聖女じゃないのに正常じゃない日常10-聖女じゃない私と燃え続ける灯台の謎
私はレイラ。
聖女じゃないけど、なんか最近「聖女扱い」されることが増えている。
魔法が少しだけ使えるだけの田舎の平民なのに、なんでだろうね?
「レイラ、助けてくれ!」
またもや村の青年ボーナムが私を探しに来た。彼の慌てた表情を見ると、また面倒な話に巻き込まれる気しかしない。
「今度は何?」
「西の岬にある灯台がずっと燃えてるんだ!近づいた人は、みんな倒れてしまうらしい!」
「灯台が燃えてる?それって火事じゃないの?」
「違うんだ。火は消えないし、何か不気味な力を感じるって言うんだよ」
灯台といえば、船の航路を照らす大事な施設だ。もしも本当に灯台が燃え続けているなら、近隣の村にも影響が出る。放っておけるわけがない。
「分かりました。行くだけ行ってみます。でも、期待しないでくださいね!」
西の岬へ向かう途中、風が次第に強まり、潮の匂いが鼻をつくようになった。海が近づくにつれ、遠くに黒い煙と赤い炎が見えてくる。
灯台は確かに燃えていた。真っ赤な炎がその頂上を包み、煙が空へと渦を巻いている。しかし、驚くべきことに灯台の石造りの外壁は焦げるどころか、傷一つついていない。
「なんだこれ……?」
近くにいた漁師に話を聞くと、この火は数日前から突然現れ、どんなに水をかけても消えないのだという。そして、火に近づいた者は息が苦しくなり、倒れてしまうのだとか。
「呪いじゃないかって話だよ。レイラ、頼むよ……」
「だから私は聖女じゃないんですってば!」
それでも私は灯台の中へ入る決意をした。
灯台の扉を開けると、中は驚くほど静かだった。外の炎が嘘のように、内部には火の気配がない。ただ、冷たい風が吹き抜ける中、どこからか低い呻き声のような音が聞こえてきた。
「誰かいるの……?」
音を頼りに上階へ向かうと、階段の途中で奇妙な模様が彫られた石版を見つけた。その中央には青白い光が揺れている。
「これが原因……?」
石版に手を伸ばそうとすると、突然、強い風が吹き抜け、私の体が後ろへ押し戻された。さらに、空間の中に影のようなものが現れる。
「灯台に近づくな……」
影は低い声で警告してくる。けれど、このまま放っておくわけにはいかない。
「何があったのか教えて!どうして灯台が燃えているの?」
影はしばらく黙り込んだ後、静かに語り始めた。
影はかつてこの灯台を守っていた魔法使いの霊だったという。彼は海の安全を願い、航路を照らす灯を魔法で強化していた。しかし、ある日、外部の者が灯台に侵入し、その魔法を奪おうとした。
「その結果、灯台の力は暴走し、炎が止まらなくなった」
「じゃあ、どうすれば火を消せるの?」
「灯台を支える魔法の核を沈める必要がある。そのためには灯台の最上階まで進み、核に触れなければならない」
影はそう言うと消え、階段の奥へと風が吹き抜けていった。
私は再び階段を上り始めた。途中、壁に奇妙な模様が浮かび上がり、それが渦を巻くように動き出す。突然、空間が歪み、目の前に海の嵐のような光景が広がった。
「これ……試練ってこと?」
風と水の力がぶつかり合う中、私は魔法で自分の周囲を守りながら進んだ。嵐を抜けると、再び階段が現れ、灯台の最上階へと続いていた。
最上階にたどり着くと、そこには巨大な赤い球体が浮かんでいた。それは炎そのものであり、灯台を燃え続けさせている元凶だった。
「これが……核?」
核に近づくと、再び影が現れた。
「この核を沈めるには、お前の力と意志が必要だ。灯台を守る覚悟があるなら、手を伸ばせ」
「覚悟って……私はただ、村を守りたいだけ!」
そう叫びながらも、私は核に向かって手を伸ばした。その瞬間、強烈な熱と光が私を包み込んだ。
光が収まると、赤い球体はゆっくりと消え、灯台の炎も静かに消滅していった。冷たい風が吹き抜け、辺りは静寂に包まれた。
「これで……終わったの?」
影が再び現れ、穏やかな声で言った。
「ありがとう。この灯台は再び航路を照らす光を取り戻した。これからも守り続けてくれ」
影は微笑みながら消え、灯台には再び静かな灯りが灯った。
村に戻ると、漁師たちは灯台の炎が消えたことに大喜びしていた。
「レイラ、本当にありがとう!やっぱり君は聖女様だ!」
「だから聖女じゃないんですってば!」
いつものように否定するけれど、村人たちは私の言葉なんて聞いちゃいない。漁師たちは嬉しそうに再び海へ漕ぎ出し、領主様も安堵した表情を浮かべていた。
「君がいなければどうなっていたことか。本当に感謝するよ、レイラ」
「まあ……村が無事ならよかったです。でも、あの灯台、もう誰も近づかないでくださいね。今後も普通に使えるみたいですけど、変なことをしないでください!」
私は特に漁師たちに念を押した。灯台の核は沈静化したものの、魔法の力を悪用することがあれば、また同じような事態になるかもしれない。
その後、灯台は以前のように穏やかに光を灯し続け、村には再び平和が戻った。漁師たちも安心して航海に出られるようになり、村人たちの生活は元通りになった。
しかし、私の心には灯台での出来事が小さな刺のように引っかかっていた。
「あの灯台の影……いや、あの魔法使いは、きっとただ村を守りたかっただけだったんだろうな」
彼の意志を継いで、この村を守る手伝いをしていくのが私の役目なのかもしれない。そう思うと、少しだけ胸が温かくなった。
ある日、漁師の一人が私に言った。
「レイラ、本当にありがとうな。灯台が燃えてた時は正直終わりだと思ってたよ。でも今はこうしてまた海に出られる」
「別に私がすごいわけじゃないですよ。ただ、ちょっとだけ魔法が使えるだけですから」
「いやいや、やっぱり君は聖女様だ!」
結局そこに落ち着くのか、と呆れながらも、私は少しだけ笑った。彼らの安心した笑顔を見ていると、冒険も悪くないかもしれないと思えてくる。
「さて、次はどんな面倒事が待ってるのかな?」
私は海の向こうに広がる青い空を見上げながら、次に訪れる試練に備えて、魔法の練習でも始めようと思った。
こうして燃え続けた灯台の謎は解け、村に平和が戻った。けれど、私は知っている。平和の次には、また新たな試練が待っていることを。
「聖女じゃない私だけど……まあ、誰かの役に立つのも悪くないか」
次に来る嵐を予感しながら、私は静かに日常へと戻った。