40 勇者が来ました
ドワーフの里からついて来た元族長ドワンゴたちドワーフは、大活躍する。
スラを使って、様々な特殊金属を生み出した。一つは体積の割にかなり軽い「ライトスチール」、もう一つは、逆にかなり重くて頑丈な「ヘビースチール」だ。
ドワンゴが解説する。
「どちらも伝説の金属じゃ。オリハルコンに続いて、こんな大発見をするなんてのう・・・これだけでも、この町に来てよかったと思う」
早速、「ライトスチール」を使って、弓を作っていた。
試作品を渡されたゴブコも絶賛する。
「頑丈なのに軽くて、威力も凄いわ!!」
「そうじゃろ?これなら弓が得意なエルフも唸るぞ。アルベール殿下、エルフに贈ってやれば、喜ぶだろう」
アルベールもこれに応じる。
「エルフには味方をしてもらえないまでも、敵対はしたくない。一応、友好の品として贈ることにする」
また、「ヘビースチール」を使ってオーガの装備を作っていた。
「この「ヘビースチール」は、重いだけに使い道が難しかったのじゃが、こんな使い道があるとはのう・・・」
ドワンゴが言うには、オーガは鎧や楯を好まない。
鎧や楯を装備すること自体が、軟弱者と思われる風潮があるからだ。オーガラのお蔭で、多少その風潮は収まったものの、未だに鎧や楯を装備しない者は多かった。
そんな時、オーガの族長であるオーガルから提案があった。
「オーガの気質を逆手に取るのです。相当重くして、誰もが着れないような重さになれば、逆に「真の強者にしか、鎧や楯は着用できない」と思うようになり、着用率も上がるでしょう」
この作戦は功を奏し、オーガラが装備していることも相まって、鎧や楯を装備するオーガは激増した。
冒険者ギルドのギルマスは、腰を抜かすくらい驚いていたけどね。
「あんな集団が攻め込んで来たら、その辺の国は壊滅するだろうな・・・絶対に魔王国と敵対することがないように他のギルドにも通達しておこう」
こういったことが広まれば、抑止力が働き、自然と戦争は減るだろう。
アバレウス帝国が、獣人たちを襲撃していたのも、弱いと判断したからだ。アバレウス帝国も少し前に痛い目を見たし、しばらくは攻め込んでこないだろう。
そんな中、二体目の神獣が誕生した。
それはスライムのスラだ。ドワーフや鍛冶師、錬金術師たちの熱い要望を受けて、神獣に祀り上げられてしまった。スラ自体は、特に気にしてないようだが、テイマーのミラは困惑している。
「私まで巫女という謎の称号を与えられ、拝んでくる人もいるんですよ。ただのテイマーなのに・・・」
私だって、ただの転職神官だけど、大聖女にされているしね。
ミラには、魔族とはそんなものだということで、納得してもらっている。
そんなこんなで、生産職のジョブ持ちたちは、お互いに切磋琢磨しながら盛り上がっている。
特にライバル関係にあるのは、ドワンゴと鍛冶ギルドのギルマスであるドグラスさんだ。
「魔王様に献上する剣は、史上最高の物を作ってやる。お前たちが作った大剣は認めるが、あれくらいなら、3日あれば作れる。お前たちに真の職人の何たるかを見せてやる」
「師匠、俺だって負けませんよ。俺はもう一度、勇者用の剣を作ってみせます。師匠、勝負です」
この二人に感化された他の職人たちも様々な物を生み出していた。
★★★
ある日、アルベールから呼び出しがあった。
なんでも、ホーリスタ王国の使者が来ているらしく、その使者が私との面会を希望しているという。私は、すぐにアルベールの元に向かった。
そして、その使者というのが・・・
「エクレア先生!!」
「カール君?」
「そうだよ。立派になったでしょう?今では僕も、押しも押されもしない勇者だよ」
私が指導した勇者で、ホーリスタ王国第三王子のカールだった。
しばらく見ないうちに背も高くなり、少し大人びた印象を受ける。私が指導したのは、13歳の時だったので、そう思っても仕方がない。
私は気を取り直して、挨拶をする。
「失礼しました、カール殿下。お元気そうで、何よりです」
「堅苦しいことは言わないでくれよ。僕とエクレア先生の仲だろ?」
「そういうわけには・・・」
私は指導者として、研修期間中はどんな相手にも「○○さん」や「○○君」という風に呼び、常に敬語で話している。相手がどんな身分でも関係なくそうしている。この期間中は研修者全員に平等に接している。貴族だからとか、平民だからとかは関係ない。アルベールも「アルベール殿下」ではなく、「アルベールさん」と呼んでいるのはそのためだ。
だが、一度研修が終われば、通常の対応に戻す。
私が困惑していると、お付きの老騎士ザバスさんが話に入ってきてくれた。
「殿下、まずは状況の報告と、こちらの要望を伝えませんと。昔話はその後です」
「そ、そうだな・・・ではまず・・・」
カール王子が話した内容は、衝撃的なものだった。
マロンはホーリスタ王国へ護送される途中に襲撃に遭い、現在行方不明だという。
「そ、そんな・・・マロンは無事なんですか?」
「鋭意、捜査しているけど、安否の有無は分からないんだ」
動揺している私を心配して、アルベールが割って入ってくれる。
「エクレア殿、大丈夫か?とりあえず、リシャール殿も呼ぼう。話はそれからだ」
少し落ち着いた私は、お父様とともにカール王子の話を聞くこととなった。
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