24 再会 2
お父様が魔王国にやって来た経緯を聞く。
「まず、私が魔王国との戦争に招集されたのには訳がある。それは、エクレアにも関係することなんだ。転職神殿本部で「上級転職神官」の真実に気付いた私は、本部やマーズ教会の上層部に目を付けられていた。そして、彼らは脅してきた。
『エクレアを我々に渡せ。エクレアは本部で一生飼い殺しにする。そうしなければ、大変なことになるぞ』とね。当然、断ったよ。そうしたら、ある条件を突き付けられた」
お父様が突き付けられた条件とは、
1 エクレアに真実を話さない。
2 一生、ランカスター転職神殿から出さない。
3 お父様が「転職神官」として、魔王国との戦争に従軍する。
の三つだった。
「父上とも相談した。その結果、神官騎士団のエースであるユリウスとの結婚を強引に決め、更にエクレアを神殿長にする。そうすれば、エクレアがランカスター転職神殿から出ることはないと思ったんだ。だから、父上や私は「転職」のスキルが使えなくても、エクレアを神殿長にすることにした。今思えば、マロンの気持ちも分からなくもないが・・・」
そこで一旦、話を切った。
「それで、私は魔王国との戦争に従軍することになったのだが、本当に酷いところだった。派遣されたのは侵略国家として有名なアバレウス帝国だった。アバレウス帝国は北部を魔王国の獣人居住区と接している。獣人の居住区は豊富な資源があるから、それを狙った侵略だ。その侵略を正当化するために教会の教義を利用していた。そして、私がやらされたのは・・・「強制転職」だった」
強制転職とは、転職者の意思に反して、強制的にジョブを変更することだ。
お父様も多くの「農民」、「商人」、「鍛冶師」などを「剣士」や「槍使い」に転職させたようだ。そして、転職を推奨されていない「狂戦士」にも。
「今でも覚えているよ。彼らの恨むような目をね。将来を夢見た商人や職人を「狂戦士」に変えるなんて人として、間違っている。教会の奴らは、私に後ろ暗い仕事をさせることによって、親子ともども教会の言いなりにしようとしていたんだろう」
私はお父様を抱きしめた。
すべて、お父様が私を思ってしてくれたことだ。お父様もどうすることもできなかったと思う。
「その後だが、戦闘に参加させられた。もはや、戦闘というより略奪だった。獣人たちは種族ごとに戦闘が得意な種族と苦手な種族に分かれる。戦闘が得意な種族との戦闘は避け、コボルトや猫人族の集落を襲うんだ。そして、虎人族や獅子族がやって来たら撤退する。鬼畜の所業だった。流石に私もこれは止めた。しかし、現場で何を言っても聞き入れてくれなかった・・・」
その後、お父様は部隊の撤退命令が出たがこれに従わず、怪我をしたコボルトたちの治療をしていたところ、魔王国の部隊に捕まって捕虜になったそうだ。
アルベールが引き継ぐ。
「父上もリシャール殿に同情している。だが、襲撃された者たちのことを思うと簡単に許すことはできない。だから、捕虜という身分でここに置いているんだ」
ここまで話を聞いて、私たち家族がバラバラになったのも、すべて教会の所為だ。また、魔王国に暮らす者として、アバレウス帝国の行為も許せない。
「魔王様には本当によくしてもらっている。好きに書庫に出入りさせてもらっているしね。それと私の進言を聞き入れてくれた。このままでは大変なことになるとね」
お父様が言うには、アバレウス帝国と教会は大規模な魔王国への侵攻を計画しているという。
「父上が魔王選で、次期魔王を「より多くの種族から支持を得た者」としたのは、魔族が団結しなければならないという思いからだろう。エクレア殿も分かっていると思うが、魔王選の開催の儀がすべてを物語っている」
言われてみればそうだ。
思考がみんな脳筋過ぎる。あんな状態なら、まともに軍事行動はできないだろうし、団結して困難に立ち向かおうという感じにもならないだろう。
それを考えるとゴブリンやアルベールは、まともなほうだ。
「今日で確信した。俺以外が魔王になれば、魔王国が終わる。だから、エクレア殿、リシャール殿、このとおりだ。協力してほしい」
アルベールは深々と頭を下げた。
一国の王子に頭を下げられるなんて、恐縮してしまう。
「アルベールさん、頭を上げてください。貴方が真の「魔勇者」となるためのお手伝いであれば、喜んでさせていただきます。もちろん、修行は厳しいですけど」
「そうですよ、殿下。何も魔族が団結して、人間の国に攻め入ろうとしているわけではありませんし、魔王国が強くなれば、帝国も攻めて来られません。そうなれば、戦争が防げます。結果的に人間側にも多くの利益がもたらされます。ですので、最大限協力させていただきます」
ここまで、アルベールと接してきて、誠実で真面目な人だと思う。それに私としては、魔王に一番相応しい人物だとも思う。だったら協力する以外にないだろう。
そこからは、今後について話し合った。
まずはホープタウンの転職事業を拡大し、力ではなく、心から賛同してくれる種族を増やすということで話はまとまった。
話が途切れたところで、シャタンさんが会話に入って来る。
「お食事の用意ができましたよ。腹が減っては何とやらといいますから、しっかり食べて頑張りましょうね」
シャタンさんは空気を読むのが非常に上手い。
そこからは、楽しい夕食となった。お父様と私、アルベールとシャタンさん、どちらも複雑な家族だけど、お互いを思いやっていることは共通している。そういえば、実家にいたときも家族の食事にスタッフを呼んで、賑やかに過ごしていた。スタッフの悩みを聞いたり、夢を聞いたり・・・
ここにマロンがいないことが少し寂しい。あれだけ、酷いことをされても心配してしまう私は、本当にお人好しだと思ってしまう。
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