47 みんなで幸せになろう
リサベス・アーストリア様
僕はあなたの孫のシルヴィアスです。なぜ、エリザベスお祖母様はワイマーク伯爵邸に一度もいらっしゃらないのですか? |コンスタンティアお祖母様《ギャロウェイ伯爵夫人》はワイマーク伯爵邸の右隣の別荘にいつもいらっしゃるし、マイカルお祖父様もギャロウェイ伯爵領にたまに戻るだけで、大抵僕たちの側にいます。デズモンドお祖父様もよく遊びにいらっしゃいます。エリザベスお祖母様は寂しくないのですか? 皆で一緒に食事をしたりおしゃべりをしたら、《《もっと素敵な》》絵が描けますよ。僕はエリザベスお祖母様に会いたいです。
あなたの孫のシルヴィアスより
アリッサはシルヴィアスの手紙を見て、「少し失礼だと思うわ。もっと、控えめに『お暇があったら、会いに来てください』ぐらいにしたらどうかしら?」と言った。
しかし、前ワイマーク伯爵は腹を抱えて笑いながら、「これぐらいがちょうどいい」と言った。
「アリッサさん。私の妻は変わり者だからね。普通の手紙では興味を示さないと思う。彼女は常に敬われ腫れ物を触るような扱いを受けているから、これぐらいでいいのだよ。もっと、失礼なことを書いても良いぐらいだ。孫の特権だよ。どれ、私がひと言付け加えておこう」
そう言いながら、前ワイマーク伯爵は『僕の顔を見に来ないなんて、一生後悔すると思いますよ』と書き添えた。
アリッサは呆れて、その手紙をシルヴィアスに書き直させようとしたが、ラインはもっと過激なことを書いていた。
『芸術家なら来るべきです。なぜなら、僕はエリザベスお祖母様のどんな作品よりも、優れた最高傑作だからです』と加えていたのだ。
さすがに、アリッサはラインに怒り、この手紙を出すことに反対する。
「大丈夫さ。母上は父上と私がいたずらをしたと思うだろうし、興味津々で駆けつけてくるさ。母上はそういう人だからね」
それから3日ほど経った朝早い時間に、ワイマーク伯爵邸の呼び鈴を押すエリザベス・ワイマークの姿があった。
夜明けの空がようやく白み始めた頃、アリッサとラインは執事のエドウィンに起こされた。
「大奥様がお見えです」
その落ち着いた口調から察するに、エリザベスがこの時間に訪れるのは、決して珍しいことではないようだった。
「やれやれ。やはり、母上にとって時間は関係ないらしい。サロンでしばらく待ってもらおう。父上も呼びに行かせよう。久しぶりに家族が揃うよ」
ラインにとっても、この事態はまったく慣れっこの状況らしかった。アリッサは身支度を調えて、緊張しながらサロンに向かう。当然のことながら、シルヴィアスはまだベッドの中だ。
「いらっしゃいませ、お義母様。歓迎いたしますわ。ただ、この時間はあまりにも早すぎて、息子はまだ寝ています」
「そう。だったら、ここで起きてくるまで待ちましょう。会いに来ないと一生後悔するような素晴らしい孫を見なくてはね」
淡々と言うその表情は怒っているわけではないが、嬉しそうにも見えない。ただ無表情なまま、ソファに座ってお茶を飲んでいる。手にはスケッチブックとペンを持ち、テーブルの上に置かれた茶器を書いたり、飾られた花を書いて暇つぶしをしているようだった。
描かれた絵はどれも繊細で、すばらしい出来映えだった。端にアーティストネームを走り書きし、無造作にテーブルの上に放り投げている。アリッサはあの一枚がとてつもない値段で取引されることを知っていた。無造作に置かれたスケッチ一枚で、平民なら30年は暮らしていけるほどの価値なのだ。
「ライン。このスケッチはシルヴィアスのためにとっておきなさい。孫への手土産を買い忘れてしまったのよ。なにかのたしにはなるでしょう」
