44 魔王視察
魔王様がホープタウンにやって来た。
従者は護衛が10名、文官が5名、その他メイドやなんかが3名で、一国の王としては、かなり少ないように思う。
「人間の国のように大所帯とはならない。「魔王はいつ何時、誰の挑戦でも受けるべきだ」という教えがあるから、挑戦者を捌く最低限の人数だけで各地を視察するのが常だ。暗殺したところで、誰もそいつに従わないしな」
魔族独特の考え方のようだ。
アルベールが魔王様に歓迎の言葉を述べる。
「父上、ようこそお越しくださいました」
「うむ。それにしても栄えているようだな?」
「はい、ゴブリンを中心に領民たちが協力して、頑張っているお陰です」
そんな会話をしているところに護衛の一人が割って入る。
バカルという魔人族の男で、アルベールの従兄に当たるという。ずっとアルベールを馬鹿にしてきた者らしい。
「下等なゴブリンのお蔭だと!?ふざけたことを言うな!!だからお前は、ポンコツ王子などと言われるのだ!!」
バカルという男は、典型的な魔族の思考をしている。以前のオーガたちのようだ。バカルに合わせて、他の護衛たちも騒ぎ出す。
「だったら試してみるか?父上、予定にはありませんでしたが、バカルたちとここにいる者たちで、模擬戦でもしようと思うのですが・・・」
「いいぞ。存分にやるがよい」
こうなることは、ある程度予想できていたので、訓練所にはホープタウンの精鋭たちを集めていた。それに偶々訓練に来ていた獅子族のライオスと虎人族のタイガードにも協力してもらうことにもなった。
★★★
訓練所に移動して、早速模擬戦が開始された。
最初に登場するのはオーガのオーガラだ。対戦相手を一瞥したオーガラは素手で戦うことを決める。
「この程度で粋がるとは、魔人族も落ちたものだな・・・武器を使うまでもない」
「ふざけるな!!」
相手がキレて向かって来たが、パンチ1発でダウンさせた。
これには魔王様も驚いている。
「オーガラは、オーガ族歴代最強との触れ込みだったが、これ程の実力者とは思わなかったな」
続いては、2戦目ライオス、3戦目はタイガードが登場したが、こちらも圧勝だった。
続いては、散々ゴブリンを馬鹿にしていたバカルが登場する。
「オーガラやライオス、タイガードが強いのは当たり前だ。俺が馬鹿にしたのは、下等なゴブリンだけだ」
オーガラたちに勝てないと思ったバカルは、オーガラたちは馬鹿にしていないと主張し始めた。
バカルの相手はというと、急遽アルベールからゴブキチに変更した。当初は、強くなったアルベールがバカルをボコボコにする予定だったが、ここは馬鹿にされたゴブリンの代表としてゴブキチが模擬戦に出ることになった。
ゴブキチがラッシュに跨り、試合会場に登場すると、大歓声が上がる。
こう見えて、ゴブキチはそこそそこ人気がある。
「なんだ・・・王都でボコボコにしてやったゴブリンじゃないか!?これなら余裕だな」
「俺はあの時よりも強くなったからな。借りは返させてもらう」
試合が始まる。
開始早々、ラッシュの影移動を発動させ、背後からゴブキチがバカルの後頭部を木剣で、思いっきり殴り付けた。バカルは気絶する。影移動なんて、初見ではまず防げないからね。
バカルの取り巻きが、騒ぎ出す。
「卑怯だぞ!!そっちがその気なら、こっちにも考えがある。みんなやっちまえ!!」
あろうことか、バカルの取り巻きたちが集団で、ゴブキチに襲い掛かって来た。
そこにゴブコが矢を放つ。
「そっちがその気なら、こっちもやってやるわよ。みんな準備して!!」
ゴブコの合図で、待機していたゴブリンライダーたちが一斉に攻撃を開始する。
影移動はゴブキチとゴブコしかできないけど、それでも統率の取れた動きは、バカルの取り巻きを圧倒する。
しばらくして、決着がつく。バカルの取り巻きたちは、全員地面に転がっている。
治療の終わったバカルたちに魔王様は言い放つ。
「バカル!!お前たちは、親衛隊をクビにする。この地で、親衛隊としての実力と品格が備わるまで、修行しろ。反論は許さん!!」
どういう訳か、バカルたちはホープタウンに住むことになってしまった。
★★★
移住が決まったバカルたちだが、お決まりの「手っ取り早く強くなれるように転職させろ!!」→オーガラたちにボコられる→真面目に訓練や仕事に励むようになる、のパターンを経験することになった。魔族のほとんどがこのパターンだ。多分、思考回路が同じなのだろう。
ただ、このパターンを経験すれば、みんな更生する。誰もがたどる道なのだろう。
転職ということで、少し変わった女性も移住が決まった。
フィリアという魔人族の女性で、いつも覆面をしている。それだけで怪しいのだが、魔王様の同行者なので、無下にはできない。とりあえず、転職希望者だったのだが・・・
「フィリアさん、また錬金術師に転職されると?1週間前に錬金術師から薬師に転職したばかりでは?そんなに転職を繰り返して、何が目的なんですか?」
「いいじゃない。お金はきちんと払っているでしょう?私の研究には必要なことなのよ。私は魔法が得意だけど、それだけでは駄目なのよ。それはそうと、魔道具師に転職はできるの?」
「できなくはないですが・・・ジョブとは神様が与えてくれる、大切な・・・」
「じゃあ、3日後にまた来るわ」
碌に話も聞かずに去って行く。
戦闘職に転職するわけではないし、魔王様の同行者なので、言うがまま転職させている。転職料も決して安くはないのだが、どこから出ているのだろうか?
なぞは深まるばかりだった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




