3 旅立ち
テイマーギルドの前で、私を待っていたのは、私を裏切った転職神官の一人、ショコラだった。
ショコラは小柄で、黒髪の可愛らしい少女だ。私と年齢も近い。
いい関係が築けていると思っていたんだけどなあ・・・
というのも、ショコラはこの転職神殿で転職して「転職神官」のジョブを得たのだ。私は、転職者の事前相談も行っていて、彼女とはその頃からの付き合いだ。彼女は「転職神官」の他にも「魔道士」や「回復術師」にも転職できた。
相談を続けていくうちに、彼女にこう言われた。
「私は「転職神官」になろうと思います。エクレア様と話してみて、転職神官が素晴らしい仕事だと分かりました。私もエクレア様のような転職神官になりたいです」
「でも私は、「転職」のスキルが使えないんだけどね」
「そんなことは関係ありません。エクレア様には、もっと大切なことを教えていただきました」
彼女が転職神官になってからも、度々相談に乗っていた。
そんな彼女に裏切られるとは思わなかったけどね。
ショコラは、私を見付けるなり謝罪してきた。
「本当に申し訳ありません。私はエクレア様がそんなことをする人ではないと、訴えたのですが、聞き入れてもらえず、更に『庇い立てすると、貴方も共犯者と見做すわよ。そうなったら、故郷の家族も大変よね』とマロン様に脅されたのです。私としては、どうすることもできず・・・」
ショコラは泣き崩れた。
彼女がマロンの計画に加担したのは、脅されてのことだと分かっただけでも救われた。たとえ、正義感を出して、マロンが私の味方をしたとしても結果は同じだっただろう。新米の転職神官と無能な転職神官の話を誰が信じるのだろうという話だ。
「気にしないで、ショコラ。私は大丈夫だから」
「許してくれとは言いません。ですが、これをお持ちください」
ショコラが差し出してきたのは、小袋だった。中に金貨が100枚ほど入っていた。どこに行っても半年は生活できる額だ。それに私が神官時代に身に付けていた神官服も・・・
「リシャール様から貰った物だと伺っていましたので、こっそりお持ちしました」
これは嬉しかった。私が転職神官になったことを祝って、お父様がプレゼントしてくれた思い出の神官服だ。多分、もう着ることはないだろうけど。
「ありがとう、ショコラ。私のことは本当に気にしないでいいからね。それに本部に直訴しようとしているなら、止めたほうがいいわ。マロンのことだから、本部にも手を回していると思うの」
ずる賢いマロンのことだ。それくらいはしていると思う。
「分かりました。私はここに残って、決定的な証拠を押さえてみせます。それと・・・」
マロンが言うには、転職神殿から街道を通って、隣町に行くのは止めたほうがいいという。というのも、マロンの手の者が、待ち伏せしているとのことだった。私もそれなりに強い。冒険者でいうとC~D程度の実力はある。しかし、その道のプロには勝てない。
マロンは言う。
「お渡しした金貨で、護衛を雇ってもらえれば、何とかなるかもしれません」
私は少し考えて言った。
「だったら、私は行先を変更するわ。ありがとう、ショコラ。元気でね」
私はショコラを残して、立ち去った。ショコラは見えなくなるまで、私に頭を下げていた。
★★★
私が向かったのは「恐怖の森」だった。
ランカスター転職神殿は、ホーリスタ王国最北端に位置する。当初の計画なら街道を南に下って、王都を目指す予定だったのだけど、北の「恐怖の森」に向かうことにした。この森はかなり強力な魔物が出現する場所で、更に北に抜けた先には、魔族領があるという。魔族とは激しい戦闘を繰り返してきた歴史があり、誰も「恐怖の森」には近付かない。
マロンが刺客を差し向けて来るなら、どの町に行っても同じだから、絶対に刺客がやって来ない魔族領を目指すことにした。それにお父様は魔族領で行方不明になっているから、捜索の意味もある。命の危険はあるだろうけど。
私は自殺企図者ではない。
無計画にここを目指したわけではない。ショコラから貰った金貨で、買えるだけ食料や物資を買い込んだ。幸い、「商人」のスキル「空間拡張」でリュックサックの容量を増やしているので、半年分の食料は確保できた。
「ラビ、危なくなったら、私を置いて逃げてね」
「キュー」
正確な言葉は分からないが、「そんなことしないよ」と言っている感じがする。
それから5日経った。
私は「斥候」の初級スキルを駆使し、ほとんど魔物と戦うことなく進んでいる。というか、魔物が強すぎて手に負えない。多分1匹や2匹ならなんとかなるかもしれない。しかし、そんなことをしても意味がない。深くダメージを受けた状態で、他の魔物と戦闘することになれば、それこそ命取りだ。
そんな時、衝撃の光景を目にする。
緑色の肌で小柄な少女二名が、Bランクの魔物であるグレートボアに襲われていた。襲われている緑色の肌の少女たちは、多分ゴブリンという種族だろう。私たちは子供の頃から、魔族は恐ろしく、残忍な種族で絶対に関わってはいけないと教えられていた。
普通に考えれば、彼女たちとグレートボアが戦闘をしているうちに、ここから立ち去ることが一番安全だと思う。しかし、観察してみると残忍な種族のようには思えない。目の前では、二人がお互いを庇い合っていた。
「ゴブミ!!私を置いて逃げなさい。できる限り引きつけるから」
「嫌よ、ゴブコお姉ちゃん。それなら、体の弱い私を置いて逃げて!!」
気付いたら、体が反応していた。
「私は旅の神官です。助太刀致します」
お祖父様の言葉を思い出す。
困っている人は、分け隔てなく助ける。それが魔族であっても・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!