46 エルフの危機
ホーリスタ王国と魔王国が良好な関係を築いたことで、ホープタウンはますます発展する。
各地から猛者が集っている。魔族だけでなく、人間の国からも身分を隠して、騎士団のエースクラスがやって来て、共に切磋琢磨している。
戦闘職の者が訓練に明け暮れている中、生産職の活躍も大きい。
新素材はもちろんだが、多くの斬新な魔道具も誕生する。
その中心にいるのが、何と短期間で転職を繰り返していたフィリアさんだ。フィリアさんは現在、「マジックアルケミスト」という謎のジョブになっている。魔導士と錬金術師を合わせたようなジョブで、戦闘職なのか、生産職なのかも不明のジョブだ。
お父様に聞いても、初めて見るジョブだという。フィリアさんは、このジョブを得てからは、転職を繰り返すことはなくなった。
理由を聞くと驚きの答えが返って来た。
「最近、大発見をしたのよ。薬師や鍛冶師などの専門家がこの町にいるのだから、任せるところは任せればいいことに気付いたのよ。全部、自分一人でやらなくていいなんて、こんな楽なことはないわ。今やっている研究は・・・」
すべてを一人でやろうとして、転職を繰り返していたようだ。
馬鹿と天才は紙一重というのは、彼女のことを言うのだろう。楽しそうに研究のことを話してくれたが、あまりに高度過ぎて、三分の一も分からなかったけどね。
そんな大発展をしているホープタウンに珍しい集団がやって来た。
それはエルフの集団だった。
★★★
話を聞いたところ、エルフは今、重大な危機に直面し、解決策を探しに藁をもすがる思いで、ホープタウンにやって来たそうだ。エルフの代表で族長の娘でもあるエルンストさんが言う。
「頼みというのは、我らエルフが代々お世話をさせてもらっている神虫様のことだ。この町には一流のテイマーもいるし、神獣様と呼ばれる魔物が2体もおられると聞いた。どうか力になってくれないだろうか?」
エルフは排他的な種族だ。
それがこうやって訪ねてくることは、余程の事態なのだろう。エルフがホープタウンを知ることになったのは、アルベールがライトスチールで作った弓をエルフに贈ったことがきっかけだったそうだ。
一緒にいたドワーフの前族長のドワンゴさんが質問をする。
「あの大きな虫たちのことか?アイツらが病気にでもなったのか?」
「病気がどうかは分からんが、危険な状態だ。こちらとしてはどうすることもできない」
「とりあえず、見てみんことにはどうしようもできんな」
アルベールが言う。
「力になれるかどうかは分からんが、こちらで専門家を集めて調査することを約束しよう」
「ありがとう、アルベール王子・・・」
そこからが大変だった。
エルフの里に行きたい者たちが大挙して転職神殿にやって来たからだ。エルフは謎に包まれた種族で、人間よりは精霊に近いのではないかと言われている。非常に長命であり、他種族との交流はほぼない。そんなエルフの里に行く機会なんて、そうそうない。特に研究者にとってみれば、命を懸けてでも行きたい場所だそうだ。
そうなると人選が面倒だ。
代表のアルベール、神獣ラビのパートナーである私、神獣スラのテイマーのミラ、ミラの兄で一流テイマーとしてのアドバイスができるミロス、いつも護衛をしてくれているゴブキチとゴブコ、エルフと交流があるドワーフのドワンゴさんは確定なのだが、他のメンバーは未定だ。
選考に際して、もめにもめている。
結局、フィリアさんの一言で、選考方法が決まってしまった。
「ここは魔族の国よ。恨みっこなしで、力で決めましょうよ」
そして、参加希望者で模擬戦をすることになってしまった。
★★★
選考会を勝ち上がったのは、何とフィリアさんと各ギルドのギルマスたちだった。
ギルマスたちは、冒険者ギルドとテイマーギルドのギルマスを除くと、全員が生産職なのだが、それでも余裕で勝ち上がって来た。鍛冶ギルドのドグラスさんは、素手で魔導士を圧倒するし、薬師ギルドのジャミルさんは、見たこともない薬品を投げ付けて、勝利していた。
それにフィリアさんは、超一流の魔導士もびっくりな大魔法を連発していた。
選考会を見たゴブキチが呟く。
「この人たちって、護衛は必要なのか?俺でも勝てないかもしれない・・・」
ゴブキチが言うとおり、その辺のオーガよりも強いだろう。
色々とあったが、1週間後、私たちはエルフの里に出発することになった。
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