40 落ちぶれたサミー
サミーは王都出入り禁止1年と多額の罰金という「軽い」処分に内心ほくそ笑んでいたが、真の幕引きはそれだけでは終わらなかった。
ゴシップ誌が彼の卑劣な行いを徹底的に暴き、過去のセリーナとの浮気騒動やワイマーク伯爵夫人への仕打ち、さらには逆恨みによる今回の事件まで余すところなく報じ立てたことで、社交界でのサミーの名はすっかり笑い者になったのだ。
サミーの事業に関わること自体が忌避される風潮が広まる中、彼を待ち受けていたのは不買運動という新たな逆風だった。
「サミー卿のダイヤモンドを買うなんて考えられないわ。あんな卑劣な男の鉱山で産出された宝石なんて、汚らわしいだけよ」
「本当にその通りですわ。サミー卿の話題が出るだけでもおぞましいのに、そんな男が関わっている宝石を身につけるなんて、まるでその男の邪悪な手に触れられているようで……」
貴婦人の間で交わされる会話は、サミーの運命を決定づけた。彼のダイヤモンドはかつてゴドルフィン王国で最も人気があり、高級な社交の場で装飾品として愛用されていた。しかし今や、貴族たちは彼のダイヤモンドを避けるようになり、購入することさえも恥ずかしいと考えるようになっていたのだ。
この風潮は貴族社会だけでなく、各地域の商人ギルドや宝石市場にまで波及し、サミーの鉱山で産出されるダイヤモンドに対する需要は急激に減少していった。商人たちも次々とサミーとの取引を打ち切り、彼の収益は減少の一途をたどる。
「そのうち、正常に戻るさ」
サミーはそう自分に言い聞かせていたが、彼の事業は日に日に衰退していった。需要がなくなれば、鉱山を維持するためのコストが圧倒的に高くつき、利益はあっという間に消えていく。
ついに、サミーは鉱山を売却せざるを得ない状況に追い込まれる。富の源であるダイヤモンド鉱山は、かつて彼の誇りであり、権力の象徴でもあった。しかし、今やそれは重荷でしかなく、無駄に金を吸い取る厄介ものになっていた。
「もしあの時、アリッサを脅すなどという愚かなことをシメオンに持ちかけなければ・・・・・・いや、違うな。元はと言えば、アリッサと初めから結婚していれば、こんなことにはならなかったんだ。あんな女と会ったばかりに・・・・・・セリーナが悪い! あいつとさえ出会わなければ、こんなことにはならなかったんだ」
サミーは頭を抱え、広い執務室で孤独にうなだれた。次々と報告される損失や取引停止の通知が、彼のデスクに山積みとなっている。その一枚一枚が、彼に自分の失策を突きつけていた。彼の取り巻きたちはすでに離れ、彼に忠誠を誓っていた者たちもまた去っていった。
「苦境に立たされたサミー卿には、心から同情しています。私がこの厳しい状況からあなたを救ってさしあげましょう。採掘権を買うという意味ですよ。これは決して私自身の利益のためではありません。サミー卿がこれ以上のトラブルに巻き込まれないように、手を差し伸べたいだけなのです。私だけが評議会で、サミー卿に同情的な意見を述べたこと、覚えておられますよね?」
アマディーアス・トラスク公爵がウィルコックス伯爵家を訪れ、優しげな表情でサミーに話しかけた。やがて、サミーは事業の立て直しを諦め、ダイヤモンド鉱山の採掘権をトラスク公爵に売却することを決断した。
ーーもしかしたら、トラスク公爵が私を庇ってくれたのは、初めからダイヤモンド鉱山を狙っていたのかもしれない。
サミーはそんなことをつい考えてしまうが、いまさら後悔しても状況は変わらない。社交界からは完全に閉め出され、彼の名前が口にされることはあっても、蔑みと共に打ち切られた。
「サミー卿? あの男の話はやめておきましょう。いくら、外見が麗しくても中身が残念すぎます」
そうやって貴族たちの会話からも消えていったのだ。すっかり貧乏になり爵位すら維持できなくなったサミーは、かつて自分の所有していた鉱山を見下ろす丘に立ち、夕日が沈んでいくのを眺めていた。
「もし、あの時、アリッサを捨てなければ……絶対、こんなことにはなっていなかった。あの時、セリーナなんかに惑わされなければ……」
しかし、その後悔はもはや彼を救うことはできなかったのである。
その後、アリッサはワイマーク伯爵領の商業や運輸を伯爵家の直営に移行することを決断した。アリッサは、ギャロウェイ伯爵家で学んだ知識を基に、商業や運輸を管理する「直営部門」を設立した。「ワイマーク商業局」と「ワイマーク運輸局」を設置し、それぞれの部門で専門的な知識を持つ人材を集めることにしたのだ。
アリッサはギルドに所属していた商人や職人に対して、新しい直営体制の下で働くことを提案した。これにより、失業者を出さずに改革を進められ、領地内の混乱を最小限に抑えることができた。
従来の商業地域では商業施設を大規模なワイマーク伯爵家直営店として一新させ、そこには各村で作られた特産物なども並べられた。また、犯罪者として処刑されたシメオンたちのような大商人の壮麗な屋敷は、文化施設やコミュニティセンターに改装し地域の人々にとって有益な場所として再生させた。
こうして、ワイマーク伯爵領全体が活気づき、アリッサのリーダーシップの下で効率化され、商業活動と物流が一元化されたのだった。




