1 プロローグ
どうしてこうなったのだろうか?
私は今、腹違いの妹マロンと婚約者のユリウスから断罪されている。
思考が追い付かない。今日は、1ヶ月前に亡くなった前神殿長のお祖父様に代わって、マロンが新しく神殿長に就任したことを発表する場だったはずだ。それがこんな結果になるなんて・・・
「エクレア・ランカスター、貴方の転職神官資格を剥奪し、ランカスター転職神殿から追放致します。お姉様、妹として本当に恥ずかしいですわ。ねえ、ユリウス?」
「俺も騙されていたよ。何が上級転職神官だ。誰一人転職させられないなんて・・・この詐欺女め!!当然、婚約は破棄だ」
二人に便乗して、多くの神殿スタッフが私を罵倒してくる。
「嘘吐きめ!!早く出て行け!!」
「何が「上級転職神官」だ。転職させられない無能め」
「顔も見たくないわ」
私は、誰一人転職させられなかった無能な転職神官だ。
しかし、嘘吐きではない。私のジョブは歴とした「上級転職神官」だ。「ジョブ鑑定」のスキルを持っている転職神官は、私、妹のマロン以外に三人いる。マロンと三人は、私が「上級転職神官」ではないという鑑定書を突き付けて来た。多分、マロンと三人はグルなのだろう。
ここで私が、「上級転職神官」だと反論したところで、誰も信じてくれない。
だって私は、誰一人転職させることができない、無能な転職神官なのだから・・・
「投獄されないだけ、有難いと思いなさい。但し、今日中にここから出て行きなさい!!」
マロンの声が本殿に響き渡った。
15歳で成人を迎えると同時に、正式に転職神官となった私だが、思い出の詰まったランカスター転職神殿を追放されたのだった。
★★★
私室に帰り、旅支度を始めた。
荷造りをしながら、これまでの人生を振り返る。
私、エクレア・ランカスターは、代々続くランカスター転職神殿の跡取り息子で、転職神官のリシャールの娘として生を受けた。母は私を産んだ後、すぐに亡くなったそうだ。元々体調が悪く、無理して私を産んでくれたそうだ。母がいない以外は、幸せな人生だったと思う。それに神殿長をしているお祖父様や優しいお父様のお蔭もあり、すくすくと成長した。
5歳の時、マロンがやって来た。私の腹違いの妹ということだった。小さくて、事情がよく分からなかったというのもあるが、単純に妹ができたことが、嬉しかったのを覚えている。私は金髪、マロンは茶髪、髪の色が違う以外は、私たちはよく似ていた。そして、本当に仲が良かった。
10歳の時、鑑定の儀で「上級転職神官」というジョブを得た。
この世界では、一人に一つ神様からジョブを授けられる。ほとんどが「村人」、「町人」、「貴族」などのスキルを習得しないジョブだ。そのジョブが一生変更できないかというと、そうではない。一定の条件を満たすと、転職神殿で転職をすることができる。転職するのは「剣士」「魔道士」「薬師」などの専門職が多い。専門のスキルを習得できるからだ。
その転職を行えるスキルを持つのが私たち「転職神官」なのだ。
これまでの研究で、「転職神官」のジョブは遺伝が大きいようで、後天的になる例は少ないらしい。私の家系は代々「転職神官」だから、私も予想通り「転職神官」だった。父も祖父も大喜びしてくれたのを覚えている。しかし、転職神官は転職神官でも私のジョブは「上級転職神官」だったのだ。かなり珍しいジョブらしく、神殿長をしていた祖父が調べてもよく分からなかった。父はというと、呑気に大喜びしていたけどね。
「凄いぞ、エクレア!!よく分からないけど、凄いジョブに違いない。とにかくお祝いだ」
「上級転職神官」になってすぐ、「ジョブ鑑定」という対象者の現在のジョブと転職できるジョブが分かるスキル(普通の「転職神官」も持っている)と「見習い体験」という様々なジョブを一時的に体験できるスキルが発現した。
しかし、肝心の「転職」のスキルは機能せず、誰一人転職させることはできなかった。
ジョブを得た当初は、「そのうち「転職」が使えるようになる」という意見が大半を占めていたが、成人を迎える15歳になっても、一向に転職させられなかった。
神殿長のお祖父様に相談した。
その年、父が魔族との戦争に駆り出され、帰還しなかったので、頼れるのはお祖父様しかいなかった。
「エクレアよ。「転職」のスキルが使えなくても、転職神官の仕事はできる。儂は常々こう思っておる。ジョブだけで人生は決まらんとな。だから、我が転職神殿は、転職者のサポート業務に力を入れておる。本部からは、『意味のないことはするな』と散々お叱りを受けておるがのう」
一度、言葉を切った祖父は言った。
「そこでじゃ。エクレアに転職者のサポート業務の責任者になってもらいたい。エクレアの「見習い体験」が十分に生かせるじゃろうしな」
お祖父様は、私の居場所を作ってくれたのだ。本当に有難かった。
「ありがとうございます。一生懸命頑張ります」
「転職」のスキルは使えないけど、私は神殿を訪れた転職者に精一杯のサポートをすることを心に誓った。
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