4 初めての・・・
私はグレートボアとゴブリンの姉妹の間に割って入った。
二人が驚きの声を上げる。
「に、人間?」
「なんでここに?」
「詳しい話は後です。私がグレートボアを引きつけますので、貴方たちは逃げなさい!!」
グレートボアは、巨大なイノシシ型の魔物だ。
パワーは凄いが、動きは直線的だ。なので、私は「罠師」の「落とし穴」のスキルを使って、グレートボアを落とし穴に落とした。
落とし穴の中で、激しく暴れるグレートボア。
いつまでも落とし穴に嵌ってくれているとは、思えない。私は魔導士の初級魔法「ファイヤーボール」でグレートボアを攻撃する。
「早く逃げて!!」
「ゴブミ!!貴方だけ逃げなさい。私はこの人と戦うわ」
私とゴブコの弓で、グレートボアに攻撃するが、ほとんどダメージは入っていない。Bランクの魔物ともなれば、「ファイヤーボール」や通常の弓矢では、ダメージを与えられないようだ。
「火力が足りないわ。撤退を視野に入れないと・・・」
「見ず知らずの貴方が犠牲になることはないわ。私が引きつけるから、貴方はゴブミと逃げて」
グレートボアの弱点は腹部だ。
固い毛皮を持つグレートボアだが、腹部は比較的柔らかい。近付いて、腹部に攻撃を入れられれば、何とか足止めくらいはできるだろう。ゴブコは弓使い、私が「剣士」のスキルを使って、戦えば・・・
そう思っていたところに、ラビが私の肩に乗って、鼻を擦り付けてきた。
「キュー!!」
「えっ!!転職させろって?」
誰一人、転職させられない私には、無理だろう。それに魔物が転職だなんて・・・
駄目元で、ラビの転職を試みる。
ラビの体が光り輝く。
「そ、そんな・・・グレートホーンラビット?まさか、ラビの転職に成功したの?」
丁度その時、グレートボアが落とし穴から抜け出し、私たちに向かって来た。ラビもグレートボアに向かって行く。
「ラビ!!やめて!!」
叫んだが、間に合わない。
私はラビの悲惨な姿を想像したのだが、そうはならなかった。ラビはグレートボアに衝突する寸前で、グレートボアの体の下に潜り込み、自慢の一本角でグレートボアの腹部を一突きにした。驚いたことにグレートボアは絶命した。
命の危機を脱したこともそうだが、私は人生で初めて「転職」のスキルが発動したことに驚いていた。
「切羽詰まった状況がスキルを覚醒させたのかな?」
まあ、考えても分からないんだけど・・・
★★★
しばらくして、落ち着いたところで、ゴブリン姉妹のゴブコとゴブミがお礼を言ってきた。
「人間に助けられるなんてね・・・でも、ありがとう。お礼を言うわ」
「お姉ちゃん、人間もみんなが悪い奴じゃないっていうし、この人はいい人よ」
人間もそうだが、魔族も人間に悪感情を持っている。でも、この二人は友好的だった。私は、この二人なら、コミュニケーションが取れると思って、自己紹介をした。
「私はエクレア、しがない転職神官をしています」
「転職神官?それって何?」
魔族にとって、転職は無縁だ。
魔族は種族によって、様々な特徴を持っている。オークやオーガは人の3倍以上のパワーを持っていたり、コボルトは鼻が利く、魔人族は魔力が膨大だ。そんな魔族に対抗するために人間族は、神からジョブを与えられているというのが定説だ。大昔に魔族が転職神官を拉致して、自分たちもジョブを得ようとしたこともあったらしいが、転職できなかったという。
凄まじいパワーや魔力を持つ魔族と互角に戦えているのも、人間族にのみジョブがあり、魔族はジョブを持てないからだと言われている。
私は大まかな転職神官についての説明をゴブコたちにした。
「す、凄い!!だったら、私も転職させてよ。私は弓が得意だから、もっと弓が上手くなるジョブがいいな」
「魔族が転職に成功した例は、過去にありません。ご期待に添える結果にならないかも・・・」
「やるだけ、やってみてよ」
駄目元でやってみた。
あれ?もしかして・・・
私は「転職」のスキルを発動させた。
「ゴブリンの少女ゴブコ、貴方は今日からゴブリン弓使い(アーチャー)です」
ゴブコの体が光輝く。
「凄い!!なんか力がみなぎってきたわ。早速、獲物を狩ってくるわ!!」
これは駄目だ!!
ゴブコみたいな奴が一番危ないんだ。初期研修をずっと担当してきて、痛いほど分かる。酷い奴なんか、研修を勝手に抜け出して、強力な魔物に挑んで大怪我したりしたからね。
「ゴブコさん。そういう考えが、一番危ないんです。ジョブを得たからといって、すぐに強くなるわけではありません。まずは、私が初期のスキルをお教えします」
「別に私は、素人に教えてもらわなくても、いいんだけどね」
懐かしい感じがした。
★★★
ゴブコみたいな奴には、実力で分からせるのが一番だ。
私はゴブコの弓を借りて、弓使い(アーチャー)の初期スキル「カービングショット」を実演した。
ゴブコとゴブミは驚きの声を上げる。
「す、凄い・・・矢があんなに曲がるなんて・・・」
「魔法?」
「魔力は使いますが、これはスキルの一種です。この魔力の操作を応用すれば、こういったことも、できますよ」
私は再度、魔力を込めて矢を射った。
「パワーショット!!」
飛んで行った矢は、大きな岩を砕いた。
ゴブコの態度が変わる。
「申し訳ありませんでした、エクレア師匠!!私を弟子にしてください!!」
これも懐かしい感じがした。
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