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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第一章 追放、そして・・・

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12 幕間 ランカスター転職神殿の今

 ~マロン視点~


「何よ!!どいつもこいつも、エクレア、エクレアって・・・本当に腹が立つ!!」


 すべては腹違いの姉、エクレアの所為だ。

 エクレアがいなければ、お父様もお祖父様も私をもっと見てくれたはずだ。


 エクレアとは子供のときは、仲が良かった。しかし、エクレアが10歳の時の鑑定の儀で「上級転職神官」のジョブを持っていることが分かってからは、関係は冷え切ってしまった。お父様やお祖父様は露骨に態度を変えることはなかったが、神殿のスタッフたちは、明かに私とエクレアの待遇に差をつけた。私のジョブはただの「転職神官」だったからね。

 お父様とお祖父様も私のジョブが分かった時は、お祝いをしてくれたが、エクレアほどではなかった気がする。


 それにエクレアは優秀過ぎた。規格外だ。


「見習い体験」?そのチート過ぎるスキルは何なの?


 本人は初期スキルしか使えない、大したことのないスキルだと言っているけど、そんなことはない。ほぼすべてのジョブの初期スキルが使えることがどれほど凄いことか、分かっていない。このスキルを持っていることが分かった時点で、大規模な商会や有力貴族がこぞってエクレアに縁談を持ち掛けてきた。それにあの大陸最強の軍事国家アバレウス帝国なんかは、軍事顧問と皇太子妃の座も用意していた。

 エクレア大好きのお父様とお祖父様がすべて断ったけどね。


 しばらくして、エクレアが「転職」のスキルが使えないことが判明した。転職させられない転職神官なんて、欠陥神官もいいところだ。


 これで、私とエクレアの立場は逆転する。

 そう思った。


 しかし、そうはならなかった。というのも、お祖父様がエクレアを転職者の初期研修の責任者にしてしまったからだ。転職スキルの使えない転職神官のエクレアの評価は、しっかりと転職神官の仕事をしている私よりも高かった。

 ショックだったのは、私のスキルで転職させてあげた転職者が、私ではなく、エクレアに感謝をしていることだ。成功した転職者がよく転職神殿を訪ねて来るが、ほとんどが初期研修を担当したエクレア目当てだ。


 私のことなんか誰も見ていない。もっと私を見てほしい。私だって頑張っているのに・・・


 エクレアは、私の初恋の相手ユリウスも奪った。

 ユリウスは神官騎士団のエースで、次期団長候補だった。金髪、青目のイケメンだ。子供の頃からずっと好きだった。なのに、次期神殿長がエクレアだということもあって、婚約が決まったのだ。お祖父様が言った。


「神殿長の夫が神官騎士団長となれば、鬼に金棒じゃ。もう本部に頭を下げんで済むじゃろう。今から、生まれて来る子が楽しみじゃ。長生きせんとな・・・」


 そんなお祖父様も昨年旅立った。遺書を残して・・・


「もっとエクレアとマロンと一緒に過ごしたかったが、体が限界じゃ。儂が死んだら、神殿長はエクレアに任せる。マロンと共にしっかりと神殿を盛り立ててくれ」


 もう限界だった。

 私は結局、エクレアのおまけでしかなかったのだ。このままエクレアと一緒に居ては、エクレアの妹としてしか、見てもらえない。


 私は遺書を握り潰し、公表しないことにした。そしてある計画を立てた。

 エクレアの転職神官資格を剥奪して、この神殿から追い出すことに決めた。噂を流し、スタッフを買収した。反対する転職神官もいたが、脅して従わせた。


「エクレア・ランカスター、貴方の転職神官資格を剥奪し、ランカスター転職神殿から追放致します」


 私の神殿長就任式で、エクレアを断罪し、追放してやったのだ。今までの恨みを晴らせた瞬間だった。それにユリウスも奪ってやった。ユリウスは、脳筋で単純だから騙すのは簡単だったしね。


 これで、私の新たな人生が始まる。もう天才エクレアの妹マロンではない。

 エクレアがいなくなれば、エクレアに集められていた愛情も、称賛も、名誉もすべて私のものだ。


 ★★★


 ランカスター転職神殿の神殿長になって1年、ストレスの溜まることしかない。

 おべっかを言うスタッフはいるが、心から私を尊敬し、称賛してくれる者は誰もいない。それにスタッフは陰で、「無能な神殿長め」と私を罵り、「エクレア様がいてくれれば・・・」という者も多い。


 こんなの私が望んだことじゃない!!


 神殿の財政状況は日増しに悪化している。転職者が激減したからだ。

 原因は分からない。


 そんなことを思っていたところに、スタッフが神殿長室にやって来た。


「あ、あのう・・・」

「なに?早く言ってよ。どうせ悪い報告でしょ?」

「は、はい・・・各ギルドのギルマスたちが揃ってやって来て、『神殿長に会わせろ』と・・・」


 経費削減で、研修の委託料を大幅に減らしたことで文句を言いに来たのだろう。

 そもそも、ここは転職をさせる施設のはずだ。研修なんて必要ない。これを機に彼らを切ってもいい。


「分かったわ。会ってあげるわ」


 神殿長室に彼らを通したら、いきなり鍛冶ギルドのギルマスが怒鳴り出した。ムキムキの暑苦しいおっさんだ。


「こんな委託料で、研修なんてやれるかよ!!ふざけてんのかテメーは!?」


 薬師ギルドのギルマスの女性が宥める。


「ドグラスさん!!少し落ち着いてください。しかし、我々もドグラスさんと主張は同じです。今回提示された金額では、研修を続けることはできません。以前にいただいていた委託料でも、儲けはありませんでした。前神殿長の『転職者の人生のサポートをしたい』という熱い気持ちに共感して、協力していただけなのですよ」


 同調するように各ギルドのギルマスが騒ぎ出す。


「分かりました、もういいです。今後の研修委託は廃止します」

「俺たちがいなくちゃ、研修できないだろ?それでもいいのか?」

「構いません。それに研修制度自体を廃止しようと思います。ここは転職をさせる施設で、研修施設ではありません」


 ギルマスたちが黙り込む。

 みんなでやって来て、委託料を吊り上げようとしたんだろうけど、甘かったわね。


 すると、ずっと黙っていた冒険者ギルドのギルマスが話始めた。


「そっちがその気なら、冒険者ギルドも考えがある。そちらで、戦闘職の初期研修を修了した者は、無条件で、最底辺のFランクではなく、Dランクから冒険者登録をさせていたが、それを廃止する」

「ご自由にどうぞ」

「分かった。本当にいいんだな?後悔することになるぞ」


 なに!?脅してるの?


「お話は以上です。どうぞ、お引き取りください」


 悔しそうに去って行くギルマスたち。鍛冶ギルドのギルマスが怒鳴る。


「エクレアの嬢ちゃんがいてくれれば、こんなことにならなかったのに!!もうこの神殿は終わりだ!!」


 この期に及んで、エクレア、エクレアってうるさいわね!!


 そういえば、エクレアは行方不明になっているようだ。将来を悲観して、自ら命を絶ったというのが大方の見方だ。


 エクレアもいなくなったし、金食い虫で、うるさいギルマスたちとは手を切ったし、ここから新しくランカスター転職神殿は生まれ変わるんだ。


気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


次回から第二章となります。エクレアの活躍が続きます。

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― 新着の感想 ―
赤い稲妻?とかは2週間の研修だったような。 他も同じなら、2週間くらいの研修で無条件2ランクUPはやりすぎなんじゃないかと思ってしまう。 全員最低ランクのFから始めるのが筋じゃない?
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