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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第三章 正式に転職神殿を始めました

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45 調印式

 今日はいよいよ、魔王国とホーリスタ王国との通商条約の調印式だ。

 場所は新しくできた街道の丁度中間にある新興の交易都市マージだ。突貫工事で町を作った割には、よくできている。宿や商店などの必要最低限の店舗はすでにオープンしているからね。


 マージに着くと、カール王子が出迎えてくれた。


「久しぶりだね、エミリア先生」

「お久しぶりです。カール殿下」

「おい、アルベール!!挨拶がないぞ。勇者とは礼儀も大事なんだ。先輩を敬え」

「お久しぶりです。()()()()()


 年齢はアルベールが5歳以上、上なのにカール王子は先輩風を吹かしている。

 それをアルベールが上手くあしらっているのが、ちょっと微笑ましい。


「それでアルベール、模擬戦は全力で掛かって来い。胸を貸してやる」

「よろしくお願いします。()()()()()


 調印式の後に親善の意味を込めて、数試合模擬戦をすることになっている。そこで、勇者と魔勇者が対戦することになっているのだ。世紀の一戦が見られるということで、住民たちも盛り上がっている。


 ★★★


 調印式も無事に終了し、模擬戦に移行する。

 初戦はゴブキチとホーリスタ王国の騎士との対戦だった。ゴブリンの強さを知ってもらおうと思って、この人選にしている。こちらはゴブキチが上手く立ち回って、勝利している。続いて「赤い稲妻」のラドウィックがこちらもホーリスタ王国の騎士と、同じく「赤い稲妻」のゴードンがホーリスタ王国の騎士と対戦した。こちらはラドウィックとゴードンが勝利していた。


 観戦していたホーリスタ王国の国王が魔王様に話し掛ける。


「上級職は一味違うな・・・我が騎士団からも上級職に転職させたい」

「ジョブだけではないぞ。訓練も大事だ。転職神殿に併設されている訓練所は、猛者揃いだから、訓練環境は充実しておる」

「ではなおのこと、ホープタウンに派遣せねばならんな」


 ホーリスタ王国の国王はすぐに部下に指示して、ホープタウンに何名か派遣する計画を立てさせていた。


 そしていよいよ、メインイベントの勇者と魔勇者の戦いが始まる。

 互いに木剣を手に会場の中央に歩み出る。開始と同時に激しい打ち合いが始まった。それが一段落すると、今度は魔法の応酬が始まり、だんだんと使われるスキルも高度になっていく。


 魔王が言う。


「まだまだ、ウチのアルベールは、カール王子に実力で及ばないな」

「いやいや、魔勇者になって間がないのだろう?それにしては、いいセンスをしている」


 二人の王が言うように、カール王子が押し込み、アルベールが何とか凌いでいる展開だった。1時間以上、戦闘は続く。

 そんな時、魔王様が声を上げる。


「もうやめよ!!二人の実力が確かなことはよく分かった。無理に勝敗を決める必要はない。二人とも若い。これからも精進を続けるように」


「はい!!」

「分かったよ・・・でもアルベール、俺のほうが勝ってたよな?」

「まだまだ先輩には敵いませんよ」

「それが分かっていればいい」


 カール王子は上機嫌だ。

 アルベールはこういったことも上手くなった。色々と交渉事が多いし、商人の経験も積んでいるからね。


 その後は親睦会が開かれ、参加者はお互いの健闘を称え合っていた。魔族と人間との交流イベントも上手くいき、ほっと胸をなでおろす。



 ★★★


 次の日、魔王様は帰還したのだが、私たちは残ることになった。

 やるべきことがあったからだ。まず、私とお父様がホーリスタ王国の国王から騎士爵を授かった。一代限りだけど、私もお父様も貴族ということになってしまった。そして、一番の目的は里帰りだった。カール王子の案内で、実家のランカスター転職神殿に向かう。


 2日程馬車に揺られて、到着した。

 神殿に併設されている町は、以前と変わらない賑わいを見せていた。魔王国へ向かう行商人や転職者のための宿場町として生まれ変わったようだ。そして、気になるランカスター転職神殿に案内された。

 建物自体は奇麗に清掃されていて、以前と同じ厳かな雰囲気が感じられたが、誰も人がいない状況は、逆に胸が締め付けられる。


「エクレア先生がいつ戻って来てもいいように、しっかり管理しているんだ。今からでも遅くないから、戻って来たらどうだい?」

「それはできません・・・有難いお話ですが・・・」

「そうか・・・じゃあ、いつ戻って来てもいいように、管理だけはしておくから、安心してよ」


 一頻り、神殿を見て周った。

 お父様と昔話に花が咲く。他愛もない話だ。ここで素振りしたとか、魔法を誤射して、窓ガラスを割ったとかね・・・


 アルベールが言う。


「歴史を感じるな・・・ホープタウンの転職神殿はまだまだだが、ゆくゆくは、これくらい立派な転職神殿にしたいと思っている。協力してくれるか?」

「もちろんです。転職神殿とは、建物のことを言うのではありません。転職者と転職神官がいればどこでも開けますよ。大事なのは、その思いです。その思いの一つ一つが転職神殿を作るんですよ」

「そうだな・・・一緒に歴史を作っていこう」


 そんな話をしているところで、お父様が言った。


「名残惜しいけど、そろそろ行こう。私たちを待っている多くの転職者のためにもね」

「はい」


 私たちは、ランカスター転職神殿を後にした。

 遠くから、カール王子とお付きの騎士ザバスさんの言い争う声が聞こえてきた。


「何を馬鹿なことを!!エクレア殿と一緒にホープタウンに帰るなど、もってのほかです。山積みになっている仕事は誰がするんですか?」

「そ、それは・・・」

「そもそも、殿下は王子としての自覚も勇者としての自覚も欠けていらっしゃいます」

「だから、ホープタウンで修業するんだよ」


 カール王子は散々ごねていた。

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勇者にヘイトしか溜まらない……どうしても魔勇者と比べてしまう
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