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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第二章 魔王選

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13 オーガ来襲

 ゴブリンの町は、活気に溢れている。ここまで大きくなったので、町に名前を付けようということになり、町の名前も決まった。


 ホープタウン


 希望の町という意味だ。

 その名のとおり、皆が希望に溢れて、生活している。食料事情も改善し、更に多くの行商人が行き交うようになり、財政状況もよくなった。そうなると転職料を納めてくれる者も増え、転職神殿は儲かっている。最初に転職させた者たちは、すべて完済しているしね。


 神殿スタッフと今後の方針について話し合う。


「かなり運営費に余裕が出たから、設備投資を考えています。私の考えとしては、転職前の相談業務や初期研修を充実させたいと思っています。皆さんはどう思いますか?」


 スタッフの一人が言う。


「こんなに儲かっているのに、自分の為に使わず、転職者に使うなんて、大聖女様は、本当に素晴らしい方です。もちろん、異論はありませんよ」


 そんな立派な人間ではないし、未だに大聖女と呼ばれるのは慣れない。生活には困ってないし、それよりも、みんなが喜ぶ顔がみたいだけだ。


 ゴブミが意見を言う。


「最近、生産職の転職者の間で、色々なスキルを身に付けるため、転職を繰り返す人が増えてきました。その方たちへのサポートが少しできてないように思います。そもそも、転職を繰り返すことを推奨すべきかという問題もありますが・・・」


 確かにそうだ。

 これは賛否両論ある。様々なスキルを身に付けることで、成功すると主張する神官もいれば、器用貧乏になってしまうという神官もいる。私だって正解は分からない。


「それは難しい問題ですね。どちらがいいかは人それぞれだと思います。ですので、転職前にしっかりと説明をして、将来のヴィジョンがしっかりしている人以外は、やんわりとお断りするのはどうでしょうか?」


 私はどちらかというと、一つのジョブを極めてもらいたい。折角、神様からいただいた大切なジョブなんだから・・・

 実家の転職神殿にいた頃も、経験したジョブの数を自慢する人もいたしね。特に貴族に多い。


 そんな会議をしていたところ、急に外が騒がしくなった。慌てて外に出てみる。


 ゴブリンの3倍以上大きな、筋骨隆々で青みがかった肌をした集団に村長が取り囲まれていた。多分、オーガという種族だろう。集団は5人。何やら揉めているようだ。


「先程から言っているとおり、取り決められた金額と食料は納めておる」

「うるせえ!!ゴブリンが生意気な。こんなに発展しているなんて、聞いてないぞ。もっと出せるはずだ」

「出せるか出せないかで言えば、出せる。じゃが、これ以上納める必要はない」

「さっきから、ごちゃごちゃとうるせえんだ!!少し痛い目に遭わせてやる」


 村長と話していたオーガがいきなり、村長に殴りかかった。

 しかし、村長を難なく躱し、オーガを投げ飛ばした。怒ったオーガは、背中に背負っていた巨大な棍棒を抜いて、村長に向かって行く。


「ぶっ殺してやる!!」


 流石にこれはヤバいと思っていたところで、オーガの腕に3本の矢が刺さった。騒ぎを聞いて駆け付けたゴブコが放った矢だった。


「グギャー!!」


 オーガは棍棒を取り落とし、痛みで地面に転げまわっている。倒れたオーガの仲間たちは一斉に棍棒を抜いた。ゴブコに向かって行こうとする。しかし、ゴブキチたちゴブリンライダーが駆け付け、オーガたちを滅多打ちにしていた。

 村長が言う。


「今後はオーガ族との取引きは停止する。これが最後の上納品じゃ」


 村長は倒れているオーガたちに金貨5枚とポーションの小瓶を投げ付けた。


「これ以上やると、命の保証はできん。帰って族長に伝えろ。もう儂らと関わるなと」


 オーガたちは、慌てて去って行った。



 ★★★


 その日の夜、町の自警団や有力者を集めて会議が開かれた。

 村長が言う。


「いずれ、このような事が起こると思っておったがな・・・」


 魔族について、ほとんど知識のない私のために村長は、本題に入る前にまず、大まかな魔族の情勢などを説明してくれた。

 私たち人間族が魔族領と呼んでいるこの地は、実は魔王国という一つの国だった。まあ、人間の国のように厳格なものではなく、種族ごとの集合体のような感じらしい。大きな勢力は4つで、魔人族を中心とした勢力、獣人を中心にした勢力、エルフやドワーフなどの亜人勢力、そしてオーガとゴブリンを中心にした鬼族と呼ばれる勢力だ。魔王国の王である魔王は現在、魔人族がしているという。


 今の状況だと、同じ鬼族に属するゴブリンとオーガが揉めたことになる。


「大聖女殿は、同じ鬼族なのになぜ、いがみ合っているか、知りたいようじゃのう?」

「そうですね。そもそもなぜ、同じグループなのですか?」

「それは先祖が同じとされているからじゃ」


 そういえば、ゴブリンは「小鬼」とも呼ばれる。オーガは間違いなく「鬼」だし、先祖が同じと言われればそうかもしれない。


「悲しいことに魔王国では、種族ごとに上位種と劣等種という明確な区分がある。儂らゴブリンは劣等種、オーガは上位種じゃ。劣等種は上位種に搾取されておる。これは儂ら鬼族だけに留まらず、獣人族なんかは、コボルトなどが、獅子族や虎人族に搾取されておる」


 魔族にジョブによる差別はない。しかし、種族による差別はあるようだ。


「今日来た連中も、ホープタウンの噂を聞いて来たのじゃろう。劣等種であるゴブリンから略奪してやろうと思ったのじゃろうな。しかし、儂らはジョブを得た。もう劣等種と蔑まれることはないと思っておる。なので、鬼族としてではなく、新たにゴブリン族として独立を考えておる」


 ゴブキチとゴブコが同調する。


「今日来た奴らなんて、大したことないし、もうオーガの言いなりにはならないぞ!!」

「そうね、ここまで暮らしが良くなったのは、みんなが頑張ったからよ。それを奪われるなんて、我慢できないわ」


「儂もそう思う。ただ、オーガたちも黙ってはいないと思う。今後、またやって来るじゃろうから、町の戦力を強化せねばな。そういった事情で、今日は皆に集まってもらったというわけじゃ」


 どうやら、まだまだ平穏無事に転職神殿を運営していくことはできないようだった。

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