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麗しい婚約者様。私を捨ててくださってありがとう!  作者: 青空一夏


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43 性格の悪いふたり / 孫にメロメロお祖父様 

 ♦♢sideニッキー

 


 ニッキーは、ギャロウェイ伯爵と共にワイマーク伯爵領に向かう気にはなれなかった。アリッサのアイデアがきっかけで大成功した領地を見るなど、彼には苦痛でしかなかったからだ。


 ーーしかも、奇跡のように素晴らしい長男を生んだだと? むかつくよなぁ~~。なんで、アリッサばかりが幸せになるんだ?


  鬱々とした思いを抱えたまま、ニッキーは王都の大衆向け酒場に足を運んだ。雑多な客で賑わう店内で、彼はひときわ目を引く、派手な女性の姿に目を留めた。大胆な服を纏い笑顔を浮かべながら近づいてくる彼女は、かつての知り合い。なんと、セリーナだったのだ。


「セリーナ? まさか、こんなところで会うとはね・・・・・・いったい、ここでなにをしているんだい?」

 ニッキーが驚きの声を上げると、セリーナは苦笑しながら答えた。

 

「もちろん、ここで働いているのに決まっているじゃない? サミー卿と結婚したけど、途中で妊娠していないことがバレて、捨てられたのは知っているでしょう? その後、社交界では私が嘘つきだと噂が広まり、醜聞がどんどん広がって……今までの素行の悪さも災いして、とうとうお父様から勘当されてしまったのよ」

 

「やれやれ、君も大変だな。私もアリッサのせいで、いろいろと苦労しているよ。おとなしくサミー卿と結婚してくれれば良かったのに、私にとっては全く利益にならないライン卿と結婚しちまった。しかも、そのライン卿との間に赤ちゃんまで授かって・・・・・・それが奇跡のように美しくて賢い子だというんだよ。母上はその孫に夢中でワイマーク伯爵領に入り浸りさ。父上は今日、そんな母上を連れ戻しに出発したところだよ」

 

「アリッサか……ふん! あの子だけが幸せを手に入れたのね。聞いたわよ、ライン卿の領地にワイマーク伯爵家直営の画期的なお店を作ったんですってね。新聞や雑誌でアリッサを見かけない日はないわ。優秀な妹を持って、どんな気分?」

 

「優秀すぎて憎らしいぐらいさ。私が子供の頃、家庭教師に難しい公式を教わ

って四苦八苦していたんだが、そばで聞いていたアリッサが、まるで遊びのようにスラスラと模範解答を言ったんだよ。あの瞬間、能力の差をまざまざと見せつけられた。父上が言った言葉が忘れられないよ。『なぜお前は、アリッサのような頭脳を持って生まれなかったんだ?』ってね」

 

「アリッサは確かに優秀だものね。でも、あの子は金髪碧眼じゃないし、顔もそれほど美人じゃないわよ。女の子は少しぐらい抜けているほうが可愛いと思うわ」

 

「その通りだよ。賢こすぎたらいけない。アリッサみたいに、自分勝手で誰の意見にも従わない性格になっちまうからな」

 

 二人は軽口を交わしながら、互いの不満を吐き出していった。その間に、どこか気心が知れるような感覚が芽生え始める。

 

「嫌いな相手が同じだと、話も弾むものね」


 セリーナが微笑むと、ニッキーも少し気を緩め、セリーナの杯に酒を注ぎながら応じた。


「そうだな……いっそ、これからはもっと仲良くするか」


 セリーナは彼の言葉に応じるように、その艶やかな笑顔をさらに深めたのだった。




 

 ♦♢sideギャロウェイ伯爵

 

 

 こちらは、到着したばかりのギャロウェイ伯爵がワイマーク伯爵邸を訪れた場面である。ワイマーク伯爵はサロンへと案内され、憮然とした表情を浮かべながらソファに腰を下ろした。


 やがて、ギャロウェイ伯爵夫人がサロンに姿を現し、向かいの席に腰掛けるや否や、怒声を響かせ始めた。

「コンスタンティア! 迎えに来てやったぞ。お前はいつまで経ってもギャロウェイ伯爵邸に戻らず、妻としての義務を忘れているのか?」


「妻としての義務ですか? そんなものがまだあるのなら、そろそろ私も卒業する時期だと思いますわ。もう十分あなたには尽くしたと思いますもの。無理やり連れ帰ろうとなさるのなら、離縁しても構いませんわ。私はこれから、孫のために生きると心に誓いましたのよ」


