33 獅子族と虎人族
アバレウス帝国の部隊を無事に追い返した私たちは、獣人の里に戻り、状況を説明した。
獣人たちは大喜びだった。その夜は盛大に宴が開かれ、私たちは楽しい夜を過ごした。そして次の日、厄介な奴らがやって来た。
二日酔いで頭が痛い中、外から争う声が聞こえる。
「ここは獅子族の縄張りだ。子猫ちゃんは帰りな!!」
「なに!!お前たちこそ、臆病な子猫じゃないか!!」
慌てて外に出ると、獅子族と虎人族の集団が口論をしていた。
一触即発の状態で、その周りをコボルトや猫人族たちが、心配そうに見ていた。しばらくして、アルベールとオーガラもやって来た。二人が仲裁に入る。
「何をやっているんだ!?とりあえず、落ち着け」
アルベールに気付いた獅子族の族長ライオスと虎人族の族長タイガードが、アルベールに食って掛かる。
「なぜ、ポンコツ王子のお前がここに?俺たち獅子族は、この里の救援に来たのだ」
「俺たちもだ。人間の軍隊など、大したことはない。虎人族だけで十分だ」
コボルさんが事情を説明する。
コボルさんが言うには、危機的な状況だったので、手当たり次第に救援要請をしたらしい。流石に大部隊と聞いて、獅子族も虎人族も援軍に来たというわけだ。そして今日、獅子族と虎人族がバッティングしたようだった。
「獅子族、虎人族の方々には申し訳ないのですが、既にアバレウス帝国の部隊は撃退しているのです。報告が遅れたことはお詫びいたします」
「なに!?撃退しただと?」
「一体、誰がだ?」
「こちらのアルベール殿下と大聖女様、オーガやゴブリン、ここにいる獣人たちで協力して、撃退いたしました」
「信じられん・・・」
「オーガはまだ分かるが、ゴブリンやコボルト、栗鼠人族に何ができるというのだ?」
少し前の状況なら、そう思っても仕方がない。
ただ、多くのゴブリンや獣人がジョブを得た今は、かなりの戦力がある。
オーガラが言う。
「弱い奴程、良く吠えると言うが、そのとおりだな。強さを誇示するだけで、このような危機には全く役に立たない。目障りだ。帰れ」
これにはライオスとタイガードがキレた。
「オーガラ!!魔王選を尻尾を撒いて逃げやがった奴が偉そうに」
「そうだ!!どうせ、俺たちが怖かったんだろ?」
「だったら、戦ってみるか?それで分かるだろ?」
なぜか、オーガラとライオスとタイガードが決闘をする流れになってしまった。
心配そうな私にオーガラが言う。
「大聖女殿、心配されなくてもいい。こんな馬鹿どもに俺が負けることはない。それに魔族とは力が全てと考えている者が多い。かつての俺もそうだったがな」
★★★
里の広場に移動して、決闘が開始される。
オーガラは全身鎧に大楯、棍棒を装備し、ライオスとタイガードは素手だった。
「ライオス、タイガード、面倒だ。二人まとめて掛かって来い」
「ふざけるな!!」
「ライオス、ここは一旦共闘しよう。この馬鹿をさっさと倒して、その後で俺たちが戦えばいい」
「分かった。だが、今回だけだぞ」
すぐにライオスとタイガードは、オーガラに殴り掛かる。
オーガラは難なく、大楯で防いでいる。ライオスとタイガードも、かなりの実力者だが、オーガラには全く通じなかった。
「どういうことだ?俺たちは互角だったはずじゃ・・・」
「まるで俺たちが子供扱いだ」
「つまり、そういうことだ。もう飽きたから、この辺で決めるぞ」
オーガラは巨大な棍棒を一振りする。
ライオスとタイガードは吹っ飛ばされ、地面に転がる。起き上がり、再度向かって行くが、結果は同じだった。
地面に蹲る二人にオーガラは言う。
「世の中に強い奴は大勢いる。ここにいるアルベール殿やゴブリンたちは、間違いなく俺よりも強い。それは戦闘力が高いということではない。強さには色々な種類がある。俺は最近、そのことを知ったがな・・・」
ライオスとタイガードは立ち上がる。
「俺たちも強くなれるのか?」
「だったら教えてくれ、何でもする」
「そうだな・・・まずはホープタウンに来い。話はそこからだ」
もめ事は収まったが、厄介事を丸投げされたようで、腑に落ちない。
アルベールが言う。
「エクレア殿、彼らにも教育を施してほしい。こんな俺でも、立ち直れたんだからな」
「それはアルベールさんが、頑張ったからで、決して・・・」
「俺だけじゃない。ゴブリンやオーガ、ここにいる獣人たちが強くなったのは、すべてエクレア殿のお蔭だ。本当の強さとは何かを教えてくれたからな」
少し考えて言った。
「分かりました。できる限りのお手伝いはします」
★★★
ホープタウンに帰還してすぐ、ライオスとタイガードがやって来た。
何でも族長は辞めてきたらしい。まあ、心意気は認めるが態度は酷かった。
「何でもいい。とにかく転職というやつをして、手っ取り早く強くしてくれ」
「そうだ。それと、この馬鹿よりは、強くしてくれよ」
二人は、全く理解していなかった。
「転職とは何かを理解するまでは、転職はさせられません。どんなジョブを得て、どんな人生を歩みたいか、真剣に考えてください」
「いいから強くさせろ!!」
「ぶん殴るぞ!!」
ここまで酷い奴らは、ホープタウンに来て初めてだ。実家の転職神殿では、よくあったけどね。
二人はすぐにオーガラに連れ出され、激しく折檻されていた。
折檻を終えたオーガラが言う。
「大聖女殿、申し訳ない。これから厳しく指導するから、見捨てないでやってほしい」
オーガラは二人に優しい。
というのも、二人とはずっとライバル関係にあったが、お互いに認め合い、切磋琢磨してきた仲だったらしい。自分だけ転職して強くなったという負い目もあるようで、できれば彼らを転職させて、同じ条件でまた競い合いたいと思っているようだった。
「指導はお任せします。強さよりも心構えを中心に教えてください」
1ヶ月もすると、二人は改心した。
積極的にゴブリンたちの仕事を手伝ったり、奉仕活動もしている。面接しても、転職させてもいいと思えた。お父様にも面談をしてもらったが、転職させても問題ないとの意見だった。
そして、二人は無事に転職した。
ライオスは「ライオンファイター」、タイガードは「タイガーファイター」になった。転職後すぐにオーガラと訓練という名の殴り合いをしていた。三人とも楽しそうだ。
三人の殴り合いを見ていたところ、アルベールに声を掛けられた。
「獅子族、虎人族だけでなく、獣人族全体が俺を支持してくれることになった」
「おめでとうございます。これで、魔王に一歩近付きましたね」
「これもすべて、エクレア殿のお蔭だ。それで今後だが、生産職のジョブ持ちを増やして行きたいと思っている。いくら戦闘力が高くても、国は豊かにならんからな。だからエクレア殿には、引き続き世話になるのだが・・・」
「もちろん、お手伝いさせていただきますよ。人を幸せにすることが転職神官の使命ですからね」
アルベールが魔王になれば、きっといい国になるだろう。
彼をしっかりとサポートしていきたいと思う。
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