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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第三章 正式に転職神殿を始めました

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 転職待ちで待機していたゴブリンとオーガ以外の種族の転職業務を終えた。

 実際に転職をさせてみて感じたのが、生産職は別にして、種族によって特徴的なジョブになるということだった。猫人族は魔法関係のジョブになることが多く、インプ族は「魔忍者」が多かった。また、コボルト族とハーフリングは、人間にはないジョブが発現した。コボルトの特徴的なジョブは、「コボルトシーカー」で、コボルトの特徴である匂いを嗅ぎ分ける能力が向上し、更に隠密行動も得意になるというジョブだった。ハーフリングは、「グラスランナー」という、高速移動に特化したジョブだった。


 転職神官として、このようなことは興味が湧いてくる。

 お父様と転職談義に花が咲く。


「種族ごとに特徴が分かれるのは、本当に興味深い。記録を取って、分析をしよう」

「もちろんです。私としては、もっと多くの種族のデータも取りたいと思います」

「そうだね。そのためには、もっと多くの種族にこの神殿に来てもらわないとね」


 転職については、未だ解明されていないことも多くある。それを探求することも、転職神官の使命の一つなのだ。


「それはそうと、アルベール君の指導はどうするんだい?」

「アルベールさんとは話合い、戦闘職だけでなく、積極的に生産職のジョブも経験させることにしています。実家の転職神殿で「勇者」を育てたときは、戦闘職しか経験させませんでしたが、今回はじっくりと育てようと思っています」

「あの子か・・・まあ、王子様だから仕方なかったんだけどね」

「まあ、アルベールさんも王子様ですけどね・・・」


 そんな会話をしているところ、アルベールとシャタンさんがやって来た。

 相談があるという。


「まずは生産職の者からの要望だ。指導者を招いてほしい」


 アルベールは戦闘訓練だけでなく、生産職の研修も行っている。ポーションを調合したり、簡単な日用品を作ったり、農作業をしたりだ。その中で、自然と彼らとの交流が生まれる。ジョブを強化するために行っていたものだが、こういったことは統治者となってもいい経験になるだろう。

 指導者の手配は、生産職の責任者でもあるゴブアさんからも度々要望があった。ゴブリンマイスターが多く誕生したのだが、指導者がいないのだ。彼らなりに試行錯誤を繰り返しながら頑張っているが、それでも限界がある。


「鍛冶師などのスキルは、ジョブよりも経験に左右されますからね。ドワーフに頼むことはできないんでしょうか?」

「難しいな・・・ドワーフは意固地で偏屈で閉鎖的な奴らだ。話はしてみたが、いい返事はもらえなかった」


 当然だが、私にもお父様にも魔王国で伝手がない。

 実家の転職神殿で、研修を引き受けてくれた鍛冶ギルドのギルマスであるドグラスさんなら、指導者として打って付けだ。短気がすぐ手が出るけど、いい指導者だと思う。


「実家の転職神殿関係で、指導者の宛てはあります。しかし、こちらも頼れない理由があります」


 私はマロンに転職神殿を追放され、転職神官資格も剥奪されている。それにこの転職神殿自体が無許可営業だ。転職神殿本部やマーズ教会に知られただけで、大問題になってしまう。そのことは、アルベールにも相談したのだが・・・


「エクレア殿が懸念していることもよく分かる。助けになるかどうかは分からんが、これを用意した」


 アルベールが差し出したのは、認定証だった。


「これは?」

「父上からこの転職神殿は、正式に魔王国の公認とするとの王命が発布された。よって、何かあっても魔王国が全面的に支援する。エクレア殿の功績を考えれば、当然のことだ」


 戸惑っている私をよそにお父様が言う。


「よかったじゃないか、エクレア。これでこの神殿も正式な神殿だ。規定でもそうなっているしね」


 規定を思い出す。

 規定によると「国家元首の承認があれば転職神殿を開業することができる」とある。表向きは、国家元首にすべての権限があると思われるが、実際はそうではない。転職神殿を開くには、転職神官を確保しなければならないし、運営のノウハウも必要になる。転職神殿本部が協力しなければ、開業は不可能に近い。わざわざ「国家元首の承認が・・・」としているのは、国王たちに配意している姿勢を見せるためだ。「こちらが配意しているのだから、分かっているだろ?」と暗に言っている。


 しかし、この転職神殿は事情が異なる。

 すでに転職神殿は営業しているし、転職神官もいる。魔王も国家元首だから、規定に違反していないしね。

 つまり、転職神殿本部に忖度する必要がないのだ。


「ありがとうございます。これで本当の転職神官になれました」

「礼には及ばん。貴殿には返しきれない恩を受けたからな」


 アルベールは、「魔勇者」になって、人間的にも成長したと思う。

 転職者に恩を返されることは、本当に転職神官冥利に尽きる。


 そこから、アルベールの研修状況を確かめたり、研修先での面白エピソードなどを聞いて盛り上がった。こういう転職者との交流も転職神官のやりがいの一つだ。


 しばらく盛り上がった後で、アルベールは真剣な表情で言った。


「相談はもう一つある。これは獣人の転職者からの要望だ。こちらはすぐに対応しなければならない案件だと考えている。それは・・・」


 場が凍った。

 こんなこと、一介の転職神官が解決できるような問題ではないと思う。

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