 「なっ、ば、ばか者ぉーー! どうしたらそんな考えになるんだ、お前というやつは! 私は許さん、絶対に許さないぞ!……ん? 庭園にいるのはアリッサか? あの腕に抱いているのがシルヴィアスか。なにが“奇跡の孫”だ、馬鹿馬鹿しい!」


 憤然とした様子でギャロウェイ伯爵は庭園のアリッサのもとに向かった。色とりどりの花々が咲き誇る中、若草色の髪と瞳を持つ美しい赤子が、アリッサの腕に抱かれている。

 

「どれ、お前が私の初孫か。なるほど、確かに稀有な美しさだ。私はお前の祖父だぞ、わかるか?」


 すると、初めて会うにもかかわらず、シルヴィアスは小さな手をギャロウェイ伯爵に伸ばしてきた。伯爵もその小さな手を思わず握り返す。シルヴィアスは美しい若草色の瞳でじっとギャロウェイ伯爵を見つめ、やがて嬉しそうに声をあげて笑った。


「……なんと……この子は私が祖父だと理解しているのか?  間違いない。この子は私をわかっているんだ。よしよし、私がお祖父ちゃんだぞ。ふむ……見てみろ、アリッサ。もう私にすっかり懐いてしまったようだ」


 ギャロウェイ伯爵も、手を伸ばして抱っこをせがむ孫の可愛さには抗えなかった。さっそく抱き上げて、愛おしげに頭をなで、優しくあやす。シルヴィアスはぐずることなくニコニコと微笑み、その愛らしい表情に、ギャロウェイ伯爵もすっかり毒気を抜かれてしまったのだった。


 すぐ近くにはクリスタルもいた。庭に咲いている花で花冠を作るのを、侍女たちに手伝ってもらっている。ギャロウェイ伯爵はプレシャスそっくりのクリスタルに気づき、初めて胸が痛んだ。まるで、シルヴィアスの笑顔がギャロウェイ伯爵に人間らしい気持ちを取り戻させたように。


「考えてみれば、プレシャスにはかわいそうなことをしたなぁ。せめてもの罪滅ぼしだ。クリスタルには何不自由のない暮らしと幸せを与えてやらねばならんな。そうだ、クリスタルにはギャロウェイ伯爵家の財産の一部を贈与することにしよう。将来、嫁入り時の持参金が必要になった時に恥をかかぬようにな」

 

「お父様。私たちもリスタには充分なお金を残すつもりよ。プレシャス様と約束したのよ。自分の娘のように大切に育てるって」

 ギャロウェイ伯爵はアリッサの頭を子供の頃のように撫でた。これは幼い頃以来のことだった。

 

「本来ならば、クリスタルはギャロウェイ家でしっかりと育て、嫁入りの際の持参金も私が用意すべきものだ……それに、アリッサ、お前には持参金を持たせてやらなかったな……ちょっと待て、今からでも持参金を用意しようではないか……」

 

「お父様。ワイマーク伯爵家はとても裕福なのよ。お金には困っていないから大丈夫」

 

「そうですよ。ギャロウェイ伯爵、お金のことは心配しなくても大丈夫です。それよりも、シルヴィアスやクリスタルに愛情を注いでください。祖父母に可愛がられた思い出こそ、一生の宝です。お金は使えばなくなりますが、楽しい思い出は心にずっと残りますから」

 執務室から姿を現したラインが、柔らかな微笑を浮かべながらギャロウェイ伯爵に声をかけた。

 

 ギャロウェイ伯爵は深く頷き、孫たちに惜しみない愛情を注ぐことを心に決めた。


「よし、早速楽しい思い出を作ろうではないか。ライン卿、少し相談がある。ワイマーク伯爵邸の隣の敷地を私に譲ってくれないか?  あそこに別荘を建てたいのだ。もちろん、金は払うよ」


 ギャロウェイ伯爵夫人は、その提案に嬉しそうに笑い声をあげたのだった。




•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•



※シルヴィアスの愛称:シヴィ


※クリスタルの愛称:リスタ




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