38 ドワーフを見返せ 2
アルベールが鍛冶ギルドのギルマスのドグラスさんに弟子入りして1ヶ月、ドグラスさんとアルベールが報告にやって来た。
「アルベールは筋がいい。それに素直で真面目だ。どっかのクソガキ勇者とは大違いだ」
褒められたアルベールだが、浮かない顔をしている。
「このまま修行を続ければ、俺もゴブリンたちも、それなりの物を作れるだろう。しかし、ドワーフの鼻を明かせるような物は作れない」
「それは俺も思う。だから、エクレアの嬢ちゃんに相談に来たんだ。何かいい知恵はないか?」
ドグラスさんは、ホーリスタ王国はもとより、大陸でも屈指の実力を持つ鍛冶師だ。
転職ではなく、自力で「上級鍛冶師」になっているしね。
そんなドグラスさんに分からないことが、私ごときで分かるだろうか?
しかし、ドグラスさんもアルベールも、私に期待の眼差しを向ける。
考えた末にこう言った。
「とりあえず、多くの人に意見を求めてはどうでしょうか?ここには、名立たるギルドのギルマスがいるわけですから・・・」
「そうだな。アイツらもその道の専門家だからな。いい意見がもらえるだろう」
すぐに各ギルドのギルマスが集められた。
アルベールが代表して事情を説明する。
「・・・というわけで、どうにか力を借りられないだろうか?」
薬師ギルドのギルマスであるジャミルさんが意見を言う。
「素材を工夫するのはどうかしら?」
テイマーギルドのギルマスが反応する。
「それならいい案があるぞ。ミラのテイムしているスライムは特殊能力を持っていてな。素材を合成して、新しい素材を生み出せるんだ。俺たちは素材に関しちゃ素人だから、どんな物が好まれるか分からんし、商売になるなら協力するぞ」
ドグラスさんが言う。
「素材でビビらすか・・・いい案だが、それだけではドワーフの鼻は明かせないぞ」
ジャミルさんが答える。
「私のところで、何人か錬金術師の面倒を見ているから、その子たちに手伝わせるのはどう?別の大陸では、出来上がった武器に錬金術で、魔法やなんかを付与するのが流行っているらしいしね」
「いい案だと思うが、あれにはかなりの魔石が必要になる。予算がなあ・・・」
冒険者ギルドのギルマスが言う。
「だったら冒険者ギルドが協力しよう。こちらは魔物から、良質の魔石が取れる。それを安く卸してやる。ただ、これは貸しだ」
「分かってるよ。そっちには、格安に初心者用の装備を卸してやるよ」
ジャミルさんが言う。
「エクレアちゃん、こんなところでどうかしら?」
「いい案だと思います。まとめると、スラを使って、珍しい素材を生み出し、出来上がった物に錬金術師が魔法などを付与するということでいいでしょうか?」
ドグラスさんが言う。
「じゃあ、早速素材からだな。すぐにやろう」
★★★
私たちがやって来たのは、テイマーギルドの支部だった。
ミラも待機していたので、事情を説明する。
「もちろん協力しますよ。スラも頑張ると言ってますし」
そこからは、スラに色々な鉱石を合成させて、素材を作ってもらった。
質が上がる組み合わせもあれば、逆に質が下がる組み合わせもあった。でも、ドグラスさんが納得する素材は生み出せなかった。
「いきなり上手くいくことはありませんよ。気長に・・・」
言い掛けたところで、ドグラスさんが遮った。
「仕方ねえ!!あれを持ってくるか・・・俺の秘蔵のインゴットを持ってきてやる」
しばらくして、ドグラスさんが持ってきたのは、ミスリルとアダマンタイトのインゴットだった。
かなり貴重な鉱石で、ミスリルは魔力伝導率が高く、魔道具に多く用いられる。一方のアダマンタイトは、世界一固い金属だと言われている。
「ミスリルとアダマンタイトの合金に挑戦した奴は、過去に何人もいた。しかし、誰も上手くいかなかった。素材が貴重なのもあるが、技術的に難しいんだ。やってみる価値はある」
ミラが言う。
「本当にいいんですか?失敗する可能性もありますよ」
「思い切ってやってくれ。失敗は覚悟の上だ」
しばらくして、ミラがスラに指示をして、ミスリルとアダマンタイトの合成が始まった。緊張の瞬間だ。
私たちが息を飲んで様子を見守る中、スラは光り輝くインゴットを吐き出した。
「こ、これは・・・伝説のオリハルコンかもしれないぞ。ミスリルとアダマンタイトの特徴を併せ持つ伝説の金属だ。そうか・・・合成は難しいが、過去に成功した奴がいるのかもしれんな。これなら、最高の剣ができるぞ」
ドグラスさんは大喜びだった。
偶然だが、伝説の金属を生み出してしまったようだ。
それから、しばらくはこの金属を元に加工することになった。
1週間で大剣が出来上がった。この金属を打ったのは、何とゴブスさんだった。
「本当に緊張しましたよ・・・寿命が10年は縮みました」
「ゴブスはよく頑張った。この金属を加工するには、技術よりも根気が必要だからな」
この大剣に魔法を付与するわけだが、錬金術師たちは尻込みしていた。
「こ、こんな貴重な大剣に魔法の刻印なんて、できませんよ・・・」
「そうです・・・もし失敗したら・・・」
ジャミルさんが言う。
「そう思うのは無理はないわね。だったらこのオイルでどうかしら?」
ジャミルさんが持ってきたのは、何種類かのオイルだった。
「お手軽に魔法剣を作れるように開発していたのよ。一度振りかけると、1時間は持つんだけどね。今のところ、炎と氷と電撃の魔法が付与できるわね」
ドグラスさんが言う。
「そうだな。オイル自体は別で、ドワーフの里に持って行こう。オイルだけでも、ドワーフがびっくりするレベルだな」
アルベールが言う。
「これでドワーフの鼻を明かせると思うが?」
「鼻どころか、腰を抜かすレベルだぜ」
その3日後、私たちはドワーフの里に出発することになった。
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