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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第三章 正式に転職神殿を始めました

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29 出張転職

 獣人の里に到着した。

 里というか、難民キャンプのようだった。話を聞いたところ、まともな建物を建築しても、襲撃の度に壊されるので、ほとんどの住民はテントで暮らしているという。


 そんな中私たちは、あくまでも里の中ではだが、かなり立派な建物に案内された。

 その建物だけは、石造りで、集会場のようにかなり大きい。案内役を買って出てくれたコボルさんに尋ねる。コボルさんは、「コボルトシーカー」のジョブを持つコボルトで、次期族長らしい。


「大聖女様、こちらは出張転職を行っていただくに当たり、里の総力を結集して建築した、臨時の転職神殿です。本家の転職神殿には及びませんが・・・」


 申し訳なさそうにコボルさんは言う。

 私たちが熱烈に歓迎されているのは分かるけど、こんな危機的状況なのに神殿を建設してくれたことに、少し心苦しくなった。

 そんな思いが表情に出ていたのか、コボルさんが不安げに言ってくる。


「も、もしかして・・・お気に召されませんでしたか?」

「そ、そんなことはありません。十分立派な神殿ですよ」

「そうですか・・・あっ!!もしかして!!」


 コボルさんは、何かを思い付いたように私たちを神殿に併設されている祠に案内した。


「もちろん、神獣様のことも忘れていませんよ。こちらは神獣様専用の祠になります。スタッフが常駐していますし、クッションや干し草も用意しています。それに新鮮なフルーツも用意していますので、気に入っていただけると思います」


「キュー!!」


 ラビは大満足のようだった。

 因みにラビは獣人たちに絶大な人気がある。ゴブリンたちよりも、獣人たちは神獣に対する思い入れが強いみたいで、ホープタウンにやって来た獣人たちは、転職目的の他にラビを拝むのも、その目的の一つだ。


「ラビの為にわざわざすみません」

「いえいえ、神獣様に気に入ってもらえて、みんな感激しています」


 それから、コボルさんは一頻り、如何にラビが素晴らしいか、という話をした後に集落の者を集めていた。

 1時間もしない内に集落の住民が全員集合した。コボルト族、猫人族、栗鼠人族がほとんどだった。私は彼らの前で今後の方針を説明する。


「私たちがここにやって来たのは、皆さんがこの里を自分たちの手で守れるようにするためです。そのお手伝いはさせていただきます。しかし、実際に戦うのは皆さんです。無理にとは言いません。里の為に戦う覚悟がある者のみ、転職をさせていただきます」


 一瞬静まり返った後、住民は口々に叫ぶ。


「そんなの戦うに決まっているでしょ!!」

「そうだ!!この里は俺が守る」

「仲間の仇を取らせてくれ、大聖女様!!」


 反応は悪くない。

 実際、ホープタウンで転職して帰還した者たちの活躍を目の当たりにしたことで、自分たちもできると感じているようだ。


「今回は時間がありません。転職については、戦闘職を中心に行います。生産職希望の方は、今回の転職は見送らせていただきます」


 これについても納得してくれた。

 通常であれば、転職者の特性を把握し、将来について一緒に考え、転職するジョブを決めていくのだが、今回は事情が違う。確認するのは二つのみ、戦闘職に適性があるか、戦う意思があるかどうかだけだ。幸い、老人と子供を除くすべての者が、覚悟を持っていた。

 お父様と二人で、適性がある者をより分けて行く。最終的に300人近くを戦闘職に転職させることができた。



 ★★★


 次の日から早速訓練が始まる。

 改めて言うが、ジョブを得た瞬間から急に強くなるわけではない。そんなに簡単に強くなれたら、誰も苦労はしない。ジョブを得て、地道な修行を積んではじめて能力が開花するのだ。しかし、今回はこちらも事情が異なる。すぐに実戦が待っている。なので、基本スキルをじっくりと習得させている暇はない。そこで、戦術から逆算して、必要なスキルを身につけさせることにした。

 具体的な戦術はアルベールとお父様と話し合った。アバレウス帝国の部隊は新兵ばかりで、自分たちが襲撃されるなんて、夢にも思わないから狙うなら行軍中か夜営中がチャンスだということになった。


「となると早めに敵を発見することが重要だな?」

「そのとおりです。特に夜営中は、見張りもいますが、弛みきっていますからね」

「コボルトは鼻が利くし、獣人は総じて夜目が利く。夜営中の襲撃で撃退する作戦を練ろう」


 結局、索敵と夜襲に特化スキルを優先的に指導することになった。


 早速指導が始まったのだが、ここで一番人気はなんとゴブキチだった。

 これはゴブキチがというよりは、一緒にいるシャドウウルフのラッシュとアマラの影響が大きい。獣人たちはホーンラビットのラビを神獣と崇めるくらいだから、シャドウウルフも人気がある。一緒に来たゴブコは獣人たちに弓の指導をしているのだが、ゴブキチは教え方が下手すぎるので、子供たちのお守りをすることになってしまった。そうとは知らないゴブキチは、子供たちをラッシュやアマラに乗せてあげている。なので、子供たちからは大人気だった。


「僕も大きくなったら、ゴブキチ先生みたいになりたい!!」

「私も!!」

「どうしたら、シャドウウルフに乗れるようになるんですか?」


 ゴブキチは得意気に言う。


「諦めずに頑張れば、夢は叶うぞ。今度来たときには、ラッシュの仲間のフォレストウルフを連れて来てやろう。まだライダーが決まっていないフォレストウルフも多いからな」


「「「はい!!先生!!」」」


 そんなゴブキチを見ながらゴブコが言う。


「今後のことを考えると、子供たちにゴブリンに親しみを持ってもらうことは良いことかもしれないわね」

「そうね。鬼族とか獣人族とか関係なく、共存することがアルベールさんの理想だからね」

「そんな日が来ると、本当にいいけどね」


 そんな日は、遠くない未来にやって来ると信じている。

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