「あなたはエリザベスお祖母様でしょう? そんなところに無造作に作品を置いてはダメです。エリザベスお祖母様の作品はとても価値があり高額で取引されると、お母様がおっしゃっていましたもの。汚れてしまったら大変でしょう? それに、そこに置いたらメイドたちだって、怖くてお茶を注ぎ足せないです」
シルヴィアスが目を覚まし、突然サロンへと姿を現した。テーブルの上には飲みかけのお茶があり、確かにシルヴィアスの言うように、控えていたメイドはお茶のお代わりを持ってきていいものか悩んでいたようだった。
「シルヴィアス。なぜ、起きてきたの? いつもより二時間も早いでしょう?」
「はい。でも、花たちが教えてくれました。サロンに行けば、ずっと会いたいと思っていた人に会えるよって」
「花たちが教えてくれた? いったい、どういう意味なのかしら? ・・・・・・シルヴィアス。こちらに来て、よく顔を見せてちょうだい。その若草色の髪と瞳はとても綺麗だわ」
「はい、エリザベスお祖母様。僕に会いに来てくださって、とても嬉しいです。エリザベスお祖母様も僕に会えて嬉しいでしょう?」
満面の笑みできっぱりと言い切られたエリザベスは、声をだして笑いながらシルヴィアスを抱き寄せた。
「そうね、とても嬉しいわ。まさにあなたは芸術だわ。確かに会いに来なかったら一生、後悔するでしょうね。私のどんな作品より芸術的価値がありそうよ」
「だったら、お願いがあります。一年に二回はワイマーク伯爵邸に来てください。僕の誕生日と感謝祭ですよ。絶対に、家族で過ごすべき日ですからね」
「あら、まぁ。私のお母様のようなことを言うのね? そんな言葉を聞くのは、とても懐かしいわ。お母様が亡くなってから、誰も私にそんなことを言う人はいなくなったわ」
「お父様もデズモンドお祖父様も、心の中ではそう思っていますよ。エリザベスお祖母様もそろそろ協調性を学ぶべきです。僕の家庭教師は『いくら頭が良くて才能があっても、人とうまく関われなければ大成しない』と僕に言いますよ」
エリザベスはクスクスと笑いながら、シルヴィアスの顔をスケッチしだした。
「シルヴィアス。お願いだから黙って。さっきから、あなたは失礼すぎますよ。お義母様、大変申し訳ありません」
「いいえ、まったく失礼ではありませんよ。シルヴィアスの言うとおりだと思うし、私もそろそろ常識を身につけたほうが良さそうだわ。シルヴィアス、私にいろいろ教えてくれる? 孫の言うことなら、なんでも聞けそうよ。私は、物怖じせずに自分の意見をはっきりと言える子が大好きなのよ」
エリザベスはすっかりシルヴィアスが気に入ってしまい、暇さえあればワイマーク伯爵邸に顔を見せるようになった。また、ギャロウェイ伯爵夫人とも良好な関係を築き上げた。ギャロウェイ伯爵夫人は元々エリザベスの絵に心酔していたし、孫のシルヴィアスという共通の愛すべき存在のお陰で、ふたりは穏やかな友情を育んでいった。
こうして、シルヴィアスを中心に、家族が仲睦まじく暮らす日々が続いていったのだった。
やがてシルヴィアスは成長し、その豊かな才能と不思議な力が数多の者の目を引き、思わぬ試練や危険に見舞われる。クリスタルとの恋も芽生え、数え切れぬほどの冒険が待ち受けているのだが――その物語は、また別の機会に……
完
最後までお読みくださりありがとうございます!
途中、更新が長い間とまっておりまして、大変申し訳ございませんでした。
※宣伝です。おかしな思考の王弟のお話で、悪を極めようとして無自覚に「仕置き人」のようになるコメディがかったお話です。
「悪を極めたいのに救世主扱いされるのだが?」
https://ncode.syosetu.com/n1331lq/




