20 オーガの里
オーガの里に到着した。
ここに来たのは、鬼族の代表として、アルベールが魔王選に出場することを新族長のオーガルに伝えるためだ。
オーガの里は、思ったよりも賑わっていた。
建設中の建物も多く、オーガたちがその辺で喧嘩というか、力比べをしている以外は、ホープタウンと大して変わりはなかった。それには理由がある。至る所にゴブリンがいる。
その中で、顔見知りのゴブリンが声を掛けて来た。そのゴブリンは、「ゴブリン商人」のゴブマさんだった。
「大聖女様、ゴブキチ隊長、お久しぶりです。最近こちらに支店を出したので、長期滞在をしていたのですよ」
「ゴブマさんも元気そうで、何よりです」
「ありがとうございます。新しくオーガの族長になったオーガル様の計らいで、儲けさせてもらってます。オーガル様は、ゴブリンに対する差別や不当な扱いを禁止してくれました」
話を聞く限り、オーガルはいい族長のようだった。オーガルは転職で「オーガロード」になっている。このジョブは、戦闘力も高くなるが、それよりも統治能力や指揮能力が上がる。それが生かせているのだろう。
こちらの事情をゴブマさんに話すと、族長の館まで案内してくれた。入口で、ゴブマさんとは別れた。
「ここでも、ゴブリンは大活躍しているんですよ」
別れ際にゴブマさんが言った言葉の意味は、すぐに分かった。
族長の館に入るとゴブリンたちが、忙しそうに仕事をしていた。顔見知りのゴブリンも、多くいる。その中にオーガルがいた。
「よし!!みんなのお蔭で今月からは黒字だ。後は、あの馬鹿どもが問題を起こさなければ、徐々に返済できるぞ」
オーガルは、ゴブリンたちに忙しそうに指示を出していた。
しばらくして、顔見知りのゴブリンが、オーガルを呼んできてくれた。
「おお、大聖女様。今日はどういったご用件で?」
私は事情を説明する。
「なるほど、こちらのアルベール王子殿下が鬼族の代表として、魔王選に出場するということですね?」
「そのとおりです」
「兄上が認めたのだから、私に文句はありません。しかし、ウチの馬鹿どもは、納得しないかもしれないので・・・」
オーガルは、バツが悪そうに言った。
詳しく聞くと、オーガはどこまで行ってもオーガだった。慣例として、オーガの代表は基本的に誰の挑戦も受けなければならないらしい。
「まあオーガなので、仕方ないと思ってください。こちらも何とか事前に選考を行って、3人まで絞っています。明日にでも模擬戦をお願いしたいのです。長旅でお疲れだと思います。今日のところは、この館に泊まって行ってください」
オーガルは以前に会った時に比べ、かなり物腰が柔らかくなっている。あの時は新族長になったばかりで、他の者に舐められないようにと思っていらしく、こちらのほうが素らしい。
それにオーガの里は今、ゴブリンがいないと成り立たない状態のようで、私たちを怒らせて、ゴブリンたちがいなくなると、里の運営が立ちいかなくなると分かっているようだ。
「本当にゴブリンたちには助かっています。私たちオーガと違って、勤勉ですからね」
その日は、料理やお酒をこれでもかというくらい出してくれた。
とにかく量を出すのが、オーガ流のおもてなしだそうだ。久しぶりの豪華な食事に、不覚にも少し食べ過ぎてしまった。
★★★
次の日、早速模擬戦が行われることになった。
相手は何れも、転職した「オーガファイター」で、オーガラも太鼓判を押すほどの実力者だ。アルベールは修行の結果、力と魔力は以前の水準まで戻っていたが、それでも「オーガファイター」を相手にするのは厳しい。
私はアルベールにアドバイスをする。
「オーガラほどではないにしても、彼らのパワーとタフネスは尋常ではありません。その辺を注意して上手く立ち回らないといけませんよ」
「俺もそう思う。だったら、こういうのはどうだろうか・・・・」
なるほど・・・よく考えられた作戦だ。
模擬戦が始まると同時にアルベールは挑発を始めた。
「俺は伝説の「魔勇者」だ。オーガごときが敵う相手ではない。面倒だから、三人まとめて掛かってこい!!」
オーガたちは、キレて三人揃ってアルベールに向かって行った。すると、アルベールが「落とし穴」のスキルを発動させて、三人を落とし穴に落とした。「魔勇者」は他のジョブの初期スキルが努力次第で使えるからね。アルベールは少しでも多くのことを吸収しようと戦闘訓練だけでなく、ゴブリントラッパーたちにも教えを請うていたのを思い出した。
オーガたちが騒ぐ。
「卑怯だぞ!!」
「早くここから出せ!!」
「勝負しろ!!」
そんなことはお構いなく、落ちたオーガに対して、「フレイムピラー」の魔法を発動させた。「フレイムピラー」は火柱を出す中級魔法だ。直接オーガに攻撃するのではなく、落とし穴の周囲に火柱を出現させた。オーガたちが騒ぐ。
「こんな魔法なんて効かないぞ!!」
「そうだ!!舐めているのか?」
アルベールの狙いは別にあった。
しばらくして、オーガたちがまた騒ぐ。
「あ、暑い・・・暑すぎる」
「もう我慢できない・・・降参する」
一瞬の攻撃魔法には強くても、こういったことは弱いようだった。
相手を無傷で無力化するいい作戦だった。最初から強い力を持っていたら、こんな作戦は思いつかなかっただろう。これも神様が与えた試練なのだろうと思ってしまう。
三人とも負けを認めたが、観戦していた観客たちが、納得がいかずに騒ぎ出した。
「戦ってないじゃないか!!」
「そうだ!!こんなの代表に相応しくない!!」
「俺と勝負しろ!!」
これに対して、オーガルが喝を入れる。
「お前たち、いいかげんにしろ!!そうやって、ゴブリンたちに負けたんじゃないのか!?こちらのアルベール殿下は、それを私たちに教えてくれているんだ!!力でねじ伏せるだけでは、オーガ族はいずれ滅びる。皆、そのことを肝に銘じろ!!」
観客たちは大人しくなった。
そして、オーガルがアルベールに言った。
「アルベール殿下。貴方を鬼族の代表と認めます。鬼族の代表として、魔王選を勝ちぬくことを心から祈っております」
「うむ、任せろ!!」
観客から歓声が上がる。
こうして、アルベールはオーガにも認められたのだった。
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