34 改革への反発
ラインの目は喜びで潤み、アリッサをそっと抱き上げると、細心の注意を払いながら馬車に乗せた。
「これからは、一歩一歩、気をつけて歩くんだ。アリッサの身体はとても大事だから、しっかり安静にしないと……」
そう言って、彼はまだ平らなアリッサのお腹にそっと手を添え、優しく撫でた。
それからしばらくして、アリッサは体調を崩し、吐き気に苦しむようになった。速やかに医者が呼ばれ、慎重にアリッサの身体を診察する。
「これは……おめでとうございます! ご懐妊です」
アリッサは微笑みながら頷いた。
「わかっていたわ。精霊たちが教えてくれたもの。お腹にいるのは若草色の瞳を持つ、とても美しい子よ」
ラインは妊婦に効く薬草を探しては煎じ、こまめに世話を焼いた。彼の心配りは細やかで、アリッサの不調を和らげるために一切の努力を惜しまない。
「これから、お屋敷がますます賑やかになりますね! クリスタル様もいい遊び相手ができて、お喜びになりますわ」
ソフィアも嬉しそうに話し、マルタはお祝いのケーキを作るために張り切って準備を進める。家中が新しい命の到来を待ち望み、期待に胸を膨らませていた。
すくすくとアリッサのお腹の中で子供が育っていくある日の午後、アリッサとラインは庭園のガゼボで静かに寛いでいた。穏やかな陽射しの中、アリッサは愛らしい子ウサギたちが足元に跳ね寄る様子を見て、心が和むのを感じていた。アリッサが一匹の子ウサギの鼻にそっと手を近づけた瞬間、彼女の目の前に幻影が浮かんだ。
そこに現れたのは、若草色の髪と瞳を持つ美しい青年が植物を自由自在に操る姿だった――まさに、未来の息子の姿を思わせるようだった。
「これは私とライン様の成長した息子よね? もしかして、あの草が伸びてサミー卿を森の中に放り投げたのは、この子の力なの?」
驚きのあまり思わず問いかけるアリッサ。すると、七匹の子ウサギたちが肯定するように小さく頷いた。彼女の心には、驚きと共に大きな喜びが広がっていく。その様子をそばで見ていた庭師のグスタフが、アリッサに向かって静かに語りかけた。
「奥様のお子様が若草色の髪と瞳をもってお生まれになるなら、それは精霊の守り人に選ばれた証でしょう。精霊から特に愛され、守られる存在です。彼は緑に愛され、精霊の力を得ることで守られ、同時に彼自身も緑と精霊を守ることになるでしょう」
グスタフの言葉に、アリッサは静かに頷きながら、その未来に思いを馳せたのだった。
新しい命のために、アリッサは改めてワイマーク伯爵領をより良い場所にする決心を固めた。まずは、領民たちの生活の質を向上させるため、工場の女性たちが望んでいた手軽に買える商品開発に着手することにした。
アリッサは庭師のグスタフに協力を仰ぎ、森や村に自生する植物の特性について適切なアドバイスを受けることにした。その結果、カモミールやラベンダーを蒸留して作ったシンプルながらも効果的な化粧水や、カレンデュラやホホバオイルを使用した保湿剤、蜂蜜とカモミールで作る軟膏などが次々と開発された。
これらの商品は手軽な値段で販売が開始され、村に設けたワイマーク伯爵家直営の店で瞬く間に評判を呼んだ。アリッサは、高級志向の貴族向けの商品だけでなく、平民でも手が届く価格帯の医薬品や化粧品を提供することで、ワイマーク伯爵領の人々に喜んでもらいたいと願っていた。しかし、急速な人気の高まりが商業ギルドの目を引き、ついに彼らからの圧力がかかることになった。
ある日、いつものように工場の視察を終えて帰宅したアリッサは、屋敷の前で険しい顔をした一団に出くわした。彼らはワイマーク伯爵領で強い影響力を持つ商業ギルドの代表、シメオン・ギルドーとその随行者たちだった。
「ワイマーク伯爵夫人、少々お時間をいただけますか?」
シメオンは硬い口調でアリッサに声をかけたのだった。
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