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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第三章 正式に転職神殿を始めました

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33 獅子族と虎人族

 アバレウス帝国の部隊を無事に追い返した私たちは、獣人の里に戻り、状況を説明した。

 獣人たちは大喜びだった。その夜は盛大に宴が開かれ、私たちは楽しい夜を過ごした。そして次の日、厄介な奴らがやって来た。


 二日酔いで頭が痛い中、外から争う声が聞こえる。


「ここは獅子族の縄張りだ。子猫ちゃんは帰りな!!」

「なに!!お前たちこそ、臆病な子猫じゃないか!!」


 慌てて外に出ると、獅子族と虎人族の集団が口論をしていた。

 一触即発の状態で、その周りをコボルトや猫人族たちが、心配そうに見ていた。しばらくして、アルベールとオーガラもやって来た。二人が仲裁に入る。


「何をやっているんだ!?とりあえず、落ち着け」


 アルベールに気付いた獅子族の族長ライオスと虎人族の族長タイガードが、アルベールに食って掛かる。


「なぜ、ポンコツ王子のお前がここに?俺たち獅子族は、この里の救援に来たのだ」

「俺たちもだ。人間の軍隊など、大したことはない。虎人族だけで十分だ」


 コボルさんが事情を説明する。

 コボルさんが言うには、危機的な状況だったので、手当たり次第に救援要請をしたらしい。流石に大部隊と聞いて、獅子族も虎人族も援軍に来たというわけだ。そして今日、獅子族と虎人族がバッティングしたようだった。


「獅子族、虎人族の方々には申し訳ないのですが、既にアバレウス帝国の部隊は撃退しているのです。報告が遅れたことはお詫びいたします」


「なに!?撃退しただと?」

「一体、誰がだ?」


「こちらのアルベール殿下と大聖女様、オーガやゴブリン、ここにいる獣人たちで協力して、撃退いたしました」


「信じられん・・・」

「オーガはまだ分かるが、ゴブリンやコボルト、栗鼠人族に何ができるというのだ?」


 少し前の状況なら、そう思っても仕方がない。

 ただ、多くのゴブリンや獣人がジョブを得た今は、かなりの戦力がある。


 オーガラが言う。


「弱い奴程、良く吠えると言うが、そのとおりだな。強さを誇示するだけで、このような危機には全く役に立たない。目障りだ。帰れ」


 これにはライオスとタイガードがキレた。


「オーガラ!!魔王選を尻尾を撒いて逃げやがった奴が偉そうに」

「そうだ!!どうせ、俺たちが怖かったんだろ?」


「だったら、戦ってみるか?それで分かるだろ?」


 なぜか、オーガラとライオスとタイガードが決闘をする流れになってしまった。

 心配そうな私にオーガラが言う。


「大聖女殿、心配されなくてもいい。こんな馬鹿どもに俺が負けることはない。それに魔族とは力が全てと考えている者が多い。かつての俺もそうだったがな」



 ★★★


 里の広場に移動して、決闘が開始される。

 オーガラは全身鎧に大楯、棍棒を装備し、ライオスとタイガードは素手だった。


「ライオス、タイガード、面倒だ。二人まとめて掛かって来い」


「ふざけるな!!」

「ライオス、ここは一旦共闘しよう。この馬鹿をさっさと倒して、その後で俺たちが戦えばいい」

「分かった。だが、今回だけだぞ」


 すぐにライオスとタイガードは、オーガラに殴り掛かる。

 オーガラは難なく、大楯で防いでいる。ライオスとタイガードも、かなりの実力者だが、オーガラには全く通じなかった。


「どういうことだ?俺たちは互角だったはずじゃ・・・」

「まるで俺たちが子供扱いだ」


「つまり、そういうことだ。もう飽きたから、この辺で決めるぞ」


 オーガラは巨大な棍棒を一振りする。

 ライオスとタイガードは吹っ飛ばされ、地面に転がる。起き上がり、再度向かって行くが、結果は同じだった。

 地面に蹲る二人にオーガラは言う。


「世の中に強い奴は大勢いる。ここにいるアルベール殿やゴブリンたちは、間違いなく俺よりも強い。それは戦闘力が高いということではない。強さには色々な種類がある。俺は最近、そのことを知ったがな・・・」


 ライオスとタイガードは立ち上がる。


「俺たちも強くなれるのか?」

「だったら教えてくれ、何でもする」


「そうだな・・・まずはホープタウンに来い。話はそこからだ」


 もめ事は収まったが、厄介事を丸投げされたようで、腑に落ちない。

 アルベールが言う。


「エクレア殿、彼らにも教育を施してほしい。こんな俺でも、立ち直れたんだからな」

「それはアルベールさんが、頑張ったからで、決して・・・」

「俺だけじゃない。ゴブリンやオーガ、ここにいる獣人たちが強くなったのは、すべてエクレア殿のお蔭だ。本当の強さとは何かを教えてくれたからな」


 少し考えて言った。


「分かりました。できる限りのお手伝いはします」



 ★★★


 ホープタウンに帰還してすぐ、ライオスとタイガードがやって来た。

 何でも族長は辞めてきたらしい。まあ、心意気は認めるが態度は酷かった。


「何でもいい。とにかく転職というやつをして、手っ取り早く強くしてくれ」

「そうだ。それと、この馬鹿よりは、強くしてくれよ」


 二人は、全く理解していなかった。


「転職とは何かを理解するまでは、転職はさせられません。どんなジョブを得て、どんな人生を歩みたいか、真剣に考えてください」


「いいから強くさせろ!!」

「ぶん殴るぞ!!」


 ここまで酷い奴らは、ホープタウンに来て初めてだ。実家の転職神殿では、よくあったけどね。


 二人はすぐにオーガラに連れ出され、激しく折檻されていた。

 折檻を終えたオーガラが言う。


「大聖女殿、申し訳ない。これから厳しく指導するから、見捨てないでやってほしい」


 オーガラは二人に優しい。

 というのも、二人とはずっとライバル関係にあったが、お互いに認め合い、切磋琢磨してきた仲だったらしい。自分だけ転職して強くなったという負い目もあるようで、できれば彼らを転職させて、同じ条件でまた競い合いたいと思っているようだった。


「指導はお任せします。強さよりも心構えを中心に教えてください」



 1ヶ月もすると、二人は改心した。

 積極的にゴブリンたちの仕事を手伝ったり、奉仕活動もしている。面接しても、転職させてもいいと思えた。お父様にも面談をしてもらったが、転職させても問題ないとの意見だった。


 そして、二人は無事に転職した。

 ライオスは「ライオンファイター」、タイガードは「タイガーファイター」になった。転職後すぐにオーガラと訓練という名の殴り合いをしていた。三人とも楽しそうだ。


 三人の殴り合いを見ていたところ、アルベールに声を掛けられた。


「獅子族、虎人族だけでなく、獣人族全体が俺を支持してくれることになった」

「おめでとうございます。これで、魔王に一歩近付きましたね」

「これもすべて、エクレア殿のお蔭だ。それで今後だが、生産職のジョブ持ちを増やして行きたいと思っている。いくら戦闘力が高くても、国は豊かにならんからな。だからエクレア殿には、引き続き世話になるのだが・・・」

「もちろん、お手伝いさせていただきますよ。人を幸せにすることが転職神官の使命ですからね」


 アルベールが魔王になれば、きっといい国になるだろう。


 彼をしっかりとサポートしていきたいと思う。

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