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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第二章 魔王選

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20 オーガの里

 オーガの里に到着した。

 ここに来たのは、鬼族の代表として、アルベールが魔王選に出場することを新族長のオーガルに伝えるためだ。


 オーガの里は、思ったよりも賑わっていた。

 建設中の建物も多く、オーガたちがその辺で喧嘩というか、力比べをしている以外は、ホープタウンと大して変わりはなかった。それには理由がある。至る所にゴブリンがいる。

 その中で、顔見知りのゴブリンが声を掛けて来た。そのゴブリンは、「ゴブリン商人マーチャント」のゴブマさんだった。


「大聖女様、ゴブキチ隊長、お久しぶりです。最近こちらに支店を出したので、長期滞在をしていたのですよ」

「ゴブマさんも元気そうで、何よりです」

「ありがとうございます。新しくオーガの族長になったオーガル様の計らいで、儲けさせてもらってます。オーガル様は、ゴブリンに対する差別や不当な扱いを禁止してくれました」


 話を聞く限り、オーガルはいい族長のようだった。オーガルは転職で「オーガロード」になっている。このジョブは、戦闘力も高くなるが、それよりも統治能力や指揮能力が上がる。それが生かせているのだろう。

 こちらの事情をゴブマさんに話すと、族長の館まで案内してくれた。入口で、ゴブマさんとは別れた。


「ここでも、ゴブリンは大活躍しているんですよ」


 別れ際にゴブマさんが言った言葉の意味は、すぐに分かった。

 族長の館に入るとゴブリンたちが、忙しそうに仕事をしていた。顔見知りのゴブリンも、多くいる。その中にオーガルがいた。


「よし!!みんなのお蔭で今月からは黒字だ。後は、あの馬鹿どもが問題を起こさなければ、徐々に返済できるぞ」


 オーガルは、ゴブリンたちに忙しそうに指示を出していた。

 しばらくして、顔見知りのゴブリンが、オーガルを呼んできてくれた。


「おお、大聖女様。今日はどういったご用件で?」


 私は事情を説明する。


「なるほど、こちらのアルベール王子殿下が鬼族の代表として、魔王選に出場するということですね?」

「そのとおりです」

「兄上が認めたのだから、私に文句はありません。しかし、ウチの馬鹿どもは、納得しないかもしれないので・・・」


 オーガルは、バツが悪そうに言った。

 詳しく聞くと、オーガはどこまで行ってもオーガだった。慣例として、オーガの代表は基本的に誰の挑戦も受けなければならないらしい。


「まあオーガなので、仕方ないと思ってください。こちらも何とか事前に選考を行って、3人まで絞っています。明日にでも模擬戦をお願いしたいのです。長旅でお疲れだと思います。今日のところは、この館に泊まって行ってください」


 オーガルは以前に会った時に比べ、かなり物腰が柔らかくなっている。あの時は新族長になったばかりで、他の者に舐められないようにと思っていらしく、こちらのほうが素らしい。

 それにオーガの里は今、ゴブリンがいないと成り立たない状態のようで、私たちを怒らせて、ゴブリンたちがいなくなると、里の運営が立ちいかなくなると分かっているようだ。


「本当にゴブリンたちには助かっています。私たちオーガと違って、勤勉ですからね」


 その日は、料理やお酒をこれでもかというくらい出してくれた。

 とにかく量を出すのが、オーガ流のおもてなしだそうだ。久しぶりの豪華な食事に、不覚にも少し食べ過ぎてしまった。



 ★★★


 次の日、早速模擬戦が行われることになった。

 相手は何れも、転職した「オーガファイター」で、オーガラも太鼓判を押すほどの実力者だ。アルベールは修行の結果、力と魔力は以前の水準まで戻っていたが、それでも「オーガファイター」を相手にするのは厳しい。


 私はアルベールにアドバイスをする。


「オーガラほどではないにしても、彼らのパワーとタフネスは尋常ではありません。その辺を注意して上手く立ち回らないといけませんよ」

「俺もそう思う。だったら、こういうのはどうだろうか・・・・」


 なるほど・・・よく考えられた作戦だ。


 模擬戦が始まると同時にアルベールは挑発を始めた。


「俺は伝説の「魔勇者」だ。オーガごときが敵う相手ではない。面倒だから、三人まとめて掛かってこい!!」


 オーガたちは、キレて三人揃ってアルベールに向かって行った。すると、アルベールが「落とし穴」のスキルを発動させて、三人を落とし穴に落とした。「魔勇者」は他のジョブの初期スキルが努力次第で使えるからね。アルベールは少しでも多くのことを吸収しようと戦闘訓練だけでなく、ゴブリントラッパーたちにも教えを請うていたのを思い出した。


 オーガたちが騒ぐ。


「卑怯だぞ!!」

「早くここから出せ!!」

「勝負しろ!!」


 そんなことはお構いなく、落ちたオーガに対して、「フレイムピラー」の魔法を発動させた。「フレイムピラー」は火柱を出す中級魔法だ。直接オーガに攻撃するのではなく、落とし穴の周囲に火柱を出現させた。オーガたちが騒ぐ。


「こんな魔法なんて効かないぞ!!」

「そうだ!!舐めているのか?」


 アルベールの狙いは別にあった。

 しばらくして、オーガたちがまた騒ぐ。


「あ、暑い・・・暑すぎる」

「もう我慢できない・・・降参する」


 一瞬の攻撃魔法には強くても、こういったことは弱いようだった。

 相手を無傷で無力化するいい作戦だった。最初から強い力を持っていたら、こんな作戦は思いつかなかっただろう。これも神様が与えた試練なのだろうと思ってしまう。


 三人とも負けを認めたが、観戦していた観客たちが、納得がいかずに騒ぎ出した。


「戦ってないじゃないか!!」

「そうだ!!こんなの代表に相応しくない!!」

「俺と勝負しろ!!」


 これに対して、オーガルが喝を入れる。


「お前たち、いいかげんにしろ!!そうやって、ゴブリンたちに負けたんじゃないのか!?こちらのアルベール殿下は、それを私たちに教えてくれているんだ!!力でねじ伏せるだけでは、オーガ族はいずれ滅びる。皆、そのことを肝に銘じろ!!」


 観客たちは大人しくなった。


 そして、オーガルがアルベールに言った。


「アルベール殿下。貴方を鬼族の代表と認めます。鬼族の代表として、魔王選を勝ちぬくことを心から祈っております」


「うむ、任せろ!!」


 観客から歓声が上がる。

 こうして、アルベールはオーガにも認められたのだった。

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