39 サミーの破滅の始まり
「最愛の女性に恐怖を感じさせたかった、とは最低な人間だ。このような男をウィルコックス伯爵のままにしておいてはいけません。爵位を剥奪することを進言します」
「いやいや、彼はシメオンにただ、ワイマーク伯爵夫人を脅かすのに役立つ人材がいる場所を教えただけだろう? そこまで重い処分を求めなくても……爵位剥奪は過剰です。領地を半分に減らす程度が妥当ではないか?」
「いいえ、ダイヤモンド鉱山を没収するのはいかがでしょう? それを国有化するのです。あの鉱山からの莫大な利益こそが、サミー卿を堕落させた原因です。苦労せず富を得ているから、まともな人間になれないのです」
評議会の場には高位貴族たちが集い、次々と持論を述べていった。たが、そのどれもがサミーにとって厳しい処分を求めるものであった。場内は次第にざわつき始め、貴族たちの私語が飛び交い、騒然とした空気が広がっていく。
しかし、その混乱を切り裂くように、アマディーアス・トラスク公爵が澄んだ声で「静粛に」と一喝した。
静まり返った評議会の室内。トラスク公爵は威厳を漂わせながら一歩前に進み出た。周囲の貴族たちはアマディーアスの発言に耳を傾けるため、自然と視線を集中させる。彼の穏やかで落ち着いた声が、緊張した空気を和らげるように響き渡った。
「陛下、そして重臣の皆様、まずはワイマーク伯爵夫人が無事であったことを喜びましょう。今回の件は確かに重大ですが、サミー卿の役割について冷静に判断することも必要です。サミー卿がワイマーク伯爵夫人に物理的な危害を加える意図があった証拠はなく、ただシメオンに情報を伝えたにすぎません。その目的も、夫人を『怖がらせる』程度だったことを考慮すべきでしょう」
一息つき、彼は王に視線を向ける。
「王国は正義と慈悲によって成り立つべきです。サミー卿の行動に反社会的な側面はありましたが、彼の罪は罰金と王都からの一時的な出入り禁止で償われるべきです。彼の爵位や領土を奪うことは過剰であり、我が国の人道的な精神に反すると思います。どうか、ご一考を」
トラスク公爵の言葉が終わると、室内は一瞬の沈黙に包まれた。トラスク公爵の穏やかな態度と理性的な論調は、彼が王と王国に対して忠誠を誓うとともに、国全体の安定と公正を重んじていることを強く印象付けるものだった。その結果、国王の裁可は厳重注意に多額の罰金と1年間の王都出入り禁止となった。
トラスク公爵は情け深く芸術家を保護し多くの貴族たちに尊敬される大貴族だ。国王の実弟でもある。今回の意見もトラスク公爵らしい慈悲に満ちたものであり、高位貴族たちは納得せざるを得なかった。
一方、サミーは予想以上に軽い処罰にほっと胸を撫で下ろしていた。
(罰金なんて、ダイヤモンド鉱山さえあれば痛くも痒くもない。それに、たった一年の王都出入り禁止なんて、すぐに過ぎるだろう)
サミーは、彼に重い処分を求めた高位貴族たちを鼻で笑うように嘲り、王宮内の法廷を後にした。その不遜な態度は、周囲の貴族たちの目に一切の反省の色がないものとして映り、彼への不信感はますます膨らんでいった。
「やれやれ……彼を更生させたいと思った私の気持ちが、完全に踏みにじられたように感じます。非常に残念なことです。どうか神よ、サミー卿に真の悔悟を与えてくださいますように」
トラスク公爵は悲しげな口調で静かに独り言を漏らす。周囲にいた貴族たちはその言葉に深く賛同し、サミーへの怒りを一層強めていった。
「トラスク公爵の寛大な温情すら感謝しないとは! あんな男、地獄に落ちるべきだ」
「あの生意気な態度、許せん。思い切り叩きのめしてやりたい」
「全く同感ですぞ。今に見ていろ、必ず報いを受ける」
サミーが去った法廷は、彼への非難の声で満ち溢れていたのだった。さてその結果、彼のダイヤモンド事業は……




