26 幕間 ランカスター転職神殿の今 2
~神官ショコラ視点~
突然のことだった。神殿長のマロンから追放処分を言い渡された。
「神官ショコラ、貴方をランカスター転職神殿から追放し、併せて転職神官資格も剥奪します」
「そ、そんな・・・私は何も・・・」
「言い訳は聞きたくありません。度重なる規律違反、私に対する反抗的な態度は目に余ります。それに加えて、公金の不正使用をしていたなんてね。証拠は揃っているのよ」
証拠資料を突き付けられた。
確認すると不正と言われたのは、転職者のための初期研修の費用だった。何とかして初期研修を続けてもらおうと交渉を続け、薬師ギルドとテイマーギルドだけは、何とか協力を取り付けた。それにこれは正式に承認をもらった案件だったはずだ。
「でもこれは、正式に承認をいただいて・・・」
「まだ、白を切るの?貴方が薬師ギルドやテイマーギルドと癒着していることは、こっちの調査で分かっているのよ。リベートでも貰っていたのでしょう?明らかに高額な報酬が支払われているわね。これを不正と呼ばずして何て言うのかしら?」
「決して不正ではありません。転職者を一から育てようとすれば、それくらいの費用は掛かります。それにあちらのご好意で、前神殿長やエクレア様がいらっしゃった時もよりも、かなり安くしてくれているんです。それを不正だなんて・・・」
何を言っても無駄だった。
「悲しいことにお祖父様も、エクレアお姉様も不正に手を染めていたのよ。貴方はギルマスたちに騙されたんでしょうね。過去の記録を確認すると、転職神殿本部から再三に渡って、無駄な研修はするなと指導されていたのよ。それに貴方の処分は本部の承認をもらっているのよ」
マロンが言った「転職神殿本部」という言葉で、すべてがつながった。
私はこの転職神殿の不正を告発するため、本部に直訴していた。エクレア様に「絶対に直訴はするな」と言われていたのに・・・
それほど、今の転職神殿は酷い状況だ。
転職者が激減したことで、研修費用を大幅にカットしたが、財政状況は改善せず、新たな施策を打ち出した。最初は、貴族向けに形だけ何度も転職させるものだった。貴族の中には、ジョブの経験数を誇る馬鹿が多い。それを利用したのだ。
これはまだ、ランカスター転職神殿の理念に反するけど、許せる範囲だった。しかし、それだけでは財政状況が改善されないので、禁忌とも呼べる施策を行った。裏ギルドと接触し、問題のある者や犯罪歴がある者をこっそりと転職させるようになった。
流石にこれは許せなかった。
私は証拠を集めて、本部に直訴した。この時は本部が不正を正してくれると思っていた。でも結果は、直訴した私が転職神殿を追われた。冷静になって考えてみると、裏ギルドを紹介したのは本部だったのだろう。それで、知り過ぎた私を追放したのだ。
それにエクレア様の件もあり、追放だけでは済まされないと思う。この町を離れた瞬間に襲撃される可能性は十分にある。
エクレア様がいた頃は本当によかった。転職者の希望で満ち溢れていた。それが今では酷い有様だ。隣接する町の治安も悪化しているという。大手の商会のいくつかは、支店を閉鎖したと聞いている。
もうこんな所で仕事を続けていく意味はないし、何よりも自分可愛さにエクレア様を助けなかった天罰だと思った。
「長い間、お世話になりました。すぐにここを出て行きます」
★★★
半ば自棄になった私だが、お世話になった薬師ギルドとテイマーギルドに挨拶だけはしようと思い、まず薬師ギルドに向かった。私は「回復術師」としての適職もあり、ポーションや回復魔法にも興味があったので、薬師ギルドにはちょくちょく訪れていた。そこで、ギルマスのジャミルさんと懇意になり、何とか頼みこんで、研修を引き受けてもらった経緯がある。テイマーギルドが協力してくれたのも、ジャミルさんの計らいだった。
薬師ギルドを訪ねると、すぐにギルマスルームに案内された。
ジャミルさんが心配して事情を聞いて来る。私はこの際だと思って、自分の罪や転職神殿の不正を告白した。当然、エクレア様の行先についても。
「私にもっと勇気があれば、エクレア様を救えたはずです。自分可愛さに今までずっと、黙っていたんです。本当に申し訳ありません」
ジャミルさんの顔が曇る。
「ショコラちゃん、よく告白してくれたわね。ただ、これは私だけでは対処しきれない案件ね。緊急のギルマス会議を開くから、しばらく待ってね」
そこからは早かった。
すぐに各ギルドのギルマスたちが集結し、緊急会議が開かれた。会議が始まってすぐ、鍛冶ギルドのギルマスが怒鳴り始める。
「ふざけんな!!エクレアの嬢ちゃんは無実の罪で追放されたってのか?おい!!お前!!もっと早く言えよ!!」
怒るのも当然だ。
「申し訳ありません・・・弁解のしようも・・・」
ジャミルさんが割って入ってくれる。
「ドグラスさん!!少し落ち着いてください。今それを言ったところで、どうしようもありません。まずは、今後どうするかを考えなければ・・・それにショコラちゃんが、その時何を言ったところで、何も変わらなかったでしょう」
「それはそうだな。それに嬢ちゃん、大きな声を出して悪かったな。今更だが、正直に言ってくれたことは、感謝するよ」
冒険者ギルドのギルマスが話始める。
「エクレア捜索のため、冒険者ギルドでは、ずっと情報を集めていた。エクレアが「恐怖の森」に入ったと分かっただけでも、対処のしようがある。冒険者ギルドはすぐに捜索隊を編成する。もう目星はつけているがな」
テイマーギルドのギルマスも続く。
「ウチも捜索隊を編成する。メンバーも決まっている。どうせなら合同で出そう」
「異論はない」
ジャミルさんが言う。
「エクレアちゃんの追放だけなら、神殿のことですから私たちは何もできませんが、犯罪者や不適格者の転職行為は明確な違法です。国に動いてもらっては?」
鍛冶ギルドのギルマスが言う。
「だったら、打って付けの奴がいる。2週間後に視察を兼ねて、注文していた武器を受け取りに来るんだ。その時に話をつけてやるよ」
「もしかして・・・」
「そうだ。今をときめく勇者様だよ。だが俺にしてみりゃ、いつまでも生意気なクソガキだからな」
あっと言う間に方針が決まった。
こんな頼もしい人たちを切り捨てたマロンは本当に馬鹿だ。
「ところで、この嬢ちゃんはどうするんだ?」
私は迷わず言った。
「私も捜索隊に加えてください。これでも多少の心得はあります」
冒険者ギルドのギルマスが言う。
「「恐怖の森」は危険地帯だ。その先にいる魔族も強力で悪辣な奴らだ。生きて帰れないかもしれないぞ」
「その覚悟はできています。それでも行かせてください」
私の捜索隊への加入は受け入れられた。もう捨てた命だ。どうせなら、お世話になったエクレア様の為に使いたい。
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次回から第三章となります。




