見送りには妖精たちや精霊の幼女も来てくれた。


「私・・・大精霊になる・・・また転職させて・・・すぐに大精霊になって、自慢する」

「グワー!!」

「ドラス・・・痛い・・・真面目、する」


 どうやら、またドラスに「調子に乗るな。転職は甘いものじゃない」と叱られているようだった。


 そんな微笑ましい光景を見ながら、私たちはエルフの里を旅立った。

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