35 捜索隊
最近の転職神殿は相変わらず賑わっている。
転職者は大勢やって来るしね。救いはスタッフが増えたことだ。それに新たな転職神官も誕生した。栗鼠人族のスクイルさんだ。彼女は「ビーストプリースト」という獣人限定で「転職」をさせられるジョブだった。
なので、最近ではゴブリンやオーガをゴブミが、獣人をスクイルさんが、それ以外の種族を私が転職させている。そうなると私も「転職」だけをしなくていいので、アルベールの指導に時間を割ける。お父様が中心となって、転職相談もやってくれているからね。
アルベールは戦闘力はまだまだだけど、「魔勇者」としての心構えはできてきた。我儘で手の掛かった「勇者」とは大違いだ。今も今後の方針について意見を交わしている。
「エクレア殿、やはり生産職の指導者が必要だと思う。みんな頑張っているが・・・」
「それはそうですね。何か案はありますか?」
「ドワーフやエルフに要請したが断わられた。アイツらときたら・・・」
アルベールが言うには、エルフは話も聞いてくれず、ドワーフは話は聞いてくれたが、「とりあえず、俺たちに習いたい職人の自信作を持って来い」と言われたそうだ。そして、ゴブリンたちが一生懸命に作った大剣をドワーフに送ったのだが、結果は・・・
「ドワーフにこう言われた。
『こんな出来損ないが自信作だって?こっちも暇じゃないんだ。才能の無い奴に教える気はない』
とな。それで、俺もキレてしまった・・・そして、こう言った。
『だったらお前たちには頼まん。近い将来、お前たちが頭を下げて、教えを請いに来ることになるだろう』
ドワーフたちには、鼻で笑われたけどな」
アルベールは自分が散々出来損ないと言われてきた過去がある。
努力しても報われない辛さは、身に染みて分かっている。だから、一生懸命に頑張っているゴブリンが馬鹿にされたことが許せなかったのだろう。
「アルベールさんの判断は正しいと思います。一生懸命にやっている人を馬鹿にするなんて、指導者失格です。他の案を考えましょう」
「エクレア殿・・・」
そうは言ってみても、案なんて思いつかない。
そんな話をしているときだった。
スタッフの一人が、私を呼びに来た。
「先程、大聖女様を捜索に来たという人間族が来られました。どういたしましょうか?」
一瞬緊張が走る。
ヤミ営業がバレたのか?
でも冷静になって考えると、もう魔王国からは認可されているし・・・
「とりあえず、会うだけ会いましょう」
★★★
応接室に入ると、そこには懐かしい顔がいた。
冒険者パーティー「赤い稲妻」の三人、テイマー兄弟のミロスとミラ、そして元同僚のショコラだった。彼らは私の身を案じて、捜索隊としてここに来てくれたのだった。
「皆さん、久しぶりです。折角だから、お父様も呼んできますね」
ショコラが驚きの声を上げる。
「リシャール様もいらっしゃるのですか!?」
すぐにお父様もやって来た。
そこからはお互い近況を話始めた。ショックだったのは実家の転職神殿のことだった。お父様が言う。
「マロンがそんなことを・・・私としては、エクレアと同じように愛情を掛けて育てたんだが・・・転職者には、偉そうなことを言っても、自分の娘をちゃんと育てられないなんてな・・・」
私以上にお父様はショックを受けていた。
ショコラが気を遣って話題を変える。
「それはそうと、エクレア様は「転職」のスキルが使えるようになったのですね?」
「そうなのよね。私のジョブ「上級転職神官」は、上級職限定で転職をさせられるジョブだと分かったのよ。それに魔族は種族自体がジョブだから、転職はすべて上級職になるのよね」
ラドウィックが驚きの声を上げる。
「上級職への転職か・・・俺もなりたいな・・・でも一般的には修行をしないと駄目だしな・・・」
試しにラドウィックを鑑定すると、転職が可能だった。
「できますよ。それにラドウィックさんだけでなく、ゴードンさんも、ステラさんもね」
三人は大喜びだった。
近況の話はそっちのけで、転職の話になってしまったけどね。
結局、三人を転職させることになった。
私としても、人間にする初めての転職だったから、実験の意味も込めてだ。三人はそれぞれ、「上級剣士」、「上級槍使い」、「上級魔道士」になった。
「これで俺たちも上級職の仲間入りだ。すぐにでも、Aランク冒険者になってやるぜ!!」
「そうだな。もう怖いものなしだ」
私はラドウィックとゴードンに注意する。
「初期研修でも言いましたが、転職したからといってすぐに強くなるわけではありません。まずは自分を見つめ直し、修行を・・・」
言い掛けたところで、ラドウィックが遮る。
「だったら、エクレア先生がまた指導してくれよ!!それでいいよな?」
「私に上級職を指導する能力はありません。それに上級職は、誰かに習うよりも、これまでの経験を生かして、自分で試行錯誤しながら能力を高めなければなりません。幸いこの神殿には、訓練施設が整っていますので、そちらを利用することをお勧めします」
「じゃあ、魔族と手合わせできるんだな?ちょっと上級剣士様の実力を見せてやろう」
「ああ、俺の槍捌きは、魔族も驚くだろう」
二人はすぐに部屋を飛び出して、訓練場に行ってしまった。ステラが嘆く。
「あの馬鹿どもは・・・全く成長してないんだから・・・」
「ここの訓練指導者は優秀ですからね。流石にあの二人でも・・・」
訓練場に行ってみると、予想通りの光景が広がっていた。
オーガラ、ライオス、タイガードにフルボッコにされ、ゴブリンたちにも苦戦しているようだった。
「最近、二人は横柄になってきてたのよね。初心者を馬鹿にしたりしてね。いい薬になったと思うわ」
「それは何よりです。こういう指導も必要ですからね」
そんな話をしていたところ、テイマーのミラが言う。
「あのう・・・私たちは上級職に転職できないのでしょうか?」
「ごめんなさいね。まだ、熟練度が足りないようです。これからも・・・」
言い掛けた時にホーンラビットのラビが、私の肩に乗って「キュー」と鳴いた。
「えっ!?スラとそっちの小さいドラゴンは、転職できるってこと?」
試しに鑑定してみる。
ミラがテイムしているスライムのスラと、ミロスがテイムしているドラゴンの転職ができることが、分かった。
事情を説明する。
ショコラが言う。
「魔物も転職させられるなんて・・・エクレア様は規格外です」
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