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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第三章 正式に転職神殿を始めました

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31 大部隊

 アバレウス帝国の部隊を撃退してから3ヶ月が経った。

 私たちは一旦、ホープタウンに帰還し、通常業務に戻っていた。あれから2度アバレウス帝国の部隊がやって来たようだが、すべて獣人たちだけで撃退している。それに最近では、部隊ではなく少数の部隊員や冒険者が行方不明となった部隊の捜索にやって来るだけだという。獣人たちも無差別殺人をしているわけではないので、彼らの動向を注視しながら、静観している状況だ。

 お父様が言う。


「原因が分かるまでは、略奪に来ることはないだろう。そもそも、訓練の一環として来ているのに、全滅する可能性が高い任務を続けることは、合理性に欠けるからね」

「落ち着いているのなら、それで構いません。これで襲撃自体が無くなればいいのですが・・・」


 丁度そんな話をしていた時だった。

 コボルト族の代表であるコボルさんが慌てた様子で、ホープタウンにやって来たのだ。アルベールと共に事情を聞く。


「大変です!!アバレウス帝国が大部隊を率いて進軍して来ています!!」


 アルベールが落ち着かせる。


「焦ったところで、どうにもならん。まずは部隊の規模、現在地を報告しろ。話はそれからだ」


 コボルさんの報告によると、部隊の規模は5000、重装歩兵がメインで野営中も隙が無いそうだ。


「流石に数が多すぎて、対処のしようがありません。それに夜間の警戒員も多数配置されていて、打つ手がない状況なのです」


 私は疑問に思ったことを口にする。


「どうして急に大部隊を差し向けてきたのでしょうか?」


 コボルさんは、少し答えにくそうに言った。


「実は先日、全滅させられずに数人を取り逃がしてしまいました。そこから情報が漏れたのかもしれません。最近、襲撃が上手く行き過ぎて、こちらも少し気が緩んでいたんだと思います。本当に申し訳ありません」


 アルベールが言う。


「過ぎたことは仕方がない。反省は後だ。まずは目の前の危機を脱しなければならん」


 お父様も続く。


「情報が洩れることは仕方がないことです。それに報告を聞く限りでは、アバレウス帝国は正規軍を出してきたと思います。こちらから攻撃せずにすぐに報告に来たことは、称賛されるべきですよ」


「ありがとうございます」


 報告を聞く限り、救いは進軍速度が極めて遅いことだ。

 大部隊ではあるし、いつあるとも分からない襲撃に備えているので、スピードが出せない。


「相手の兵が5000では、獣人だけでは対処できない。こちらからも援軍を出さなければ・・・」



 ★★★


 すぐに準備を整えて、獣人の里に出発する。

 今回は私たちに加えて、オーガラとゴブミ、それにホープタウンの防衛に必要な最低限の人員を残して、村長とともにゴブリン自警団も出動する。

 獣人の里に到着すると、オーガの族長でオーガラの弟であるオーガルと商人のゴブマさんと合流した。今回の件で、オーガの戦力を最大限出してくれたというわけだ。

 オーガルが言う。


「特に転職者は、自分の力を試したくてうずうずしているようで、予定していた人員よりも多く連れて来ることになりました。それで補給のことを考えて、ゴブマにもお願いをしたというわけです」


 コボルさんがお礼を述べる。


「オーガの方まで来ていただけるなんて、本当に有難いです。これで数の上では互角です。それに補給のことを考えていただけるなんて・・・」


 コボルさんもオーガの変わりように驚いているようだった。

 というのも、以前のオーガであれば、補給のことなんて考えない。現地調達が基本だし、そもそも戦術も何もなかったからね。まあ、それでゴブリンがオーガに勝つことができたのだけど。


 

 戦力が揃ったところで、軍議が始まり、アルベールが方針を発表する。


「戦闘となれば、防衛戦に徹する。そのためにはまず、砦を築こう。村長、頼めるか?」

「もちろんですじゃ」


 ホープタウンの村長が答える。

 村長は実際にゴブリンだけでオーガを撃退した実績があるからね。その辺はアルベールも把握している。


「砦を築き、防衛戦力が整ったところで、俺が少数を率いて警告に向かう。この件については、魔王国として対応していいと父上からも承認をいただいている。一番いい方法は、交渉で片が付くことだがな」


 アルベールが言ったとおりの展開になれば、それが理想ではある。

 しかし、人間は小さい頃から魔族は邪悪な種族で、交渉ができる相手だとは、端から思っていない。上手くいかない可能性のほうが高いだろう。


 基本方針が決まったところで、砦の建設に取り掛かった。

 時間がないので、あくまで簡易的な物だが、村長の的確な指示と生産職や魔法職のジョブ持ちの頑張りによって、1日で砦と言える程度の物にはなっていた。

 アルベールが言う。


「敵は破城槌のような攻城兵器は持っていない。この程度でも突破するのは至難の業だろうな」

「でも、この砦を使うことがないことが一番ですけどね」

「そのためには交渉が重要だな。交渉が上手くなるスキルとかはないのか?」

「あるにはありますが、交渉はスキルよりも経験が重要ですからね。剣や魔法と同じで、一朝一夕にはいきませんよ」


 アルベールが笑いながら言う。


「王都への旅の途中、ゴブマの商会の手伝いをしたが、勉強になった。交渉と呼べるものではなかったかもしれんが、それでもやってよかったと思っている。エクレア殿には感謝してもしきれない」


「アルベールさんが、立派な「魔勇者」になってもらえれば、それで構いませんよ。お礼なんて・・・職務としてやっているだけですし・・・まあ、少しであれば交渉の初歩は教えられますよ。これからやりますか?」


「もちろんだ」


 交渉の練習というか、最後のほうはただのお喋りに近かったけどね。

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